2012/12/18 (Tue) at 4:57 am

映画|デッド・インサイド|The Dead Inside

ゾンビ + オカルト + ミュージカル。不思議な食い合わせのインディーズ箱庭的不思議世界のホラー映画。サラ・ラセズダスティン・ファシング。監督トラヴィス・ベッツ。2011年。

デッド・インサイド / The Dead Inside DVDDVD画像

世紀末的な荒野。

さまよい歩く男女ふたりのゾンビが登場。彼らは一軒家にたどりつくが、とある部屋のドアの前で立ち往生する。その部屋に食い物(つまり人間)がいることはわかってるんだが、どうやってもドアが開かないのである。くやしいなあ。こまったなあ。

彼らはゾンビだから頭が腐っているのである。腐った脳ミソ同士で知恵を出し合っても解決策は浮かばない。

という短い前フリは、じつは、小説の中のお話だったのでした。

フィー(サラ・ラセズ)は小説家であり、ゾンビ主題の小説『The Dead Survive』の作者である。この作品は1-2-3と連作が出ており、いまは最新作を書いているんだが、アイデアが浮かばなくて大弱り。哀れなゾンビたちにどうやってめしを食わせてやればいいのか。考えても考えても思いつかない。

余談ですが、ゾンビ小説家のフィーさんのiMacのデスクトップはNOTLDの有名画像です。ああやって気分を高めようとしているんですね。

彼女には同居する恋人がいる。こちらはウェス(ダスティン・ファシング)という男で、彼は写真家。元々はアーティストであるが、いまは結婚式の雇われカメラマンをやっている。それが不満。ま、しかし、愛する恋人と暮らして幸せです。

この映画のキャストはこのふたりだけ。小説世界のゾンビコンビがときおり挿入されるが、そっちを演じているのも、同じ俳優さんである。ゾンビはマックスとハーパーという。ふたり世界のふたり映画です。インディーズぽいですね。

さて、悩むフィーさんは毎日顔をしかめて悶絶するうち、頭がおかしくなってきて、しまいに狂ってしまう。ウェスは深く悲しみ、彼女を助けようとがんばるが、結局、サイコ病院に送るしかなくなった。

悲しい別離のあと、彼女は退院を許された。病みあがりで家に帰るとウェスは喜んだが、彼女のようすが普通じゃないことに気づく。サイコ病院あがりだから普通じゃないのは当たり前だが、なんだか、もっともっと普通じゃないのである。

フィーはオバケに憑依されていた。エミリーという名前のオバケはこの世に未練タラタラで、フィーの肉体を乗っ取ろうとしているのです。ウェスを味方につけようと、あの手この手でウェスを誘惑してくる。

ウェスは試練に立たされる。彼が愛するのはフィーであり、オバケに憑依されたフィーではないのである。だからなんとかオバケさんを説得して出ていってもらわねばならない。彼は愛する女を取り戻そうと、七転八倒するってわけです。

トレイラー動画

The Dead Inside (2011) trailer

感想

トラヴィス・ベッツ監督の前作『Lo (2009)』は、すばらしいインディーズ力作でした。同監督の最新作ということで大期待でしたが、これもよかったなあ。

Lo (2009)』で不思議娘のエイプリルちゃんを演じたサラ・ラセズが再び登場。このひと、きれいで演技うまいよね。相手役のダスティン・ファシングというひとは初めて見ましたが、彼もなかなかよかった。

いちおうホラーですがこわくはないです。幻想ミステリー好きな方におすすめです。

この映画はミュージカルなので、うたを歌う場面がたくさんある。作曲を手がけたのは、ジョエル・ヴァン・ヴリィートていうシンガーソングライター。監督さんはYoutubeで彼のことを知ったそうです。メイキングの中にコラボする場面があるし、コメンタリでも詳しく触れています。

いろんな曲があるけど、たとえば上のトレイラーに出てくる可愛い曲(01:10あたりから始まるヤツ)は『Zombie Apocalypse』という題名です。その内容は「ゾンビだらけの終末世界になったらいいな。そしたらふたりだけで家に閉じこもって、ずっといっしょにいられる。他はなんにもいらない」というノーテンキな曲です。

後から追記。Youtubeに『Zombie Apocalypse』がフルコーラスあった↓

“We have everything we need to survive. And we'll be together the rest of our lives in the zombie paradise.”

追記以上。

このうたを歌っていた頃のふたりは幸せだったんだが、フィーさんが創作にゆきづまり、頭がおかしくなり、オバケに憑依されてしまうとどんどん悲しくなる。『Lo (2009)』のエンディングは泣かせるものでしたが、こちらもtwist好きの監督らしく、意外なオチに着地する。ビターです。あー、感動したー。

サブストーリィのゾンビ話が随所に出る。これはフィーが書いている小説世界ですが、現実世界の暗喩のようであり、鏡の国の出来事みたいに進行します。『箱』が出てくるんだよね。それは、物語を書けなくて悩むフィーにウェスがプレゼントしたものなんだが、ゾンビ話の方にも同じ箱が出てくる。

ウェスはあれを「創作の助けになるんじゃね」とかいってたので、きっと『インスピレーションの源泉』というような意味合いなんだと思うが、それは単に小説のネタというだけでなく、箱の中身は、現実の世界においても、小説の世界においても、残酷な結果をもたらすのです。映画を観終わってから、あの箱はなんだったのだろうと考えると、頭がぐらぐらしました。

ネタバレを書こうと思ったんだが、うまく書けないから断念しました。台詞のひとつひとつが相乗的に絡まって、まるでたくさんの矢が突き刺さるようにエンディングを迎えるのですが、この妙というものを、私、うまくまとめられない。

最後の方で、フィーがエミリーになったり元に戻ったりするんだが、混乱するひとがいるかもしれない。私、思うに、小説を書いている間のフィーはフィーだったんじゃないのかなとおもいますよ。その方がオチと合う気がする。

トラヴィス・ベッツ(Travis Betz)

トラヴィス・ベッツ(Travis Betz) 画像

トラヴィス・ベッツ監督は、話題の新作『Dust Up (2012)』に出演しています。こちらも最近DVDが出ました。近々記事を書くからまた読んでください。

インディーズのホラー映画というのは毎月アホみたいに量産されますが、真の意味でのインディーズ魂をぶつけてくる監督というのは非常に稀少ではないか。トラヴィス・ベッツ監督は、そんな数少ない逸材のひとりではないか。なんて言い切ってしまうくらい好きだなあ。

ここでいうインディーズらしさとは、映画の端から端まで目を光らせ、オレ世界を構築する。そしてそれが創造的な作品として立ち上がっている。という意味です。

余談ながら申し添えると、『The Disco Exorcist (2010)』のリチャード・グリフィン、『Dead Hooker in a Trunk (2009)』のTwisted Twinsジェン・ソスカ + シルヴィア・ソスカ)にも同じようなパワーを感じます。Twisted Twinsはまだひとつしか見てないから早急すぎる気もするが、彼女たちの新作『American Mary』はどのレビューを読んでも期待させる感アリアリなので、希望的観測を込めているのであります。

『The Dead Inside』のサウンドトラック

私、サウンドトラックも買っちゃいました。My iTunes is hot! amazonのページは試聴もできるから、興味のあるひとは聴いてみるといいですよ↓

DVDのオマケ

オマケいろいろあるよ↓

  • Behind The Scenes
  • Deleted Song - What Is Wrong
  • Director Commentary
  • Actor's Commentary
  • Trailer

Director CommentaryにはシネマトグラフィのShannon Houriganというネーチャンが出てきますが、そこでの話によれば、彼女の貢献度が非常に高かったらしいです。

この映画はライティング/撮影技法/美術小物がいちいち凝ってて、ポケーと眺めているだけでも楽しい映像なんだが、そこらへん、このシャノンさんががんばって工夫したそうな。

チラと映るワンシーンだけのために、ランプのシェードにペンキを塗ったとか、うれしそうにしゃべっています。美術さん的な仕事もやってて、なんだか楽しそうです。

映画の中でインクを流したような映像がよく出てくるんだが、これも彼女が考えついたそうな。水槽にインクを流して撮影し、映像をmixしたということで、技法としては単純な部類に入るものなんだろうけど、あれは効果的でよかったよね。

特殊メイクを手がけたのは実績多数のグロアーティスト、トム・デヴリン。彼もメイキングに出てくるよ。

この映画のDVDは字幕ナシです↓

Memorable Quotes

Max: Did you try the handle?

Fi (Emily): I will not go away from now on to Doomsday.

Harper: I'm lost in this body. It's no longer mine. She seems present to me, given my breath, given my heart movement. I am no longer something that can be with you. I am no living dead. Please make me just dead.

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原題: The Dead Inside
制作年: 2011年
制作国: アメリカ
公開日: 2011年7月20日 (アメリカ) (Blue Whiskey Independent Film Festival)
2011年9月23日 (カナダ) (Edmonton International Film Festival)
2012年11月20日 (アメリカ) (DVD)
imdb.com: imdb.com :: The Dead Inside

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