映画|パラノーマル・エクスペリメント|Banshee Chapter
人間の感覚を狂わせてヒデー目に遭わせる謎の薬物!政府の陰謀!極秘実験!モキュメンタリなホラー映画。カティア・ウィンター、テッド・レヴィン、マイケル・マクミリアン。監督ブレア・エリクソン。製作ザカリー・クイント。2013年。
1963年。
アメリカ政府は、人間のマインドコントロール能力を誘発する目的で、『MK-ULTRA』なる非人道的な極秘実験を始めた。
なにも知らない一般市民を対象に、DMT(Dimethyltryptamine)なる謎の薬物を投与した結果、予期せぬ事態が起きた。この実験は長期に渡り実施され、各地の研究施設や病院で、多くの市民がヒデー目に遭った。
という過去の秘密がクリントン政権下で明るみになり、大統領は公式に謝罪した。また、当時実験を行った科学者たちも、渋々ながらといった口調でインタビューに応じた。
映画の冒頭で昔のアーカイブ映像が出てくるが、断片的な情報が多く「ひどいことが起きたんですよ」というばかりで、結局のところ、なにがどうなったのか判然としない。被験者たちは一様に「『なにか(entity)』を見た」というのだが。
現在。ここはネバダのどっかの家。
ジェームズ・ハーシュ(マイケル・マクミリアン)なるアンちゃんが登場。彼は文筆家を志す、好奇心旺盛な青年である。この男は独自のルートでDMTなる例の薬物を手に入れた。友達レニー(Alex Gianopoulos)を家に呼び、ビデオカメラを持たせ、「これから起きることをぜんぶ記録しろ」と頼んだ。
ジェームズはカメラの前で「ぼくはこの薬物をコロラドの友達からもらった」と述べ、ごくごく飲んじゃう。彼は「これを飲んだら何が起きるんだ?」という点を、自分の目で確かめたかったのである。バカなのか勇気があるのかわからない。たぶん両方なのだろう。
薬を飲んだらしばらくは何も起きなかったが、やがてへんな音楽がピロピローって聞こえて、なんだと思ったら、ラジオが勝手に鳴っていた。よく耳を傾けたら、意味不明な旋律に混じり、へんな言語でへんな数字を読み上げるへんな声が聞こえた。きもちわるーい。
その後の出来事は判然としない。うわーと悲鳴が聞こえ、映像はガチャガチャと乱れたのち、ジェームズの奇怪な狂顔がチラと映った。ギョェエ。記録ビデオはそこでおしまい。
この日を境に、ジェームズは行方知れずになった。警察はレニーを厳しく尋問したが、彼はなにも答えられず、かといって死体があるわけでもないから罪に問われることはなく、釈放されたんだが、不思議なことに、レニーもその後まもなく姿を消した。彼はビデオを回していただけで、DMTを飲んでいない。だからますます不思議である。
後日。
アンさん(カティア・ウィンター)というカワイコちゃんが登場。彼女は消えたコンビの大学時代の友達であり、特に、ジェームズとは親しかった人物である。学生時代、ふたりはいっしょに創作をしたり、文学や映画について夜遅くまで語り合ったりした。でも、恋人という関係ではなかった。
卒業後、ジェームズは小説家を志し、アンさんはジャーナリストになると決めてニュースサイトをやってる会社に就職した。ふたりは各自の道を選んで、あっちとこっちにいっちゃったから、以後は会わなくなった。
彼女はながらく疎遠だったジェームズとレニーが行方不明になったと知り、独自調査を始める。いまはバリバリのジャーナリストだから、これは立派な仕事でもある。
アンはジェームズの家にいった。そこで、『MK-ULTRA』に関する資料、実験のビデオテープ、そして、『コロラドの友達(friends in Colorado)』なる人物からの手紙を発見した。ジェームズはコロラドの友達からDMTをもらったという話は、失踪直前に撮影されたビデオの中の話と一致する。こいつは誰だろう。
アンは例の意味不明なラジオ音について調べ回り、怪しいラジオライフ系のオッサン(William Sterchi)から、それは『Numbers Stations』というもんであると教わった。無線マニアの間では昔から有名な謎の短波ラジオ局なんだそうな。意味不明な数字を不定期に流している。その意味はわからないし、誰がなんの目的でやってるのかもわからない。
彼女は電波の発信源を調べ、同時に『コロラドの友達』についても調査するんだが、これについてはさっぱりわからない。したら、賢い上司(ヴィヴィアン・ネスビット)が的確なアドバイスをくれた。
トーマス・ブラックバーン(テッド・レヴィン)は70年代に売れた小説家。ハチャメチャな行動が有名で、逮捕歴があって、熱狂的なファンを持つ。『Friends in Colorado』はブラックバーンの著作の題名であり、彼が好んで使ったサインだった。
てわけで、アンさんは勇んでブラックバーンに接触を試み、「あんたはジェームズにへんな薬を送ったのか?」と取材をしようとするんだが、会ってみたらば、これが噂通りのハチャメチャオヤジだった。彼女はヒーヒーいわされる。
チャールズ・ブコウスキーとアレン・ギンズバーグを合体し、ライフルを持たせ、暴力過激マインドを注入したらこうなった。みたいなかんじ。彼はかつてインタビューされたとき、レポーターの言動に腹を立て、そいつを椅子に縛ってプールに放り込んだことがあるそうな。ははははははは。このオッサン、スゲーおもしろいよ。
あとは映画を観てください。これでまだ中盤です。この後、アンとブラックバーンはコンビとなり、政府の極秘実験の謎を解明していくのです。
追記。私『コロラド』を『オクラホマ』と書いてしまっていました。すません。直しました。教えてくれたtwitter@yukki_lollolさん、ありがとう!追記以上。
トレイラー動画
The Banshee Chapter (2013) trailer
感想
BANSHEE CHAPTER is frightening! Loved Ted Levine! I was a bit irritated by the ending, wish it could be more explained. But still enjoyable
— Hiro Fujii (@horrorshox) January 26, 2014
よかったところ↓
- 驚かせ演出がたいへんうまい。ギョギョギョ。
- 政府陰謀系の設定がじつに私好み。
- 暴力小説家のブラックバーンさんがおもしろすぎる。
- 音楽がいい。
悪かったところ↓
- きちんと謎を解明してほしかった。
- MK-ULTRA、関係ないんじゃ?
陰謀系の設定はかなりおもしろい。謎のラジオ局とか、へんな小説家のオッサンとか、スゲーいい。無線マニアのオヤジが過去にNSAに雇われていたなんて、じつにツボである。アイデアが活き活きと飛び跳ねているかんじだ。わくわくしたー。
色々と疑問点がある
以下はちょっと文句。ていうか疑問です。結末は隠したが、色々と書いたので、頭カラッポでご覧になりたい方は、ここらへんでストップしてください。
最近のホラー映画は「わかんない部分はあんたらが想像しな」と謎を残す系が多いが、『パラノーマル・エクスペリメント (2013)』もそのほうのヤツである。DMTなる薬物を投与すると何が起きるのか。これを文章で説明するのはむずかしい。普通のホラー映画みたく、ゾンビになっちゃうとか、そういうのじゃないのである。
DMTを飲むと、脳が受信装置となり、謎の短波局が流す謎の数字の羅列が聞こえるようになり(脳でなにかが分泌される?)、人間の感覚に影響を及ぼし、得体の知れないなにか(entity)が見えるようになる。それは幻などではないらしい。そいつはグワーと人間を襲ってwear(憑依とは違うのかな)しようとする。んであっちの世界(どこなのかわからない)に引っぱりこまれる(ここらへんはラブクラフトの原作の雰囲気が少しある。原作については後述)。
ていうんだが、DMTを飲まなくてもへんな風になるヤツもいたのはなぜなのかわからない。また、最後に明かされるアレ、〇〇は被験者だったという話は驚きの事実だが、しかし、だからといって、それが明かされて謎が解けるというものでもない。
主人公のカワイコちゃんは大ピンチの末に救出され「もうこりごりだ」と泣き顔になったけれども、これがモルダー捜査官なら、ますます闘志を燃やし、しぶとく調査を続けたはずである。もうひとがんばりしなさいよ。といいたくなった。
また、上に書いたように、MK-ULTRAはあんまり関係ない気がする(DMTというのはいちおうあっちでも出てくるけど)。これはかつて実在したCIAの非人道的な人体実験だが、相当の規模のプロジェクトだったそうなので、映画の題名である『The Banshee Chapter』は、MK-ULTRAに含まれるひとつのチャプターっていう意味なのかなと思った。映画の制作者はMK-ULTRAの記録を精査してこれをつくったのだろうか。それならなおさら明確な説明をしてほしかった。
この映画はモキュメンタリだが、全編がそれではない。カワイコちゃんが出てきたあたりから、普通の映画のつくりになる。ところどころで実験のビデオやらセキュリティカメラの映像なんかが出てきて、彼女はそれらを検分し、謎解きに取り組む。
という手法ははいいが、ネーチャンがひとりでドライブしている場面はへんだった。意味なくホームビデオ映像になり「わたしは彼のことを好きだったのかしら」などと、おセンチな台詞をしゃべったりするのである。あのような自分撮りを取材してどうするんだ。この娘はちょっと頭がおかしいのではないか。と思ったが、あれは単に「とりあえずPOV風にしとけ」という制作者の嗜好なのだろうと思った。
ここらへんからして、あんまり深く考えてねーな、という気がするので、上に書いたMK-ULTRAについても、「そのワードを入れておけば、陰謀好きな映画ファンは食いつくだろう」という安易な着想に基づくのではないかと私は邪推する。
なんて思ったが、私はなにか見落としているのだろうか。もしかして高度に隠し味を散りばめて構築された映画なのだろうか。たぶんそんなことはないと思う。
と、まァ、いくつかの文句はあるが、驚かせの演出はなかなかのもんである。タイミングがうまくて驚いた。興味のある方はご覧になってみてください。
※モルダーを思い出したのは、タンクの場面のギョギョギョがXファイルのこれに似ていたからだと後から思った↓
原作はゆるーくラブクラフト
『パラノーマル・エクスペリメント (2013)』の原作はラブクラフトの短編小説『彼方より (From Beyond)』とクレジットされているが、これは小説の映画化というより、かなりゆるめのadaptationである。原作はこんなお話↓
クロフォード・ティリンギャーストなる男が『へんな機械』を発明する。それは『われわれのうちに退化したものか痕跡器官としてのこっている、まだ存在さえ認められていない感覚器官に作用する、ある種の波長を生みだす』なんだそうで、心配して家に訪ねてきた友人を相手に、うれしげにこんな話をする↓
「よく聞くんだぞ。この機械から出る波長が、われわれのなかで眠っている無数の感覚を目覚めさせているんだ。独立した電子の状態から、有機体としての人間の段階に至るまでの、悠久の歳月に渡る進化から、われわれがうけついでいる感覚を目覚めさせているんだ。ぼくは真実の姿を見た。それをきみにも見せてやるつもりだ。どんなものだかわかるかね。教えてやろう」
「きみがいまもっている感覚器官が - まず耳だが - 眠りこんでいる器官に密接に関係しているから、印象の多くをひろいあげるだろうな。ほかの印象もひろいあげるだろう。きみは松果腺のことを聞いたことがあるんじゃないか。浅薄な内分泌学者、フロイト派のなりあがり者や莫迦には、笑いがとまらないね。松果腺は感覚器官のなかで最もすぐれたものなんだ。ついにそのことをつきとめたのさ。結局のところは視覚のようなもので、映像を脳に伝えるわけだ。正常な場合、そうして印象の多くをひろいあげるのさ... もちろん彼方からの印象ということだがね」
(翻訳: 大滝啓裕)
こんなキチガイじみた台詞をべらべらとしゃべって、機械がもたらす効果を友人に披瀝する。人間の五感では知覚できなかった感覚が身に染み渡り、友人はおそろしい目に遭う。
ラブクラフトの『彼方より』にはCIAもジャーナリスト女も出てこない。映画はこの小説からヒントを得たという程度のものなので、映画を観る前にこれを読まなくてはならないというほどのもんではないが、短いお話だからすぐに読めるし、他にもおもしろいヤツが収録されているから未読の方はどぞ↓
余談だが、スチュアート・ゴードンの『フロム・ビヨンド (1986)』もラブクラフトの『彼方より』を題材にしているが、これもゴードンさん流の解釈でぜんぜんちがうお話になっている。『パラノーマル・エクスペリメント (2013)』と『フロム・ビヨンド (1986)』の間に関連性などはないです。
発売日: 2013-08-02
発売元: Happinet(SB)(D)
時間: 86 minutes
言語: 英語
字幕: 日本語
ディスク枚数: 1
売り上げランキング: 11,595
以前にもどこかで書いたが、ラブクラフトの描く恐怖というのは、未知のものに出会っておののく人間の心理を描きつつ、じつはその恐怖というのは、人間が心の奥底に根源的に等しく持っていて、忘れ去られた感覚なのではないかと思わせる点が私は好きである。『彼方より』にもそんな雰囲気がある。
また、この小説がおもしろいのは、ティリンギャーストなる男のキャラ描写である。彼は研究に没頭するあまり、ヒゲボーボーのキチガイじみた風貌になってしまったという話がラブクラフト流のねちねちとした筆致で描かれているが、私はこれを読むと、江戸川乱歩の『鏡地獄』をいつも思い出す。
こちらは『鏡やレンズに憑かれた男』が自宅にひきこもり、大きな球体をつくるお話。彼は内側が鏡の球体をつくる。その中に入ったらどんな風景が見えるのか。この目で見てみたい。ただそれだけのために職人さんを雇って、私財を投じて、目的を果たす。そして狂う。
ティリンギャーストと似ているじゃん?『鏡地獄』の男とティリンギャーストは同じものを見ていたのではないか。彼らの間にはなにか不思議な繋がりがあったのではないか。ガルシア・ロルカと三島由紀夫のように。なんて思えてくる。そう。これもおもしろいんですよ。最近読んだ↓
私はロルカにはあまり興味なかったんだが、三島由紀夫は好きなので読んでみた。したら、彼の著作をますます読みたくなった。いちど読んだものを読み直したい。未読のものを探して読みたい。そんな気になった。こんな気を起こさせる文芸評論ってすばらしいと思った。
話がずいぶん散らかってしまったが、こんな風に次々と他の創作物が思い浮かぶのは、私がこの映画を気に入ったからだろう。
US版DVDは2月に発売予定です
Release Date: 2014-02-04
Studio: Xlrator
Run Time: 87 minutes
Language: English
Region: Region 1
Rated: R (Restricted)
Number of discs: 1
Best Sellers Rank: 38,716
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