2013/7/3 (Wed) at 10:21 pm

映画|スウィング・オブ・ザ・デッド|The Battery

ゾンビが蔓延する終末世界を旅するコンビを描いたホラー映画。気合いの入ったインディーズ低予算。おすすめ。ジェレミー・ガードナーアダム・クロンハイム。監督ジェレミー・ガードナー。2012年。

スウィング・オブ・ザ・デッド / The Battery DVDDVD画像

ここはコネチカットの山。

野球好きのコンビ、ベニー(ジェレミー・ガードナー)と、ミッキー(アダム・クロンハイム)が、おきらくにキャンプ旅行中。キャッチボールをしたり、魚釣りをやったり、そこらへんに寝転んで空を眺めたり、のんきに野原を歩き回っている。

ある日、ミッキーが「ロトで千ドル当たったよ!」というんだが、ふたりとも全然うれしそうでない。なぜかというと、この世はゾンビが蔓延する終末世界で、お金なんか意味がないからである。

ふたりはゆくあてなくうろつき回り、気分まかせ風まかせで、あっちにいったりこっちにいったりする。人家をみつけると、勝手に入り込んで、食料や必要な物資を補給する。ときどきゾンビがガオーと出てくる他は、誰にも出会わない。

映画が進行するにつれ、彼らの性格の違い、そして、『スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』というタイトルの意味がわかってくる。

サバイバル能力に長けているのは、断然、ベニーの方。ヒゲボーボーの顔は北京原人のようであり、バットを振り回して、ゾンビを殴り殺す姿はいかにもストロングスタイルだが、彼が本当に優れているのは、その楽観的な性格にある。

こんな悲惨な世界に生きているというのに、悲愴感がない。生きていればどうにかなるさ。と思っているみたい。ひとことでいえば、神経が図太い男なのである。こんなベニーさんのポジションはキャッチャー。

対するミッキーは、繊細かつロマンチストかつ悲観主義のピッチャーである。彼はいまの暮らしがいやでたまらない。家族がいて、毎日きれいなベッドで安らかに眠りたい。毎日顔を合わせるのはヒゲボーボーの北京原人という状況が、彼を絶望させる。ゆえに、ヘッドホンをして音楽に逃げ込む。ゾンビが出るとヒャーと逃げる。彼はきっと、バッターを目の前にすると、内角に球を投げられない投手だったのだろう。

キャッチャーのベニーは、有能なキャッチャーらしく、気弱ピッチャーのミッキーを元気づけるのであるが、そのやり方がエグい。彼が寝ている部屋にゾンビを放り込んで「ヤっちまえー!ブッ殺せー!」とドアの外からヤジを飛ばす。なんという鬼コーチぶりであるか。

コンビはしょっちゅうケンカをするんだが、いつも最後には仲直りをして、キャッチボールをする。性格はぜんぜん違うが、ふたりは息の合った『バッテリー』なのである。ここらへんのドラマの描き方がさりげなくうまいです。

ある日、ちょっとした事件が起きる。

ふたりがトランシーバーで遊んでいたらば、偶然に、他の生存者たちの交信を傍受した。「〇〇の誕生日だから映画でも見るか」「なにを見るの?」「トレマーズはどうよ」という男女の会話からして、どこかに生存者のグループの砦があるにちがいない。彼らは映画を観ているのか。すげえなあ。

ミッキーは久しぶりに他の人間の声を聞いて大興奮する。「ハローハロー!ぼくらも仲間に入れてくださいよ!」と頼んでみたが、だめであった。「おまえら、どっかいけ。忘れろ。おれらを探そうとするな」とツレない返事が返ってきた。あー。

北京原人のベニーは「どうでもいいじゃん」てな調子だが、繊細男のミッキーは、アーニーという女の声が忘れられない。『ゾンビ世界で生き延びる女』という設定からして、ミラ・ジョヴォヴィッチミシェル・ロドリゲスみたいな女を想像してしまうらしい。

こんな風に夢を膨らませるのは、いかにもロマンチストの彼らしいところである。ベニーはここぞとばかりにバカにしてケタケタ笑う。「あのなー。おまえが惚れてるアニーてのは、40過ぎのオバちゃんで、ソフトボールのコーチをやってるレズ女だと思うぞ」とかいう。ミッキーは悔しく思う。こんなガサツな男といっしょにいるのはもうたくさんだ!

どっちが正しいのかわからないが、無線を傍受したからといって、位置を特定できるわけもなく、いくらミッキーが会いたいと思ってもどうにもならないのである。

こんなふたりはこの先どうなるんでしょうか。最後は絶体絶命の大ピンチになるんですよ。すごくおもしろいよ。

トレイラー動画

The Battery (2012) trailer

感想

これはアタリ。

当ブログ、自信を以ておすすめであります。おまえがつくったわけじゃないのになにをいばっているんだ。といわれそう。すません。見終えたばかりで、興奮が冷めないのです。

以下、結末のネタバレは書いてないですが、とある衝撃的な場面について触れたので、そこは読まない方がいいと思うので、未見の方はここらへんでストップしてください。

コンビのキャラがすごくいい。脚本はソリッド。

音楽がいい。ときに悲しく、ときに切なく、叙情的に盛りあがる。ぐわーんと胸に迫る。音もいいが、映像もいい。この映画のシネマトグラフィは、じつにサラッと自然体で、よくあるPV風じゃないところがいいのです。

映画の中で流れた楽曲をエンドロールから拾って書き写したので、詳しく知りたい方はそっちを見てください。下の『Songs』てところにあります。

ナニゲにサラッと撮影しているように見えるが、その実、工夫が凝らされていたと思う。車の中に閉じ込められるシーンがたくさんあるが、狭い場所の撮影ってのは、カメラを動かせないから絵が単調になることが多いけれども、そこをアイデアでうまくしのいでいたなあ。

そしてあのオナニーシーン!

繊細男のミッキーさんは、なにをトチ狂ったか、アガガーと襲ってくるゾンビをオカズにオナニーをするのです。相手は若い女のゾンビで、もしゾンビになる前に出会っていたらヤリたくなる相手なのかもしれないが、でもね、ゾンビなんですよ。血塗れだし、目つきはキチガイだし。

あれに性的興奮を覚えるというのはどういう了見であるか。と呆れてしまうが、しかし、彼らが味わっている慢性的な憂鬱というものを想像するとき、ゾンビを前に、チンコを触って、精液を毛布に撒き散らすなんて、絶望世界に生きる悲観主義男にふさわしい行為であるようにも思える。

あれはえもいわれぬ哀しみに満ちた場面でありました。その後にベニーが出てきてケタケタ笑いをするというのも秀逸だった。じつによかった。泣けた。

そして、後半の盛りあがりもじつによい。コンビはおきらくに旅を続けていたが、最後はこうなってしまうのです↓

映画|ザ・バッテリー|The Battery 最後はこうなる

ファンに囲まれて動けなくなったロックスターのようにも見えるが、車の回りはぜんぶゾンビ。逃げたくても、車は動かない。にっちもさっちもいかない状況がえんえん続く。なぜ彼らはこんな目に遭わされているのか。また、この状況をどうやって打開せんとするのか。そこがおもしろいところ。

この映画にケチをつける点があるとすれば、コンビが声しか知らないアニーという女がいったいナニモノなのか、その背景がまったく明かされない、ということかなって思うけど、そこは欠点とはいえない。そこを説明し始めると、この映画のよさが失われてしまう。だからこれでよかったよね。

スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』には、ラリー・フェセンデンがチョロッと声だけ出演している。彼はインディーズの貧乏監督をよくサポートしているけれども、私、思うに、フェセンデンさんが推している監督はアタリが多い。だから、彼が出ているかどうかは映画選びの指標になります。

私はiTunes USで観ました。DVD/Blu-Rayの発売は未定ですが、そのうち出ると思います。

みんなも観よう!

追記。2013年9月15日。

このエントリを書いてから2ヶ月が経ったんだが、未だにこの映画のDVD/Blu-Rayのリリースが発表されない。へんだなあと思ったら、おなじみRottenTomatoesのScott Weinbergさんのこんなツィートが↓

スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』は批評家にもファンにも受けがよく、映画祭で数々の賞を受賞しているのにも関わらず、未だにDVDのディストリビューターがつかないそうです。私は業界のことを知らないのでわかんない部分もあるが、先にVODリリースしたのが障害になっているらしい。

「もっと大きな映画祭に出ていれば、IFCかMagnetあたりと契約できただろう」という文言もあるので、ちょっとやり方を間違えたというか、ツキがなかったんですかね。アダム・グリーンの話を思い出すなあ。「なんでもかんでもフェスティバルに出せばいいというものではないんだよ」てなことをいってたなあ(ココ)。

ま、しかし、これはたいへん結構な映画なので、いつかは出ると思いますけどね。インディーズのひとはたいへんですね。

追記以上。

Songs

There Ain't No Grave (Gonna Hold My Body Down)
by Chris Eaton

B.I.G. E.G.O.
by Wise Blood

Seasonality
by Sun Hotel

Voodoo You
by Sun Hotel

Anthem For The Already Defeated
by Rock Plaza Central

The Time Of The Dragonflies
by The Parlor

Mammoth
by El Cantador

The Wind
by We Are Jeneric

Loud Mouths
by Wise Blood

Darlin' You're Sweet
by Wise Blood

We've Got A Lot To Be Glad For
by Rock Plaza Central

Memorable Quotes

Benny: You're a one pitch bitch, Mickey!

Mickey: You're about as subtle as a fucking sledgehammer.

Benny: This is the saddest game of catch I've ever had.

Mickey: This sound is driving me crazy!
Benny: It's kinda nice, I think. Soothing. Like rain on a tin roof.

Benny: Shut up! Shut up! Shut the fuck up!
Mickey: Like rain on a tin roof.
Benny: Shut up.

Benny: I have an idea. Let's get shitfaced.
Mickey: That's not an idea.
Benny: It's a great idea.
Mickey: How's that gonna help?
Benny: I think we should celebrate.
Mickey: What? What are you talking about? Celebrate what?
Benny: I don't know. Last night on earth, maybe?
Mickey: That's depressing.

Benny: I'm trapped in fucking car and I wish I had air conditioning, baloons, cheese, dynamite, and every Beatles album.

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原題: The Battery
別題: Ben & Mickey Contra os Mortos
Ben & Mickey vs. the Dead
The Battery
Lételem
O Exército de Zombies
Ben & Mickey vs. The Dead
邦題(カタカナ): 『スウィング・オブ・ザ・デッド』
制作年: 2012年
制作国: アメリカ
公開日: 2012年10月13日 (アメリカ) (Telluride Horror Show Film Festival)
2013年2月 (アメリカ) (Durango Film Festival)
2013年3月29日 (フランス) (Mauvais Genre Film Festival)
2013年4月27日 (イギリス) (Dead by Dawn Horror Film Festival)
2013年5月18日 (アメリカ) (Dark Matters Film Festival)
2013年6月4日 (アメリカ) (internet)
2013年9月28日 (カナダ) (Dark Bridges Film Festival)
2013年10月19日 (カナダ) (Toronto After Dark Film Festival)
2013年11月20日 (フランス) (Paris International Fantastic Film Festival)
2014年4月25日 (ドイツ) (Blu-ray & DVD premiere)
2014年9月16日 (アメリカ) (Blu-ray & DVD premiere)
2015年1月24日 (アメリカ) (Boston Horror Show)
2015年2月4日 (日本) (DVD)
imdb.com: imdb.com :: The Battery
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