映画|The Upper Footage (UPPER)
壮大なペテンをやらかしたファウンドフッテージのホラー映画。監督Justin Cole。2013年。
ここはNY。
2009年12月。
ジャッキーという若い娘が、金持ちの遊び人連中といっしょにバーから出ていって姿を消した。
1年後。
Youtubeにジャッキーのその後の様子を映したと思われるビデオがアップロードされた。タイトルは『NYの遊び人のOD(NYC Socialite Overdose)』。
その内容はタイトルが示す通り「若い男女がヤクでラリラリ」というものなんだが、人物の顔にはモザイク処理がなされ、アプロード者の脅し文句「お金を払わないとモザイクナシのビデオをアップするぞ」が添えられていた。
動画はすぐに削除されたが、他のサイトにドドーと拡散。数日で80万PVを記録。人々の関心を呼び「こいつらは誰だ?」と話題になり、NYの悪名高い遊び人のBlake Penningtonと、ビデオブロガーのWill Erixonが関与しているのではないかとの噂が広まった。このふたりは1年前から姿を消している。Penningtonの家族はアプロードした者に金銭を支払ったとされ、この話題は収束したかに見えた。
5ヶ月後。
さらに2本の動画がアプされた。前回と同様に人物の顔にモザイク処理がなされ、同じような恐喝文句があった。Penningtonの家族が支払いに難色を示すと、メディアに火が点いた。
ビデオに出てくるラリラリ娘はハリウッドのセレブなのではないかとの憶測が広まり、女優のチェルシー・ケイン、マイリー・サイラス、 デミ・ロヴァートといった方々の名前が出て大騒ぎ。Entertainment Tonightはトップ扱いでこれを取り上げた。他の大手ゴシップメディアも食いついて、スキャンダルを報じたが、ぜんぶガセだった。
次に別の噂が出た。こんどは「クエンティン・タランティーノが問題の動画を手に入れ、彼はこれを元に新作をつくろうとしている」なんていうからまたまた大注目。
この映画はNYの劇場で上映されると告知されたんだが、twitterで非難轟々。「人間の死を娯楽にすんな!」つって、集中砲火を浴び、スクリーニングは取りやめになった。
ここまでが前置きです。
この度、警察の捜査が済んで、何が起きたのかが明らかになった。以下は警察が証拠として押収したホームビデオの編集版です。我々は、遺族の了解を得て、公開に踏み切った。プライバシーに配慮し、ジャッキーの顔にはモザイクがかけられています。それではご覧頂きましょう。
はじまりはじまり。
4人の金持ちアーパー連中は、来る日も来る日もパーティ三昧ヤク三昧sex三昧。ある日、彼らはジャッキーなる娘をバーで拾って、いつもの調子でパーティに連れていき、おもしろがってヤクをしこたま吸わせたら、ジャッキーさんは具合が悪くなり、ゲロを吐き、ドテッと死亡。残った連中は青くなる。ジタバタした末に、死体を隠そうとする。大馬鹿野郎どもの夜の生態が記録されたファウンドフッテージ映画です。
トレイラー動画
The Upper Footage (UPPER) (2013) trailer
『The Upper Footage』は壮大なペテンだった
この映画の監督、Justin Coleは、周到にビデオをこしらえ、youtubeにアプした。んで、「ジャッキーなる女が行方不明になったらしいよ」というニセの情報を流した。大手のゴシップ系メディアが食いついた。
この映画にはニュースの映像やゴシップ系サイトのスクリーンショットが出てくるが、これらは本当にそのように報じられたものだそうな。映画によくあるモックアップ映像じゃないんですよ。つまり、お話は嘘なんだけど、報道されたのは事実なのです。Entertainment Tonightの映像は本物↓
Entertainment Tonight- Chelsea Kane denies...
以下は2013年3月にDread Centralで公開された監督本人の告白メールです。なかなかすごい↓
リンク元はかなり長文だが一部を引用↓
I want to start this off by thanking everyone for all the support from the start but like all things in life, this is coming to an end. With much hesitation I am officially announcing that "The Upper Footage" is not actually real. All of the media and hoopla around it is in fact real but as for the film actually depicting a young girl’s death and cover-up, it does not. I knew I would have to come out about this eventually but I was hoping a few more people would be able to experience it as-is beforehand.
My goal when I started this project years ago was to make a found footage film that really went for it as The Blair Witch Project did back in 1999. I remember being 13 at the time and watching the film in awe, wondering if it was actually real. Since then nothing has come close to capturing that, and a lot of that has to do with the fact that we live in the Google era where things can be proven/disproven instantly (also due to the fact that pretty much every found footage film involves monsters and ghosts). Along with that, I wanted to make a "found footage" film that was topical. I feel like the genre still has so much potential that has yet to be explored.
My intention wasn’t to fool people for the sake of fooling them but to give them an experience where they could leave a movie theater, discuss the film, wonder if the footage was real or not and if something like this could/does happen. Even though I wasn’t able to do that on the scale I had originally hoped, I am happy that I was able to do it.
まずは、この企画に協力してくれた方々に感謝を述べたい。人生のすべてがそうであるように、物事には終わりがやってくる。誠に残念ではあるが、本日、『The Upper Footage』は嘘だったと公式に発表します。女性が死んだ話はぜんぶつくりごとだったのでした。しかし、これにまつわるメディアの大騒ぎは、本当に起きたことです。ぼくはいつかこの日がくると思っていたけれども、できればもう少し長引かせたかった。
この企画の発端は、数年前に遡る。その目的は「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト (1999)』みたいなファウンドフッテージ映画をつくること」だった。当時、13歳だったぼくはあれを観て「ほんとうなのかな」と心臓バクバクだった。以来、あれほどの衝撃を味わったことはない。現代の我々はGoogle社会に生きている。ネットで検索すれば、直ちに答えを得られる(加えて、今日のこの種の映画にはモンスターやオバケが出てきて、容易につくりものであるとわかるようになっている)。こんな世の中において、ぼくはtopicalな(註)ファウンドフッテージ映画をつくろうと思った。このジャンルは未開拓の部分がまだ残されているんじゃないか。
ぼくは観客をバカにしたかったわけではない。この映画を観てくれたひとたちが「まさか?ほんとに?」と思ってもらうことが重要だったのである。ぼくが意図した通りにいかなかった部分もあるが、ともかくも、これだけのことが実現できたというのは喜びである。
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※"topical"は適当な訳語が思いつかなかったので原語のまま書いたが、私的には『メディア性のある』というような意味かなと思われる。
Dread Centralの記事はたいへんおもしろいから、全文を読むことをおすすめします。
彼はファウンドフッテージのおおまじめな原点に立ち返り、人々を「ほんとなのかな」ていうきぶんにさせたかった。そのために手の込んだペテンをやらかしたてことなんだそうです。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト (1999)』の話は、日本人にはぴんとこないかもしれない。好き嫌いはおいといて、あれを「本当なのか」と信じる心理というのは理解しづらいが、これは公開時の宣伝の仕方の違いによるのだと思う。そこを『食人族』『グレートハンティング』『川口探検隊』『矢追純一のUFOもの』あたりと置き換えてみれば、彼のいう意味がわかるんじゃないかな。私も子供の頃にはこの手のヤツをほんとかなって思いながら見ていたからすごくわかる。
今日のファウンドフッテージ映画は「つくりごとと承知して楽しむ」という鑑賞が一般的である。誰もそこを疑わないし、ひとつのお約束として機能している。そこをひっくり返して原点回帰をやってみた。という映画です。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト (1999)』では、ネットを使った宣伝が多用されたが、いまの世の中で同じことをやってもすぐに嘘だとバレるんで、そこを苦労して、協力者も集めて、何年もかけてネタを仕込んだ。ネット時代のウィリアム・キャッスルというひともいる(私自身はちょっとちがう気がするが、おもしろいという点は同意する)。
日本でもネットのガセネタがニュースで流れてしまうというハプニングがときどきあるけど、これほど壮大なペテンというのは聞いたことがないですね。
『The Upper Footage』はおもしろいか?
@TheUpperFootage Here's the translation of what I posted: "The Upper Footage is a found footage film which reminds me of Oshio case."
— Hiro Fujii (@horrorshox) January 21, 2014
はっきりいって『The Upper Footage (UPPER) (2013)』は映画としてはつまらない。映像はガシャガシャのボケボケだし、出てくるやつらは阿呆ばかりだし、大したオチがあるわけでもない。強いて良い点を挙げるとすれば、そのリアリティである。いかにもほんとくさい。この連中を眺めていると暗澹としたきぶんになってくる↓
「こいつらは年を食ったら親が決めた結婚相手と結婚し、親族が経営する大企業の重役におさまるか、政治家になるかして、40を過ぎる頃になったら、アメリカという国の中枢、UPPERな地位にのさばっていることだろう。あぁ、おそろしや」
そんな風に考えれば少しは意味があるのかもしれないが、でもやっぱりつまらない。阿呆な不良の生態をつぶさに観察したいと考える人は少ないだろう。観客は観客であって、証拠を検分する刑事ではないのだから。
しかし、上に述べたような背景を考えれば、かなり見方が変わるのではないか。Justin Coleというひとは、映画をつくったのではなく、『現象』をこしらえたといえるのではないか。
上にリンクしたDread Centralの記事を読むと、もうひとつ動機が挙げられている。それはいわゆるゴシップ系ニュースサイトをだまくらかして一泡吹かせてやれという話で、よく芸能人がいうじゃないですか。「あいつらは嘘ばかり書く」って。ほんとにそうなのかな。ってことを確認したかった。と書かれてある。結果、Entertainment Tonightは見事に釣られた。
Justin Coleのやったことを『幼稚ないたずら』と考えるか、あるいは『現代のメディアに一石を投じた』と考えるかは、観客の自由である。だが、早急に判断を下す前に、Dread Centralの記事を精読することをお勧めします。また、ネットで検索するとたくさん記事が出てくるから読むといいですよ。映画よりもこっちの顛末の方がおもしろい。
告白メールの前半は『この映画をつくった動機』で、後半になると、製作中に起きた出来事を赤裸々に語っている。中でもおもしろいのは、「ジャッキーを演じた女優はハリウッドの大物俳優の娘である」という話で、最初のうちはよかったんだが、いざ公開が迫ると、その内容ゆえに、親から「修正しろ」と横ヤリが入って、てんてこまいさせられたそうな。話し合いの末に、ジャッキーの顔にはモザイクがかけられた。女優の名前は明かされておらず、この先も秘密のままである。
名のないインディーズ監督がハリウッドのえらいさんに潰されかけた、という話が陰謀論的に語られており、それはまさしく、暗喩として締められている。映画の中では、金持ち遊び人のPenningtonの家族が恐喝者にカネを払い、ビデオ流出を差し止めたってことになっているが、事実においては、ハリウッドの大物が娘を隠すために陰で動いたと。だからUPPER。
うまくオチをつけているではないかと感心するが、こんなペテン映画をつくるヤツがいうことだから、なんだかいかがわしい。そこがおもしろいところでもある。映画がいい悪いの話じゃないって気がする。この現象をどう見るか。みたいな。
こんなのをやってみたらおもしれー。と想像するのは簡単だが、実際にやるのはたいへんじゃん。俳優を雇って、いろんなひとを巻き込んで、お金を使ってつくるんですよ。ひがなPCの前に座り込んで、掲示板にうだうだと書き込んで、ニタニタしているだけじゃないのですよ。こういうことをおおまじめにやる姿勢はいいと思いますね私は。もっとやれやれ。
最後にコレを引用↓
Justin Cole “On a positive note I would like to give a shout out to TMZ for not buying any of it, and not touching us at all (even though we tried).”
「TMZはえらい。こっちがどんなにネタを流しても、彼らだけは食いつかなかった。触れようとさえしなかった」
ただいま6ドルでVODレンタル中
『The Upper Footage (UPPER) (2013)』はvimeoでレンタルVODやってます。6ドルで観れるよ↓
English Review
Generally speaking, audience don't need to hear the director's voice (interviews, behind the scences) to enjoy movies. We audience have the right to say whatever, it is good or bad, I like it or I don't like it, just simply from what we felt. Right?
However, in this case, I thought knowing background of this film is so important to review it. After watching "The Upper Footage," I googled and read several articles and soon later, found this.
It is long! It required a lot of patience to read whole words for me who's an English learner, but it was worth to read. Very interesting. Now I know why/how the director did it. Several questions popped up in my mind after reading it. Part of me feels like I'd ask him directly but I'll leave it as it is for now because even though I could get answers I'll start to wonder something and it'll call for another question. Seems endless.
Honestly saying, I cannot say the movie itself was joyful to me. Only thing I can think of positively is that it *looks* so real. However, knowing the process of its production, I'd see it as he had successfully created "a phenomenon" in this society, he had put his vast energy for years and tried to involve people. From what I learned about him around the websites, it's not just a film, it means more, which truly attracts me as an audience so I'm pretty much looking forward to seeing his next project. What I'm saying may not sound like, oh I like the movie, in normal way, but believe me, I enjoyed it.
It was unfortunate that I wasn't able to watch this film as the director intended, like wondering if it is real or not. As he mentioned at the article of Dread Central, I can instantly know what's all about while watching movies by Google. In next, I'll jump on his film as soon as possible so that I can feel as he wants the audience to feel.
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The Upper Footage (UPPER) | |
2013年 | |
アメリカ | |
2013年1月31日 (アメリカ) (limited) | |
imdb.com :: The Upper Footage (UPPER) |
- Tiffany Baxter [imdb] (producer)