2011/6/1 (Wed) at 8:20 pm

映画|レッド・ホワイト・アンド・ブルー|Red White & Blue

絶望sex暴力ロマンス。救われない3人男女の悲哀をくらーい陰鬱映像で描いたスリラー映画。アマンダ・フラーマーク・センターノア・テイラー。監督サイモン・ラムリー。2010年。

レッド・ホワイト・アンド・ブルー / Red White & Blue DVDDVD画像

エリカはヤリマン女(アマンダ・フラー)。夜毎バーにいっては、男をひっかけてヤリまくる。事が終わるとサッサと自分ちに帰る。同じ男と2度はやらない。

股は開くが、心は決して開かない女。それがエリカ。友達ナシ。家族ナシ。夢も希望もナシ。完璧に孤独。

そんな女がネイトという孤独男(ノア・テイラー)と出会って友達になる。こちらも彼女と同じくひとりぼっちの変人であったが、ふたりは、おそるおそる、だが、感動的に、情を交えるようになる。

このふたりが不器用な会話をしつつ、心を開いていく過程は、いかにも「壊れた者同士が手探りをし合っている」というムードに満ちています。悲しげなラブストーリィ。

普通の恋愛ドラマなら3秒で済むところを、こいつらはうだうだと何日もかけてやっているの。不器用なせいばかりでなく、ある理由のせいでそうなってしまうのですが。

ある晩、エリカはネイトに添い寝をしてくれるように頼んで、それが受け入れてもらえると、ピーピー泣いた。ネイトはこういった。

Nate: I got this real crazy question I got to ask you.

ぼくは君に狂ったお願いをするよ。

彼はいったいどんなお願いをしたのであるか、なにがどう狂っているのであるかという点は、後半において、ははーん、とわかるシカケになっています。

さて、場面は変わって、別のお話。

「どこから見てもロクデナシ!」というみてくれのアンちゃん(マーク・センター)が登場。彼はフランキーといって、エリカがヤリまくっていた頃に遊んだ相手のひとりである。

フランキーはダイナーで働きつつ、インディーズバンドをやりつつ、ガンの母親(サリー・ジャクソン)と同居しているという男で、バンドの連中とうだうだしたり、母親を病院に連れていったり、恋人(ローレン・シュナイダー)とデートしたり、という日常生活をやっている。

エリカと遊んだときの彼はクズのチンピラ風情であったが、その生活を眺めていると、見ためほどいかれぽんちではないのかなってかんじもする。いちおう仕事をしているし(よくサボってるんだが)、病気のママの面倒を見ているし(これはけっこうまじめ)、美人の恋人もいるし。だからチンピラにしてはまし、くらいの男かな。

彼はエリカと遊んだことなんか忘れておきらくにやっていたんだが、ある出来事をきっかけに彼女と再び出会う。

ヒデー事が起きる。

愛と哀しみと暴力を、切々と、そして淡々と描いた衝撃映画。陰鬱暗澹たるシネマトグラフィは黒い麻薬のよう。

DISTURBING........ AND EVEN SHOCKING!

トレイラー動画

Red White & Blue (2010) trailer

感想

この映画は展開がおもしろいトコなんで、ネタバレ極小で感想を書きます。

ホラー映画というくくりとは少しちがう。IMDbでは「ドラマ/ミステリー/ロマンス/スリラー」というジャンルになっている。でも、とってもこわいし、衝撃的です。前半パートは『よくできた人間ドラマ』という調子で進行し、後半はホラーな展開になる。ゴアゴアはないけれど、前半も含めておもしろい。

冒頭から7分程度、台詞極小の演出で、エリカさんの荒んだ暮らしぶりが描かれるんだが、このツカミがすばらしい。流れる映像を見ているだけで、彼女の日常がぐわーんと脳になだれこんできます。情景的なミニマム演出がソリッドです。

この監督さんは『排除する』という点に大きなこだわりがあるようで、普通の映画なら台詞と演技で説明するところさえ、観客に見せないつくりになっています。「見せずに見せる」という高度なワザをやる。

たとえばですね、上のあらすじで紹介した「ぼくは君に狂ったお願いをするよ」の部分ですが、ネイトという孤独男がここで彼女にナニを頼んだのかという点は映画のキモですが、じつは、彼がそれをいうシーンは出てこないのです。彼はなにを頼んだのか、ズバリとは明かされない。

えー、それじゃわからないよ、とおもうでしょう?でも、わかるの。映画のオチを見ると、彼はきっとこういったにちがいない、と私たちは納得できます。

台詞がない映画というわけではないのですよ。ただ、普通の映画なら見せ場になるようなところがスポッと抜けているの。そこは観客の想像に任せる仕様になっている。あー、彼はこういったんだ!とわかると、観客の脳の中には『スキップされた場面』が浮かび上がる。そして感動を産む。

こんな様式は、ハリウッドらしくない、どころか、アメリカ人らしくないですね。なんだか日本の『わびさび』に通じるような感性です。脚本/演技/編集/撮影/SE/等々、映画を構成する要素すべてが巧妙に連動し合っているというかですね、創造力と技術の結実ではないか。クローネンバーグの映画はクローネンバーグにしかつくれないのと同様、この独自様式は真似してできるもんじゃないとおもうなあ。

いやー、褒めちぎってしまったなあ。私はよく、ベタ褒めエントリをアプした数日後に「ちょっとほめすぎましたわ!」とかいって、一行追記するというトホホなことをやってしまうんだが、この映画に関してはぜったいソレやらない!

Red White & Blue』という題名はアメリカの国旗を意味するフレーズで、なんとなく想像がつく通り、現代アメリカへの皮肉メッセージが込められているんだが、説教臭い映画ではありません。「アメリカは病んでいるなあ」と思うもよし、「一部の不幸なひとたちを描いた映画だね」と思うもよし、その判断は観客に委ねられています。その点もポイント高い。

キャスティング - 救われない人々

不幸女のエリカさんを演じたアマンダ・フラーは救いようのない堕落女として登場します。場末スナックのネーチャン風。肌は荒れてる。男をひっかけるときにニタ笑いをする以外、いつもムス顔。孤独オーラがむんむん。そんな彼女がはらはらと涙を流す場面はとても哀れです。

DVDのメイキングにはギャグリールが入っていて、笑顔の彼女が見れます。そこではとってもかわいらしいお嬢さんです。だからほんとはブスじゃないんですよ。

チンピラ男のフランキーを演じたマーク・センターは、ジャック・ケッチャム原作の『THE LOST ザ・ロスト 失われた黒い夏 (2005)』で見栄っぱりのキチガイ殺人者レイを演じました。

レイと印象がダブることを嫌ってか、モミアゲを伸ばしたり、パーマ頭にしたり、役づくりに凝っていた。フランキーは絶望し、ヤケクソになり、ヒデーことをやらかします。レイのような壊れキャラとはまた違うんだが、似てる。

孤独な変人男ネイトを演じたノア・テイラーもよかった。彼は監督さんの演出意図を汲み取って、よい演技をしたとおもいます。『静かに、冷たく、燃える男』ってかんじだった。

ネイトはイラク帰りの元兵士で、着ているベストの背中にはアメリカの国旗がプリントされている。この男もまた絶望し、サイコパスなんだか正義の味方なんだかよくわからないところにいってしまう。

メインキャストの3人は各自事情は異なるのだが、すべて絶望の結末に落ちます。陰鬱です。あー。

印象シーン

映画の最初のほう、エリカとネイトが初めてしゃべる場面が印象的でしたので紹介します。以下はネタバレ度小。

エリカという女はとにかく無愛想で、だれからも相手にされてない風なんだが、ネイトだけは彼女にチョロッと声をかけていくのです。やぁとか。なんだコイツと思っていたら、妙なおせっかいを焼いて、控えめなやり方で彼女に仕事先を紹介した。エリカは不思議に思って(なにかウラがあるのかと怪しんだのかも)、彼に質問をします。

「どうしてわたしによくしてくれるのか?」と訊いたら、ネイトはうぐぅと口ごもる。「そんなに難しい質問か?」と重ねて訊いたら「きみはその理由を知ったら気を悪くするんじゃないかなあ」とかいうので「いってみ」とうながしたら、彼は個人的な告白話をした。こんなの↓

彼は子供の頃に動物を虐待していた。クモの足をちぎったり、犬を地面に埋めたり、妹が飼ってたインコに灯油をかけて火をつけたり。ある日、それが親にバレた。父親は精神科に診せようとしたが、母は独自のアイデアを考えた。母は彼に子猫を与え、世話をするように命じた。

母はそうすることで、ネイト少年に命の大事さを教えようとしたんだと思われ。母の意図した通り、彼は猫を愛し、かわいがり、きちんとめんどうを見た。

でも、じつは、彼は動物の虐待をやめたわけではなかった。親の目を盗んで猫以外の動物を虐待し続けた。つまり、母親のしたことは、隠れて悪さをするのが上手になる、という結果をもたらしたのみであった。

ネイトはこんな話をうだうだと語るのである。

ま、話はわかったが、最初のエリカの質問は「どうしてわたしによくしてくれるのか?」というもので、これじゃ質問の答えになっていないではないか。エリカはトガリ目になり「それがどうしたんだ?」と問いつめたら、ネイトは黙り込んで、会話は終わった。

こんなシーンだったんですね。なんだかディックの小説に出てくるヤク中同士の会話みたいなんだが、このあとふたりはいろいろあって仲良くなっていくのです。

上の会話をした時点では、彼女は彼を警戒していたはず。コイツは変態なのか。みたいな。

ネイトはいったいなぜこんな話を持ち出したのか、以下のような仮説が考えつきます↓

  • ネイトはエリカを自分と同じく虐待者であると直感し、似た者同士だと思っている。だから優しくした。
  • ネイトはエリカをいぢめたいと思っている。それを隠すために優しくした。
  • ネイトはエリカのことを『猫的なもの』として、つまり、例外的に守りたくなる対象として見ている。だから優しくした。
  • ネイトは狂っている。質問の意味を理解していない。

なーんて想像をしたよ。

普通に考えれば、好意を持ってるからおせっかいを焼いたのだろうと思うところだが、いきなりこんな動物虐待の話をするなんて、イカレてるじゃん?なんだコイツっておもうじゃん?

このあと、ふたりが仲良くなって、いろいろあって、ヒデー目に遭って、映画のオチまで見てから、このときの彼の心境を想像するとおもしろいよ。

ネタバレを書いたよ

この映画の完全ネタバレはこちらから↓

Little Deaths

サイモン・ラムリー監督の映画は次のヤツもいいですよ。オムニバス映画の中の1作品を彼が手がけています↓

DVDのオマケ

  • Filmmaker Commentary
  • Making Of (16:37)
  • Bloopers (02:56)
  • Deleted Scenes (03:48)
  • Trailers

コメンタリで登場するのは、監督のサイモン・ラムリーと、プロデューサーのボブ・ポータルです。『Bloopers』てのはギャグリールみたいなヤツ。映画はくらーいお話なのでこれを見るとホッとします。『Deleted Scenes』はエリカとナニしようとして直前に去って行くハゲオヤジの場面の別バージョンと、フランキーのバンドが練習してる場面が入っている。ハゲオヤジのヤツはちょっとおもしろい。この映画のDVDは本編のみ英語字幕つき。

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原題: Red White & Blue
別題: Painajainen amerikkalaiseen tapaan
Crveno, belo i plavo
Красный Белый и Синий
Red, White and Blue
制作年: 2010年
制作国: イギリス/アメリカ
公開日: 2010年3月16日 (アメリカ) (South by Southwest Film Festival)
2010年3月27日 (アメリカ) (Boston Underground Film Festival)
2010年7月17日 (アメリカ) (Danger After Dark Film Festival)
2010年7月21日 (カナダ) (Fantasia International Film Festival)
2010年9月16日 (ドイツ) (Oldenburg International Film Festival)
2010年10月8日 (アメリカ)
2010年11月13日 (イギリス) (Leeds International Film Festival)
2011年4月23日 (フランス) (Festival Mauvais Genre)
2011年9月30日 (イギリス) (limited)
2011年10月10日 (イギリス) (DVD & Blu-ray発売)
imdb.com: imdb.com :: Red White & Blue
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
アートディレクション
衣装デザイン
視覚効果(Visual Effects)
特殊効果(Special Effects)
Makeup
謝辞

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