2014/5/10 (Sat) at 4:57 pm

映画|サクラメント 死の楽園|The Sacrament

カルト宗教団体の共同生活に潜入取材するファウンドフッテージのホラー映画。去年のTIFF話題作。AJ・ボーウェンジョー・スワンバーグジーン・ジョーンズケンタッカー・オードリーエイミー・サイメッツ。監督タイ・ウェスト。製作イーライ・ロス。2013年。

サクラメント 死の楽園 / The Sacrament DVDDVD画像

ここはNY。

ファッションカメラマンのパトリック(ケンタッカー・オードリー)の姉、キャロライン(エイミー・サイメッツ)は、ドラッグ中毒のリハビリ目的でミシシッピに引っ越した後、妙な宗教にカブれてしまい、「げんきでやってるヨ」という内容の手紙を最後に、どこかにいってしまった。

彼女は遠くの田舎で仲間といっしょに共同生活をしているらしい。パトリックは友達ふたりといっしょに姉の様子を見にいくことにした。

同行するのは、NYで最近売り出し中のニュースサイト、VICEのジャーナリスト(AJ・ボーウェン)と、カメラマン(ジョー・スワンバーグ)。彼らは友人として付き添うと同時に、知られざる宗教団体の実態を取材をしよう、という意図もある。

飛行機に乗り、田舎にいって、さらにヘリコプターで移動。はるばる遠くにきたもんだ。着いたのは、道路さえ通じていない大自然のまっただ中だった。

プロのジャーナリストが含まれるとはいえ、彼らは都会の生活に馴れ切ったNY人種だから、こんなところにきたらば、丘に上がったカッパ状態。キョロキョロと見回す恰好は、まったく様にならないヘッピリ腰である。

ヘリの到着地点にキャロラインの仲間たちが迎えにきてくれたが、これが大きな銃を持ったこわい顔の男たちだった。「どうして銃が必要なんですか」と訊いたら「警備上必要な措置である」というが、これじゃテロリストの秘密キャンプみたいではないか。ますますおっかない。

男たちの案内で山道を移動し、やっとこさ、たどり着いたのはEDEN PARISHていう宗教団体のコミュニティだった。不安いっぱいでやってきたトリオであるが、無事にキャロラインさんに会えたら、彼女は思ったよりも元気そうであり、また、中に入ってみたらば、そこはパレスチナの難民キャンプ風ではなく、タリバンの兵士養成所という雰囲気もなく、じつに牧歌的な雰囲気の平和村というかんじなので、ほっと安心した。

しばらくのあいだ、パトリックと友人2名は別行動になる。パトリックは姉と積もる話があるからそっちにいって、残った2名はさっそくカメラを回して取材を開始。

広大な敷地の中には、家が点在し、畑や医療施設があり、人々が思い思いのことをやっている。子供から老人までいろんな人がいる。野菜をつくっていたり、子供たちのめんどうをみていたり。バスケをやっているアンちゃんもいる。彼らは完全自給自足の生活をやっているそうで、その生活は質素で、やや変人ぢみているが、これで幸せならいいんじゃないのという第一印象である。少なくとも反社会的なカルト軍団には見えない。うわべだけなんですが。

彼らの身の上話を聞くと、各人の事情は異なるが、いろんな意味で挫折を経験した人たちが集まり、ここで初めて幸せを見い出した、ということなんですね。

この場所を運営しているのは、ファーザー(ジーン・ジョーンズ)と呼ばれる教祖様のオッサンで、まぁ、あれだ、金正恩みたいにみんなをだまくらかして、へんなカルト王国を築いているってわけです。洗脳ですよ、洗脳。

Father: This is the last sacrament, children.

トレイラー動画

The Sacrament (2013) trailer

本作『サクラメント 死の楽園 (2013)』は製作イーライ・ロス。監督はノリノリの若手、タイ・ウェストAJ・ボーウェンジョー・スワンバーグといったおなじみのメンツが出演している。去年のTIFFにおいて、ロスさんが6年ぶりに監督を手がけた『Green Inferno』といっしょにプレミアされ、ズダーンと話題をさらった。「ロスさん・オン・ステージ!」の映画祭だったといえよう。

Green Inferno』についてはこちら↓

ふたつの話題作を映画祭にもってきて、みんなを喜ばせておいて、さらに『Green Inferno』の続編製作を発表するというのは、宣伝上手なロスさんらしい華麗なやり口である。同映画祭で彼と同等にセンセーショナルだったのは、園子温の『地獄でなぜ悪い』だけだった(他にも色々話題作があったけど、私の周囲ではそんなかんじだった)。

だからこの映画は観る前から期待度MAXだったけれども、見てみたら、思ったよりそうでもなかった。つまらないってことはないが、いや、恐怖を煽る点はうまくつくってあると思うが、教祖様の描き込みが決定的に足りないのではないか。だからあまりおそろしさが伝わってこなかった。

日本人ならこれを見たらば、誰もがオウム真理教を思い出すだろう。彼らは富士山の山奥に広大な施設を所有し、サリンを製造するだの、ロシアから武器を密輸しようだの、まるでショッカーのような悪巧みをしていたのである。警察の調べが進んだら、首謀者、松本智津夫てのは、グルとか呼ばれて霊能者気取りだったが、フタを開けたらとんだインチキ野郎だったとわかって日本中がびっくりした。

サクラメント 死の楽園 (2013)』に出てくるファーザーなる男もへんなユートピアを説いて、人の心の弱みにつけ込んで、みんなを洗脳するんだが、ポスターのメガネオヤジはじつに北朝鮮風なんだが、実際のところ、彼はどんな野郎だったのか。いかなる心の闇が存在したのか。私はその部分に着目したが、残念ながら、この映画では教祖様の心理描写は極めて『雑』である。描かないことによって描こうとしたんですかね。そこを読みとれない私の鑑賞眼がタコなのか。という可能性もあるわけだが、私にはそこまでの深い意図は感じられなかった。

この映画は1978年に実際に起きた事件、Jonestown Massacreを下敷きにしているそうだが、昔の事件のうわっつらだけをなぞってつっくたよという風に思えた。

Green Inferno』を見て感激したBDさんのこのお言葉を再び引用したい↓

The Green Inferno finds Eli Roth at the absolute top of his game. He is exactly where he belongs; on the director's chair.

イーライ・ロスは絶好調。この男はやっぱりディレクターチェアに座っていなくちゃ。

そう。やはりこの男は本来の映画監督の仕事に精を出してくださいよと思った。『ラスト・エクソシズム2 悪魔の寵愛 (2013)』も不発だったしなあ。『サクラメント 死の楽園 (2013)』は私にはグッとこなかったが、『ラスト・エクソシズム2 悪魔の寵愛 (2013)』よりはずいぶんましである。

Children of Sorrow (2014)』の方がおもしろいんじゃないの

サクラメント 死の楽園 (2013)』と同時期に極めて類似した内容の映画『Children of Sorrow (2014)』てのが出たんだが、こちらは話題性予算共にグッと小規模で、ロスさんの宣伝バズ能力には到底かなわない小さな映画だが、私はこっちの方がよかったと思う。これはパクリ映画のようだが、パクリじゃない。たまたま同時期にカブッただけ。

カルトにハマった妹を心配して潜入を試みる主人公という設定は同じだが、こちらは若い女ひとりぼっちなんですよ。だからスゲーどきどきする。彼女は教祖様のインチキを知り、妹の死の真相を知るんだが、復讐をやるのかと思いきや、逆に洗脳をされちゃう。おもしろいじゃん。そして、『Children of Sorrow (2014)』においては、『サクラメント 死の楽園 (2013)』で描写が薄い部分、教祖様がいかにいかがわしくて、インチキな野郎かという点が興味深く描かれている。ふたつの映画はやることは似てるが、描写が違う。

余談だが、『Children of Sorrow (2014)』の教祖様は別のファウンドフッテージの新作映画『デス・チャット (2013)』ていうのに、カメオ出演(?)をしています。

これがアメリカ流のカルトなんですかね

サクラメント 死の楽園 (2013)』と『Children of Sorrow (2014)』のどっちがおもしろいかはさておき、ふたつの映画には、私には意外に思える共通点がある。いずれのケースにおいても、宗教団体を名乗っているものの、教義を説法したり、修行をやったりするような場面はぜんぜんないという点である。教祖様が宙に浮かんだり、火の上を歩いたりもしない。宗教臭いワードはチョロッと出てくるが、その実態はヒッピーコミュニティのノリに近い。

こんな生活をやれといわれたらたいていの人は尻込みするだろう。しかし、人生に挫折して行き場を失くした人々、借金で首が回らないとか、ひとりぼっちになってしまったとか、そんな人々にとっては大きな誘惑だろうし、もしこれが言葉通りのユートピアであるなら、一定の救済場として機能するだろう。映画の中でAJ・ボーウェンが演じたジャーナリスト男が、「ずっとここにいろといわれたら嫌だけど、期間限定で住むのならアリかも」なんて第一印象を述べていた。わかる心理である。修行だの教義だのなんてものはないから染まりやすいように見える。

コレってアメリカのカルトの特徴なのかなって思ったけれど、直接的にしろ間接的にしろ、私はこういう人たちに出会ったことがないから、これがアメリカ流なのかわからないけれども、とにかくアメリカ人というのはめんどくさいことを嫌う人種なので、こんなものなんだろうと思った。

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原題: The Sacrament
別題: Sveta Tajna
O Último Sacramento
Ο Παράδεισος του Διαβόλου
Таинство
Ayin
邦題(カタカナ): 『サクラメント 死の楽園』
制作年: 2013年
制作国: アメリカ
公開日: 2013年9月2日 (イタリア) (Venice Film Festival)
2013年9月8日 (カナダ) (Toronto International Film Festival)
2013年9月20日 (アメリカ) (Austin Fantastic Fest)
2013年10月15日 (イギリス) (BFI London Film Festival)
2013年11月1日 (アメリカ) (Savannah International Film Festival)
2013年11月9日 (アメリカ) (AFI Fest)
2014年4月5日 (アメリカ) (International Horror & Sci-Fi Film Festival)
2014年4月11日 (アメリカ) (Dallas International Film Festival)
2014年4月26日 (アメリカ) (San Francisco International Film Festival)
2014年4月26日 (アメリカ) (Stanley Film Festival)
2014年5月1日 (アメリカ) (internet)
2014年6月6日 (アメリカ) (limited)
2014年6月8日 (イギリス)
2014年10月11日 (フランス) (Absurde Seance)
2014年11月6日 (ドイツ) (DVD)
2015年11月21日 (スペイン) (Barcelona premiere)
2015年11月28日 (日本)
imdb.com: imdb.com :: The Sacrament
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
セット制作
衣装デザイン
視覚効果(Visual Effects)
特殊効果(Special Effects)
Makeup
謝辞

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