2010/8/30 (Mon) at 10:08 am

映画|グリム・ラブ|Grimm Love

ドイツで実際に起きたカニバリズム猟奇殺人事件を元につくったホラー映画。Fangoria Frightfestの1本。ケリー・ラッセルThomas Huberトーマス・クレッチマン。監督マーティン・ワイズ。2006年。

グリム・ラブ / Grimm Love DVDDVD画像

1998年9月。ドイツ。

オリバー・ハートン(トーマス・クレッチマン)はカニバリズム変態専門の出会い系サイトにおいて、以下のようなパートナー募集の投稿をした。

「ぼくに食べられてくれる男性を募集します。年齢21歳〜40歳に限る。これは冗談ではありません」

これを見てメールを送ったのがサイモン(Thomas Huber)という男で、ふたりは何度かメールのやりとりをしたのち、10日後に出会った。

オリバーは「サイモンを食べたい」と希望し、また、サイモンは「オリバーに食べられたい」と希望した。ふたりはこの点において完全に合意したことを確認した上で、『儀式』を行った。オリバーはサイモンを殺して食べた。オリバーは殺人罪で逮捕された。事件の内容が報道されると、その異様さにドイツじゅうが仰天した。

映画は事件後の時点から始まります。ケイティ(ケリー・ラッセル)というカワイコちゃんが登場。

彼女はドイツに住むアメリカ人大学院生で、その専門は犯罪心理学である。ケイティはこの事件に興味を持ち、取材を始めるのであるが、その熱心さは、単なる学究的な興味を超えている。彼女は心の内奥をだれにも明かしていないが、自分にとっては、この事件が起きたこと自体が奇跡のような巡り合わせではないかと直感している。オリバーとサイモンの深層心理を知ることは、すなわち、彼女にとって、己の内側を探る旅でもあるというような感覚。

彼女自身、自分がどうしてそこに惹かれるのかわからないんだが、うまく説明するのがむずかしいんだが、要するに、事件の内容を知ったとたんにビビッときちゃったわけです。そして取材を続けるうち、どんどん没入し、悪い夢を見ているような顔になってくる。

映画は取材するケイティの視点で進行し、その合間にフラッシュバックがあり、ふたりの変態男、すなわち『食べたい男』と『食べられたい男』の人生が描かれる。彼らの幼少期に遡り、大人になり、やがてふたりは出会う。そして儀式が完結するまでの物語です。異様です。狂っています。

Fangoria Frightfestの1本ですが、この映画は2006年製作で、いくつかの他国ではDVDリリース済みなんだけど(UK版は2008年8月発売)、US版は今回初なので、アメリカ人にとっては新作リリースということになります。US版は9月28日発売予定だが、それに先立ち、現在BLOCKBUSTER限定でレンタル中。Fangoria Frightfestに関する情報は以下からどうぞ。

実話ベースの映画です

『Grimm Love』は2001年にドイツで実際に起きた殺人事件(殺人者の名前はArmin Meiwes)がベースになっています。ドキュメンタリとはちがうので脚色はされています(人物の名前がちがうとか色々)。ドイツ国内ではこの映画に関して以下のような裁判沙汰がありました。現在は上映禁止ではありません。

2006年3月。Armin Meiwes本人が「プライバシーの侵害」を根拠に上映禁止を訴え、法廷はこれを認めた。ドイツ国内で上映禁止となった。が、2009年5月、法廷は表現の自由を認め、逆転判決を下した。この映画は事件の内容を歪曲するものではなく、Meiwesの権利を害するものではないとした。2009年7月。ドイツ国内で初上映された。(imdb - Triviaより引用)

事件の詳しい内容についてはウィキペディアをどうぞ↓

トレイラー動画

Grimm Love (2006) trailer

感想

ふたりのメールのやりとりを読んでいただきましょう↓

Oliver Hartwin: I would like nothing more than to dine on your flesh. I'm dead serious about this. Do you have any pictures of your body?
Simon Grombeck: This is something I wanted ever since I was a child, something I need. I want you to bite my finger off. Can your teeth do the job? Attached is the picture of my body. I hope you will find me tasty.
Oliver Hartwin: You look delicious. I want you to be in me. Here are my teeth. They are very strong and capable of everthing you desire.
Simon Grombeck: I hope you'll bite a piece from my arm or leg. I want to see the blood trickling from your mouth. When you're finished with me, I don't want there to be anything left.

Oliver Hartwin: ぼくは君の肉体を食べたい。それだけです。真剣です。よかったらあなたの体の写真を送ってもらえますか?
Simon Grombeck: ぼくは子供の頃からずっとこの瞬間が訪れることを願っていました。いまこそ願いがかないます。ぼくの指を噛みちぎってもらえますか。歯は丈夫ですか。ぼくの体の写真を送ります。お好みに合うといいのですが。
Oliver Hartwin: あなたはとてもおいしそうです。あなたをぼくの中に招き入れたい。これがぼくの歯です。とても丈夫ですよ。あなたの欲望をかなえてあげることができるでしょう。
Simon Grombeck: ぼくの腕や足を噛んでほしい。あなたの口から血が滴り落ちるところを見たい。すべてが終わったら、なにも残らないようにしてほしい。

という会話からわかるように、オリバーというキラーは相手をだまくらして、殺して、食っちゃうというヤツじゃないのですね。だからとても変わっています。映画の中では、オリバーが失敗するパターンも描かれています。ドタンバになって相手が「ちょ、やっぱりやめます!」といいだすと、彼は「ああ、ぼくは本気だといったのに」とつぶやいて逃がしてあげる。じつに紳士的なキラーですが、彼がそうなのはモラルを重視しているからではなく、純粋にその嗜好ゆえだと思われます。『相手が自発的に食われたがっている』という状況じゃないと彼は興奮しない。だから嫌がる相手を無理矢理殺すというオプションはないのです。

一方のサイモンはゲイです。彼は子供の頃に母親が自殺したのは自分のせいだと思ってて、そのトラウマで悩んでいる。彼は優しいゲイの恋人と同棲中なんだが、その心は癒されず、いつしかこうなった。ということですが、なんでそれが『食われたい男』になるのか、私にはサッパリわかりません。

ついでにいうと、オリバーの幼少時代も明かされますが、こちらもますますわからない。極端に息子に依存する変わり者のママのせいでこうなったということらしくて、子供の頃にブタの屠殺を目撃したとか、若い頃に女性からプレゼントされた人形を切り刻んで食べたとかいう話が出てくるんだけど、カニバリズムにつながる動機がよくわかりませんでした。

精神医学の専門家はアレコレと理由づけをしたがるものですが、私、思うに「狂ってるから。それだけ。おしまい」でいいんじゃないでしょうか。監督さん自身もあえて方向づけすることを避けている、不明瞭なままで放置しているように見えたので、やっぱ、狂ってるんですよ、ということでいいと思う。ふたりは生まれながらに精神的な奇形児だったのではないでしょうか。

映画の題名『Grimm Love』のGrimmはグリム童話のグリムです。ふたりの過去はそれぞれ状況は違うんだが『母親』てのがキーワードになっていて、母親との関係性が人生に暗く影響を及ぼしているということで、そこはかとなく『ヘンゼルとグレーテル』(母親が子供を捨てる話)のイメージが与えられています。また、赤ずきんちゃんがオオカミに食われるところはボレアフィリア(Vorarephilia)を想起させるとか聞いたことがあるので、なにか通じるものがあるのかなとも思われました。

少し話が脱線しますが、「こんなことしてみたいなと夢想する」と「じっさいにやってみる」というのは大きな違いがありますよね。大多数の人間は、思ってもやらないです。ヤバいから。私もかわいいあかちゃんを食ったらうまいかな、とか思うことあります。でもそんなことできるわけない。後悔するにきまってるから。ヤバいから。

佐川一政が犯罪を犯した瞬間の自己の心理について「ヒトを殺めた瞬間、“ああ、自分はヒトじゃなくなったんだ”と本能的に思いました」などとインタビューで答えていますが、彼がいうと「ヌケヌケとよくいうなあ」とあきれてしまいます。そのようなことをいけしゃーしゃーとしゃべること自体「やっぱモンスターだなー」と。

「実際に行動に移す」人間は生まれながらに狂っているのであり、子供を虐待して殺す親などもそうだと思うんですが、ギリギリふんばって我慢する、あるいは、虐待しちゃったんだけど間違いに気づいて救急車を呼ぶ、という行為をできるひとはこっちの側だと思います。その一線を超えてあっちにいっちゃうひとというのは突然変異のキチガイなので、そいつらの行動パターンを分析しても大した成果は得られないのではないかなあ。いやー、話がずれてすません。

というようなことを考えながら、ふたりの過去物語を観ました。そして、後半クライマックス。このふたりがついに出会うと、ガガーとテンションあがってどどーんとおもしろくなるんですよ。

SPOILER ALERT!!!
以下、ラストのネタバレ含む!

このふたりは、どちらも(食われる側のサイモンは当たり前ですが)、こういうことをやるのが初めてなのです。だから童貞&処女の初sexのような初々しい空気がある。ふたりは緊張顔で挨拶し、すでに覚悟を決めているんだが、その顔には不安もある。最初のうちは食われるサイモンの方が押し気味で「今夜やろう。ぜんぶ用意してあるから。きみ、できるよね?だいじょうぶだよね?」なんていう。いわれた方のオリバーは「う、うん、やれるとおもう」と答えます。ぜんぜんキラーらしくありません。なかなかおもしろい。

その後の展開もよいです。ふたりはこの日を待ちかねていたんだけど、いざ始まると、初めてづくしだからこわいきもちもある。揺れる変態心っていうんですか。引き気味になったり、でもやるぞと戻ってきたりする。そしていざソレが始まると、ガガーと一直線!

まずはチンコをカットし、それをフライパンで焼いて食べますが、その時点でサイモンは流血しつつ生きている。ふたりはチンコを半分にわけていっしょに食べる。サイモンが死亡すると、オリバーは彼の肉体を解体して食べ続けるのです。

ゴア描写はありませんが、迫真の演技と演出で想像力がかきたてられました。すごいです。いやほんとまぢで。どどーんときます。「ぼくたちのウェディングだ」とかいってました。狂っています。

このふたりに共通しているのは、相手に求める好みが極端にナローであるという点です。フェティシズムというのはめまいがするほどに細かく分類されるものですが、それにしてもナローすぎます。こんな性的嗜好を持つ人間がこの世にいること自体が驚きだし、仮にいたとしても、こんなひとたちが理想のパートナーに出会える確率はものすごく低いと思います。さらにいうと、これが実話ベースの物語という点もまた驚きです。驚きトリプルですよ。

おもしろいもん観ました。もし倉橋由美子がまだ生きていたら、彼女に批評を書いてほしかったです。読みたかったなー。

脚本を書いたT.S. Faullのインタビュー記事がありました。どのように着想を得たか、製作のようす、事件との関連などについて話しています↓

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原題: Rohtenburg
別題: Grimm Love
Amor Sinistro
Butterfly: A Grimm Love Story
Confession d'un cannibale
El caníbal de Rotemburgo
Kanibal z Rotenburga
Rohtenburg o kanivalos
制作年: 2006年
制作国: ドイツ
公開日: 2006年5月 (フランス) (Cannes Film Market)
2006年8月27日 (イギリス) (London FrightFest Film Festival)
2006年10月9日 (スペイン) (Sitges - Catalonian International Film Festival)
2006年11月1日 (スペイン) (Semana de Cine Fantástico y de Terror de San Sebastián)
2007年2月28日 (オーストラリア) (DVD)
2007年3月14日 (アメリカ) (South by Southwest Film Festival)
2007年6月3日 (アメリカ) (Seattle International Film Festival)
2007年7月13日 (韓国) (Puchon International Fantastic Film Festival)
2007年10月22日 (イギリス) (DVD)
2007年11月21日 (カナダ) (Image+Nation Montreal Gay and Lesbian Film Festival)
2007年12月21日 (スペイン)
2008年7月12日 (アメリカ) (Philadelphia International Gay and Lesbian Film Festival)
2008年10月14日 (アメリカ) (Rochester ImageOut Lesbian and Gay Film and Video Festival)
2009年4月25日 (アメリカ) (Miami Gay & Lesbian Film Festival)
2009年4月25日 (アメリカ) (Deep Red International Festival of Fantastic Film)
2009年4月28日 (カナダ) (DVD)
2009年6月18日 (ドイツ)
2009年9月26日 (フランス) (Nantes)
2009年11月21日 (フランス) (Paris Gay and Lesbian Film Festival)
2010年8月1日 (アメリカ) (Los Angeles, California)
2010年8月4日 (フランス)
2010年8月6日 (アメリカ) (Video On Demand)
2010年9月28日 (アメリカ) (DVD)
imdb.com: imdb.com :: Rohtenburg
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脚本/原案
出演
プロデュース
音楽
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
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