2014/2/25 (Tue) at 9:17 am

映画|カニバル|Canibal (Cannibal)

カニバリスト殺人者の仕立て屋男の日常を淡々と描いた、文藝タッチのスペインのホラー映画。アントニオ・デ・ラ・トレオリンピア・メリンテ。監督マヌエル・マルティン・クエンカ。2013年。

カニバル / Canibal (Cannibal) DVDDVD画像

スペインの小さな町。

紳士服仕立て職人のカルロスさん(アントニオ・デ・ラ・トレ)は、人知れずカニバリストである。遠くにドライブし、ランダムに犠牲者を選び、ガガーと襲う。襲う相手は常に女だが、エッチなことに興味はないようだ。純粋に『殺して食う』のがお好み。

彼は秘密の山小屋を所有している。犠牲者をそこに連れ込んで、殺し、解体する。スーパーで売ってる肉パックみたいな状態にして、家に持ち帰る。彼の家の冷蔵庫は肉パックがぎっしり。ミルクもビールも野菜もない。人肉とワインされあれば幸せ。

映画はカルロスの日常が淡々と描かれる。

山小屋にいくのは殺人仕事をやるときだけで、普段は町で暮らしている。アパート住まいのひとり暮らし。向かいに仕事場を借りている。毎朝決まった時間に起きて、仕事にいく。

仕立て職人としての彼の腕は確かなものであり、金持ち紳士のお客様がやってくるばかりでなく、教会からタペストリーの修復という大事な仕事を依頼されるくらいなので、世間から相当の信用を得ているようである。

その暮らしぶりは、有能な職人の名に恥じないものである。部屋の中は整理整頓、清廉な生活態度を旨とし、夜更かしや深酒などはせず、さすがに仕立て屋らしく、いつもいいスーツを着ているが、その他の点においては贅沢な趣味などはなく、質素ではあるが貧乏臭さなどは感じられず、常に奢らず、中庸を心がける品行方正な紳士である。カニバリストなんだが。

カルロスは孤独である。他人と深く関わることを用心深く避け、己に没入する人生を歩み続ける男。こういうの、どっかで見たことあるなーと思ったら、あれだ、市川雷蔵が演じる殺し屋みたいな人なんですね。いいよね、市川雷蔵

ある日、彼の静かな生活にへんな娘(オリンピア・メリンテ)が乱入してくる。カルロスを市川雷蔵に例えるならば、この女はさしずめ佐藤友美であろう。『ある殺し屋の鍵』はおもしろいよ。未見の方はぜひ。関係ない話ですません。

若い女が同じアパートに引っ越してきて、これがカルロスの私生活をひっかき回す。仕事場にやってきて「わたしのチラシを置いてくれ」なんて図々しいことをいうし、夜に誰かと大ケンカをしているし、なんだかトラブルが服を着て歩いているといった調子で、孤独を愛するカルロスにすれば、最も困る手合いであり、彼の平穏はしばしばかき乱されたが、しばらくしたらいなくなった。

したら、こんどは、その女の姉妹と名乗る女がやってきた(オリンピア・メリンテが一人二役)。姉なのか妹なのかわからないが、顔がそっくりである。双子なのかもしれない。だが、性格はまるで違う。こちらは、質素で、慎ましやかで、礼儀正しく、悲しみが顔に張りついている。ニナという。

カルロスは「いったいどうしたのですか」と尋ねてみた。ニナさんは悲しみの目を向けて、悲しみの身の上話を語った。妹(or 姉?)は3000ユーロを持ち逃げしてしまった。それは両親のために貯めたお金なので、困っているのですわ。探し出してお金を返してもらうんですわ。とかいう。

そんなこんなで、カルロスは自らの掟を破り、この女に深入りをするのである。でも秘密を知られちゃったらヤバいよね。彼はどうするんでしょう。

トレイラー動画

Caníbal (2013) trailer

感想

この映画はえらく長くて2時間弱もあるが、お話は単純である。なぜこうも長いかというと、やたらめったら映像に凝っていて、叙情的なロングショットがたくさんあるから。

ジャンジャカ血塗れのいつものヤツとは趣がちがう。日頃から「下品な映画ばかり見ている野郎だ」と後ろ指を指されて肩身の狭いあなたがこの映画を流して見ていれば「お父さんはこんなのも見るんだ!」と奥さんや子供たちから尊敬されるだろう。かどうか知らないが、ずいぶんお上品で、文藝的なタッチのカニバル映画です。ゴアゴアもぜんぜんない。

ではつまらないかというと、そうでもなく、俳優さんの演技がいいから思ったより悪くなかった。だいたいにおいて、私はこういうものを見ていると、床屋の椅子に座った子供のようにそわそわと動きたくなるんだが、この映画の場合、ダルくはなかった。たまにはこういうのもいいか。みたいな。

なんだかものすごく高級なものを見ているような気になるが、考えてみれば、誰かを襲って殺して食っているんだから『クライモリ (2003)』の奇形兄弟とやってることは同じなのである。だからカニバルと恋の狭間で苦悩するカルロスさんを見ていても、あまり同情をする気にならないなあと思った。

この映画はまだUS版もUK版も出ていないようだ。スペイン版が先行して発売されたそうで、友達が送ってくれたので見ることができた。(Thanks to Hanna!)日本からだとどこで買えるのか知らない。

マヌエル・マルティン・クエンカ監督
マヌエル・マルティン・クエンカ / Manuel Martin Cuenca 画像

スペイン版Blu-Rayのオマケはコレだけ↓

  • Trailer
  • Teaser
  • Making Of
  • Escenas Eliminadas (Deleted Scenes)

映画本編には英語字幕がついているが、オマケは字幕ナシだった。Deleted Scenesには興味深い映像が入っていたが、お話の骨子となるアノ場面は収録されていなかった。やはりあれは『見せずに見せる』方針だったのだなと思いました。

追記。

このエントリをアプしてすぐに鍵つきアカウントの方から「パトリス・ルコントの映像みたいだ」というtweetをもらって「そうだそうだ!」と思いました。

画像

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原題: Caníbal
別題: Amours cannibales
Cannibal
Kanibal
Каннибал
邦題(カタカナ): 『カニバル』
制作年: 2013年
制作国: スペイン/ルーマニア/ロシア/フランス
公開日: 2013年9月6日 (カナダ) (Toronto International Film Festival premiere)
2013年9月22日 (スペイン) (Donostia-San Sebastián International Film Festival)
2013年10月11日 (スペイン)
2013年11月25日 (イタリア) (Torino Film Festival)
2013年12月18日 (フランス) (Les Arcs International Film Festival)
2014年2月6日 (アメリカ) (Santa Barbara Film Festival)
2014年2月22日 (イギリス) (Glasgow Film Festival)
2014年3月28日 (フランス) (Villeurbanne Festival Reflets du cinéma ibérique et latino-américain)
2014年4月12日 (アメリカ) (Sarasota Film Festival)
2014年5月24日 (日本)
2014年7月25日 (アメリカ)
2014年12月17日 (フランス)
imdb.com: imdb.com :: Caníbal
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
アートディレクション
衣装デザイン
視覚効果(Visual Effects)
Makeup
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