映画|シタデル CITADEL
妻をブッ殺された気の毒男のじわじわ恐怖を描くアイルランドのインディーズホラー映画。アイノリン・バーナード、ジェームズ・コスモ、ウンミ・モサク。監督シアラン・フォイ。2012年。
ここはどっかの貧乏団地。荒涼たる雰囲気の過疎ビルである。
住人のトミー(アイノリン・バーナード)は妊娠中の奥さん(エイミー・シールズ)とふたり暮らしであったが、ある日、フード姿の汚いチンピラ集団に奥さんが襲われた。手術の末、赤ちゃんは助かったが、奥さんは昏睡。数日後に死亡。
トミーさんは絶望。広場恐怖症になってしまう。自分のめんどうを見ることさえおぼつかない孤独な男は、この先、赤ん坊を抱えてどうやって生きていけばいいのか。ベビーカーを押して歩く姿は、この世の悲しみをすべて背負っているよう。
そんなトミーは、妻のお葬式でへんな牧師(ジェームズ・コスモ)にへんなことをいわれてギョッとする。「ヤツラはおまえの娘を奪いにくるぞ」と怒鳴り散らして去っていったオヤジは、病院で知り合った親切ナース(ウンミ・モサク)によれば、「チト頭がおかしいのではないか」と噂されるほどの奇人だそうだが、トミーはその言葉が気になってしまう。
この映画には警官もヒーローも出てこない。こんなヒデー事件があったというのに、警察官が事情聴取する場面さえないというのは極端だが、貧乏エリアゆえに警察はなんにもしてくれないということなのだろう。この映画の監督さんは、無能警官を登場させることさえ排し、世間の冷たさや彼の孤独というものを表現しようとしたのだろう。たぶん。
警察は出てこないが、台詞だけなんだが『ソーシャルサービス』というワードは出る。でもこちらは彼を助けてくれるわけでなく、保護者としての適正に疑問を呈し、彼から赤ちゃんを取り上げようとする存在。だから彼は行政から逃げようとしていたところでまたまたヒデー目に遭う。
トミーは正気を失う。ヤツラが赤ちゃんを奪いにくる。その恐怖で体が震え、めんたまギョロギョロ、冷や汗ダラダラ。敵の足音に怯え、強迫観念に支配される。しまいに赤ちゃんを抱えてトイレにたてこもってしまう。親子心中寸前。借金取りに追われる多重債務者のような案配だが、彼はなにも悪いことをしていないのである。
以後の展開はおもしろいトコなんで、詳しくは映画を観てくださいよと思うが、結局、いろいろあった末、トミーはオヤジといっしょに、チンピラどものアジトに乗り込むのである。オヤジが連れてきた盲目少年(ジェイク・ウィルソン)もいっしょ。この少年はいわくありげで不思議な能力を持っている。
オヤジは「おれには計画がある」とかいうんだが、相手は凶悪なチンピラ集団である。汚くて邪悪で低能。対するトリオは、広場恐怖症のこわがり男、老体オヤジ、めくら少年というメンツ。こんな彼らがどうやって敵に立ち向かうのでしょう。
トレイラー動画
Citadel (2012) trailer
邦題『シタデル』
この映画は邦題『シタデル』にて、2013年3月2日、日本版DVDが発売予定だそうです↓
監督さんの体験が元になっている
シアラン・フォイ監督
同監督は、18歳の頃、ギャング団に襲われた。そのせいで広場恐怖症になった。この体験をベースにホラー映画をつくったそうな。これについてはDVDのオマケの中にあるインタビューで詳しく触れられているし、ネット上にもたくさんインタビューが出ているから、詳しく知りたいひとは読んでみるといいですよ。これとか↓
感想
気合いの入ったインディーズ力作であった。よくある復讐ものなのかなと思っていたら、意外におもしろかったです。陰鬱な町を舞台に、トミーさんの冷や汗ダラダラ演技がえんえん続きます。あー、かわいそう。
殺伐荒涼とした町。おてんきはいつも曇り空。通行人さえ歩いていない。からっぽの町に風が吹いているだけ。トミーさんは病院へ行くのにバスに乗るんだが、運転手は無愛想。他の乗客はぜんぜんいない。まるでこの世界には彼しかいないみたい。拝一刀が乳母車を引いて歩いていたら絵になる風景だが、あいにくとトミーさんは剣の達人などではなく、広場恐怖症のトラウマ男。なんという寒々しさであるか。
んで、彼が恐怖するチンピラ集団というのがですね、顔がチラ見せくらいしか映らないんだが、すっごいおっかない。フード姿は『ハートレス (2009)』に出てきたヤツに似たかんじ。こいつらは廃墟ビルにたてこもり、近親交配し、群れをなしている。最初は卑劣なギャング団のようだが、後半になって近くで見ると、人間離れしたバケモノか妖怪みたい。
なかなかきもちわるくていいんだが、この映画では、首チョンパだのチェーンソーを振り回すだのといった娯楽的なゴアゴアはぜんぜんないんですよ。もっと地味。でも低予算の割にはグロエフェクトはよくできている。一瞬チラ見せが多いので、どこがどう巧みなのかわかりづらいかもしれないが、DVDに入っているメイキングを見たら、ずいぶんていねいにつくっていたのだなあとわかってびっくりした。
自らの恐怖心を克服する男というテーマが感じられるが、この辺りは監督さんの実体験に基づく演出なのだろう。トミーを演じたアイノリン・バーナードは監督の意図を汲み取ってよい演技をした。あとさ、盲目少年を演じたジェイク・ウィルソンていう坊やもすごく上手だった。
いくつかのアラはある。わるもんの由来や動機がよくわからない。また、最初襲われた奥さんはお腹に注射器を刺されたんだが、あれの意味もよくわからない。赤ちゃんをさらって何をしたいのかもわからない。
という点は確かにあるけれども、そこはインディーズ映画だから私はあまり気にしない。てか、これらを説明しだすとかえってうだうだになっちまうんじゃないかな。ここは割り切りよく、余計な説明はカット。不幸男の心に巣食う『恐怖』のみに注力したんですよ。細かいことは気にすんな。ってことでいいんじゃないかと私は思うのですが。
いくつかのレビューを読ませて頂いたところ、やはり評価が割れているようだが、io9さんはこの映画を絶賛している。私、こことはいつも好みが合うんだよね↓
DVDのオマケ
US版DVDのオマケはこれだけ↓
- Behind the Scenes: "Making Of" Featurette
- Cast And Crew Interviews, Director Ciaran Foy, Aneurin Barnard (Tommy)
- Trailer
メイキングもインタビューもおもしろいです。この映画のDVDは字幕ナシでした↓
ネタバレです
!!!! SPOILER ALERT !!!!
!ネタバレ注意!
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- Wunmi Mosaku :: ウンミ・モサク [imdb] (Marie)
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