映画|スウィング・オブ・ザ・デッド|The Battery
ゾンビが蔓延する終末世界を旅するコンビを描いたホラー映画。気合いの入ったインディーズ低予算。おすすめ。ジェレミー・ガードナー、アダム・クロンハイム。監督ジェレミー・ガードナー。2012年。
ここはコネチカットの山。
野球好きのコンビ、ベニー(ジェレミー・ガードナー)と、ミッキー(アダム・クロンハイム)が、おきらくにキャンプ旅行中。キャッチボールをしたり、魚釣りをやったり、そこらへんに寝転んで空を眺めたり、のんきに野原を歩き回っている。
ある日、ミッキーが「ロトで千ドル当たったよ!」というんだが、ふたりとも全然うれしそうでない。なぜかというと、この世はゾンビが蔓延する終末世界で、お金なんか意味がないからである。
ふたりはゆくあてなくうろつき回り、気分まかせ風まかせで、あっちにいったりこっちにいったりする。人家をみつけると、勝手に入り込んで、食料や必要な物資を補給する。ときどきゾンビがガオーと出てくる他は、誰にも出会わない。
映画が進行するにつれ、彼らの性格の違い、そして、『スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』というタイトルの意味がわかってくる。
サバイバル能力に長けているのは、断然、ベニーの方。ヒゲボーボーの顔は北京原人のようであり、バットを振り回して、ゾンビを殴り殺す姿はいかにもストロングスタイルだが、彼が本当に優れているのは、その楽観的な性格にある。
こんな悲惨な世界に生きているというのに、悲愴感がない。生きていればどうにかなるさ。と思っているみたい。ひとことでいえば、神経が図太い男なのである。こんなベニーさんのポジションはキャッチャー。
対するミッキーは、繊細かつロマンチストかつ悲観主義のピッチャーである。彼はいまの暮らしがいやでたまらない。家族がいて、毎日きれいなベッドで安らかに眠りたい。毎日顔を合わせるのはヒゲボーボーの北京原人という状況が、彼を絶望させる。ゆえに、ヘッドホンをして音楽に逃げ込む。ゾンビが出るとヒャーと逃げる。彼はきっと、バッターを目の前にすると、内角に球を投げられない投手だったのだろう。
キャッチャーのベニーは、有能なキャッチャーらしく、気弱ピッチャーのミッキーを元気づけるのであるが、そのやり方がエグい。彼が寝ている部屋にゾンビを放り込んで「ヤっちまえー!ブッ殺せー!」とドアの外からヤジを飛ばす。なんという鬼コーチぶりであるか。
コンビはしょっちゅうケンカをするんだが、いつも最後には仲直りをして、キャッチボールをする。性格はぜんぜん違うが、ふたりは息の合った『バッテリー』なのである。ここらへんのドラマの描き方がさりげなくうまいです。
ある日、ちょっとした事件が起きる。
ふたりがトランシーバーで遊んでいたらば、偶然に、他の生存者たちの交信を傍受した。「〇〇の誕生日だから映画でも見るか」「なにを見るの?」「トレマーズはどうよ」という男女の会話からして、どこかに生存者のグループの砦があるにちがいない。彼らは映画を観ているのか。すげえなあ。
ミッキーは久しぶりに他の人間の声を聞いて大興奮する。「ハローハロー!ぼくらも仲間に入れてくださいよ!」と頼んでみたが、だめであった。「おまえら、どっかいけ。忘れろ。おれらを探そうとするな」とツレない返事が返ってきた。あー。
北京原人のベニーは「どうでもいいじゃん」てな調子だが、繊細男のミッキーは、アーニーという女の声が忘れられない。『ゾンビ世界で生き延びる女』という設定からして、ミラ・ジョヴォヴィッチかミシェル・ロドリゲスみたいな女を想像してしまうらしい。
こんな風に夢を膨らませるのは、いかにもロマンチストの彼らしいところである。ベニーはここぞとばかりにバカにしてケタケタ笑う。「あのなー。おまえが惚れてるアニーてのは、40過ぎのオバちゃんで、ソフトボールのコーチをやってるレズ女だと思うぞ」とかいう。ミッキーは悔しく思う。こんなガサツな男といっしょにいるのはもうたくさんだ!
どっちが正しいのかわからないが、無線を傍受したからといって、位置を特定できるわけもなく、いくらミッキーが会いたいと思ってもどうにもならないのである。
こんなふたりはこの先どうなるんでしょうか。最後は絶体絶命の大ピンチになるんですよ。すごくおもしろいよ。
トレイラー動画
The Battery (2012) trailer
感想
これはアタリ。
当ブログ、自信を以ておすすめであります。おまえがつくったわけじゃないのになにをいばっているんだ。といわれそう。すません。見終えたばかりで、興奮が冷めないのです。
以下、結末のネタバレは書いてないですが、とある衝撃的な場面について触れたので、そこは読まない方がいいと思うので、未見の方はここらへんでストップしてください。
コンビのキャラがすごくいい。脚本はソリッド。
音楽がいい。ときに悲しく、ときに切なく、叙情的に盛りあがる。ぐわーんと胸に迫る。音もいいが、映像もいい。この映画のシネマトグラフィは、じつにサラッと自然体で、よくあるPV風じゃないところがいいのです。
映画の中で流れた楽曲をエンドロールから拾って書き写したので、詳しく知りたい方はそっちを見てください。下の『Songs』てところにあります。
ナニゲにサラッと撮影しているように見えるが、その実、工夫が凝らされていたと思う。車の中に閉じ込められるシーンがたくさんあるが、狭い場所の撮影ってのは、カメラを動かせないから絵が単調になることが多いけれども、そこをアイデアでうまくしのいでいたなあ。
そしてあのオナニーシーン!
繊細男のミッキーさんは、なにをトチ狂ったか、アガガーと襲ってくるゾンビをオカズにオナニーをするのです。相手は若い女のゾンビで、もしゾンビになる前に出会っていたらヤリたくなる相手なのかもしれないが、でもね、ゾンビなんですよ。血塗れだし、目つきはキチガイだし。
あれに性的興奮を覚えるというのはどういう了見であるか。と呆れてしまうが、しかし、彼らが味わっている慢性的な憂鬱というものを想像するとき、ゾンビを前に、チンコを触って、精液を毛布に撒き散らすなんて、絶望世界に生きる悲観主義男にふさわしい行為であるようにも思える。
あれはえもいわれぬ哀しみに満ちた場面でありました。その後にベニーが出てきてケタケタ笑いをするというのも秀逸だった。じつによかった。泣けた。
そして、後半の盛りあがりもじつによい。コンビはおきらくに旅を続けていたが、最後はこうなってしまうのです↓
ファンに囲まれて動けなくなったロックスターのようにも見えるが、車の回りはぜんぶゾンビ。逃げたくても、車は動かない。にっちもさっちもいかない状況がえんえん続く。なぜ彼らはこんな目に遭わされているのか。また、この状況をどうやって打開せんとするのか。そこがおもしろいところ。
この映画にケチをつける点があるとすれば、コンビが声しか知らないアニーという女がいったいナニモノなのか、その背景がまったく明かされない、ということかなって思うけど、そこは欠点とはいえない。そこを説明し始めると、この映画のよさが失われてしまう。だからこれでよかったよね。
『スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』には、ラリー・フェセンデンがチョロッと声だけ出演している。彼はインディーズの貧乏監督をよくサポートしているけれども、私、思うに、フェセンデンさんが推している監督はアタリが多い。だから、彼が出ているかどうかは映画選びの指標になります。
私はiTunes USで観ました。DVD/Blu-Rayの発売は未定ですが、そのうち出ると思います。
みんなも観よう!
追記。2013年9月15日。
このエントリを書いてから2ヶ月が経ったんだが、未だにこの映画のDVD/Blu-Rayのリリースが発表されない。へんだなあと思ったら、おなじみRottenTomatoesのScott Weinbergさんのこんなツィートが↓
If you work for a distributor and you won't look at The Battery because it's on indie VOD right now, you're bad at your job. Straight out.
— Scott Weinberg (@scottEweinberg) September 15, 2013
A distributor like @ShoutFactory or @OscopeLabs would be perfect for The Battery. They're not overly obsessed with VOD rights.
— Scott Weinberg (@scottEweinberg) September 15, 2013
The Battery has played around the world, has won awards, critics and audiences like it ... and nobody wants the DVD rights. Ha. Insane.
— Scott Weinberg (@scottEweinberg) September 15, 2013
Since every distributor wants VOD rights, a cool indie film may not get a DVD release. This is where film critics and film buffs come in.
— Scott Weinberg (@scottEweinberg) September 15, 2013
"I never thought I'd make a movie and then tell someone in Spain or France that they can't watch it." - director of @TheBATTERYmovie, to me.
— Scott Weinberg (@scottEweinberg) September 15, 2013
If The Battery had played at larger festivals, it would have been snagged by IFC or Magnet. But it didn't. So now we have to help.
— Scott Weinberg (@scottEweinberg) September 15, 2013
『スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』は批評家にもファンにも受けがよく、映画祭で数々の賞を受賞しているのにも関わらず、未だにDVDのディストリビューターがつかないそうです。私は業界のことを知らないのでわかんない部分もあるが、先にVODリリースしたのが障害になっているらしい。
「もっと大きな映画祭に出ていれば、IFCかMagnetあたりと契約できただろう」という文言もあるので、ちょっとやり方を間違えたというか、ツキがなかったんですかね。アダム・グリーンの話を思い出すなあ。「なんでもかんでもフェスティバルに出せばいいというものではないんだよ」てなことをいってたなあ(ココ)。
ま、しかし、これはたいへん結構な映画なので、いつかは出ると思いますけどね。インディーズのひとはたいへんですね。
追記以上。
Songs
There Ain't No Grave (Gonna Hold My Body Down)
by Chris Eaton
B.I.G. E.G.O.
by Wise Blood
Seasonality
by Sun Hotel
Voodoo You
by Sun Hotel
Anthem For The Already Defeated
by Rock Plaza Central
The Time Of The Dragonflies
by The Parlor
Mammoth
by El Cantador
The Wind
by We Are Jeneric
Loud Mouths
by Wise Blood
Darlin' You're Sweet
by Wise Blood
We've Got A Lot To Be Glad For
by Rock Plaza Central
Memorable Quotes
Benny: You're a one pitch bitch, Mickey!
Mickey: You're about as subtle as a fucking sledgehammer.
Benny: This is the saddest game of catch I've ever had.
Mickey: This sound is driving me crazy!
Benny: It's kinda nice, I think. Soothing. Like rain on a tin roof.
Benny: Shut up! Shut up! Shut the fuck up!
Mickey: Like rain on a tin roof.
Benny: Shut up.
Benny: I have an idea. Let's get shitfaced.
Mickey: That's not an idea.
Benny: It's a great idea.
Mickey: How's that gonna help?
Benny: I think we should celebrate.
Mickey: What? What are you talking about? Celebrate what?
Benny: I don't know. Last night on earth, maybe?
Mickey: That's depressing.
Benny: I'm trapped in fucking car and I wish I had air conditioning, baloons, cheese, dynamite, and every Beatles album.
ネタバレです
!!!! SPOILER ALERT !!!!
!ネタバレ注意!
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2012年 | |
アメリカ | |
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imdb.com :: The Battery |
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