映画|ムカデ人間|The Human Centipede (First Sequence)
問答無用のキチガイ博士が出てくるオランダのホラー映画。ディーター・ラーザー、北村昭博、アシュリン・イェニー、アシュリー・C・ウィリアムズ。監督トム・シックス。2009年。
ここはドイツ。
人間嫌いのキチガイ博士、ジョセフ・ハイターさん(ディーター・ラーザー)は、人里離れた山の家に閉じこもり「なんとしても人間ムカデをつくりたい!」という夢をかなえるべく研究を重ねてきたのであるが、このたび、めでたく準備が整ったもんで、さてさてやりますかついにここまできましたよと大喜びである。
家の地下には、病院そっくりのベッドと医療設備があって、そこには不幸な3人が拘束されている。アメリカ人旅行者のカワイコちゃん2名(アシュリン・イェニー、アシュリー・C・ウィリアムズ)と、日本人関西ヤクザ男1名(北村昭博)。彼らはベッドに手足を縛られて動けない。
少し前、ヤクザ男のベッドにはトラック運転手のオッサンがいたのだが、これは適合性が合わなかったそうで、やむなく注射一本オダブツとなり、庭に埋められた。
そこに凛々しい白衣姿の博士がジャジャーンと登場。泣きわめくみなさんを相手に説明を行う。
「はい、こんにちは。外科医のジョセフ・ハイターといいます。えへん。こう見えても、わたくし、外科の業界じゃちょっと知られてるんですよ。シャム双生児って知ってますか、あれを切り離す手術というのがわたくしの専門でありまして、はばかりながら名医です。あー、でも、もう引退しました」
「もうね、つながった人間を切り離すのに飽きちゃったのです。これからは人間同士をつなげていきたい。それをやりたい。動物実験は実証済み。3頭のロットワイラーをつなげてみたのです。んで、いよいよ、人間でやってみるかということで、本日はお日柄もよく、みなさんの適合性はばっちりなのです。うれしい!きっとうまくいくよね!」
※博士の家の庭には、そのワンコのお墓があります。博士は物思いにふけるときなど、ワンコのお墓にお参りします。
と、まァ、イントロダクションから始まり、やがて話は具体的になってくる。
「さて、これから行う手術の概要を、素人さんにもわかるように説明してさしあげます。まずはこの絵をごらんください」
という調子で、子供のラクガキみたいな絵を見せられ、専門用語を交えた説明が長々と続くのであるが、要は、肛門と口をつなげるという話で、つまりこういうことで↓
Aさんのお尻 → Bさんの口 → Bさんのお尻 → Cさんの口
という風につなぐことにより、3人の人間の消化器官を一本の管にするのだ、人間ムカデができあがるのだ、という、おそろしくも乱暴かつ単純なセオリであった。
人間ムカデはよつんばいが基本姿勢なので、足のヒザのおさらを切除して足を伸ばせないようにする。歯を抜く。口の部分を丸く切り取る。肛門も丸く切る。そして、肛門と口を縫合するわけだが、さてさて、ここが苦心のポイントなんだが、両者がきちんとくっついていられるように、お尻とほっぺに接ぎ木状の人工物を挿入する(特許出願中)。
容易に想像がつく通り、BさんはAさんのウンコを、CさんはBさんのウンコを食べるしかないという、強制リサイクル仕様の、エコ構造である。ウンコだけでは栄養摂取の観点から問題があるせいか、ときどき点滴を射たれる。
また、これまた容易に想像がつく通り、まんなかのBさんがいちばんつらい。Bさんだけが前と後ろの両方を痛い目に遭わされるからである。3人ともつらいけど、とくにBさんはたまらない!この貧乏クジを引かされるのはだれになるのであろうか。
計画の全容が明かされるにつれ、哀れなみなさんは絶望にうちひしがれる。カワイコちゃんたちは涙目となり、関西ヤクザは「おどれブッコロス!」と荒れ狂う。そんな中、ハイター博士の口調は徐々に興奮が高まってゆく。最後のキメ台詞を述べる瞬間には、もはや絶頂オルガズムに達したような充血目で、歓喜の昂りを抑えきれないのであった。
キチガイ博士の締めくくりのお言葉↓
A human centipede... first sequence!
「人間ムカデ!その序章の幕開けであります!」
や、やめてくださいいいいいいきゃああああああ!
トレイラー動画
感想
博士を演じたディーター・ラーザーがとてもよかった。演技派。キチガイオーラがある。監督さんのコメンタリより↓
Tom Six: Oh men, I love his face! Some people says he looks like a "dehydrated Christopher Walken", other says he looks like evil turtle. What a face! What a charisma!
彼は脚本通りに演技をするばかりでなく、役づくりの提案を積極的に行うクリエイティブな俳優さんで、監督さんはおおいに触発されたそうな。ドイツ語なまりのへんな英語もよかった。
この博士はいうまでもなく残虐わるもんであるが、その気質は安直な専門バカで、犯罪者としての才能は著しく低かったのではないだろうか。いかにも怪しいそぶりをしたり、急に激高したりとかするもんで、すぐにへんなやつだと思われてしまう。こんなむちゃくちゃなことをやるくせに、想定外の出来事が起きると急にそわそわして、自ら墓穴を掘ってしまうのです。かわいい(んなわけない!)。
北村昭博はオール日本語。相手がドイツ人だろうが、アメリカ人だろうが「関西ヤクザをなめんな!」「よー、ねーちゃん!」「よっしゃー!」という調子でおもしろかった。また、ラストの涙目演技もよかった。彼のブログにいくといろいろ情報あります。応援しよう!↓
ふたりのおねーちゃん、アシュリー・C・ウィリアムズ、アシュリン・イェニーはじつに気の毒な絶望演技がよかった。
この映画はあまりにゲスな内容なので、そのキチガイぶりばかりに目がいってしまうが、意外にも、映画としてのつくりはオーソドックスで落ち着いたものだった。残虐なゴア描写は少ない。コメンタリの中で、監督さんは「ここらへんはぜんぶ見せないほうがいいとおもったんだよねー」とかいっていた。
演出の細かいところがじつに凝っている。いろいろあるけど、たとえば博士が着ている白衣とか。映画を観ればわかるけど、ちょっと普通の白衣とはちがうのです。ナチスっぽいといえるし、また、立ち襟のデザインが聖人のようにも見える。また、窓ガラスを効果的に使っているところもじつにうまいなとおもった。
クライマックスでは、キチガイ博士とムカデ人間トリオが対決し、刑事さんが突入してくるというアクションになるんだけど、階段の追いかけっこはすごくドキドキした。
そしてラスト。
なんとも不条理/孤独/気の毒/非情な結末であった。あのあと彼女はどうなっちゃうんだろう!?助かったとしても、サイコ病院送りになっちゃうよね、きっと。でも、非道な話であるにもかかわらず、なぜか、笑気ガスを吸わされたように笑いが止まらない!そこがいいところ。
この監督さんはやたら無鉄砲にゲスなもんを出して、世間の非難を煽ってニタニタ笑っているような確信犯を装っているが、じつはすごくさじ加減がうまくて、自分の作品を客観視できるひとなんじゃないだろうか、映画の宣伝もうまそうだなあとおもいましたです。
日本でもDVDが出るそうなので、みんなも観よう!また、英語オッケーなひとはUS版DVDを買おう!
映画本編は英語の字幕つきです。Extra、コメンタリなどは字幕ナシです。
続編『ムカデ人間2』についてはこちら
- ムカデ人間2 (2011)
- ムカデ人間2|The Human Centipede 2 (Full Sequence)がUKで上映禁止
- ムカデ人間2|The Human Centipede 2 (Full Sequence) - UKディストリビューターがBBFCに不服申し立て
PART3『ムカデ人間3』についてはこちら
DVDのExtra
DVDのオマケはいろいろあるよ↓
- Director Commentary
- Trailer
- Deleted Scene
- Behind The Scenes
- Director Interview
- Casting Tapes
- Foley Session
- Alternate Posters
Deleted Sceneに入ってるのは「ムカデ人間が完成し、感極まった博士が喜びのダンスを踊るシーン」というもんです。なかなかおもしろい。「これはフザケすぎてるからカットされたんだろう」という意見をいろんなところで読んだけど、そうかな?そんなにフザケてないよ。このキチガイ博士のキャラに合ってていいとおもった。でも「フザケてる」と感じるひとが大勢いるんだから、これをカットしたのは正解だったのだろう。
『Behind The Scenes』よりディーター・ラーザーのお言葉。ハイター博士について↓
Dieter Laser: Human beings are very difficult for him. It all creates stuff to get out of that, complete isolation, lonliness, sadness and anger. He has them inside himself.
『Behind The Scenes』のひとこま。カワイコちゃんの歯を引っこ抜くところ。その演技の打ち合わせをやってるところで、キチガイ博士のディーター・ラーザーが相手の女優さんに次のようなことをしゃべっていた。
「あなたのおくちに近づけますけどね。ぜったい触れません。だから痛くないですよ。心配しなくていいですからね。わたし、キチガイみたいに見えるでしょうけど、ちゃんと自分をコントロールしています」
なんてことを、キチガイ博士そのままの口調でいうのです。こえーよ。あの口調でこんなこといわれたら、余計におそろしい気がする。ふだんからああいうしゃべり方みたい。あるいは、撮影中はキャラに成り切ってしまうひとなのかもしれない。女優さんはチビリ顔で「はいはい、わかっています」と答えていました。
Director Commentary
トム・シックス監督によるコメンタリからいくつか抜粋します。
・プロデューサーのイロナ・シックスはトム・シックスの姉(or 妹?)。
・撮影場所はオランダ。設定はドイツ。
・オープニング。博士がクルマの中でロットワイラーの写真を見ているところ。「はい、この写真。3匹の犬がつながっています。とてもおもしろいでしょう?」と監督のお言葉。特になんの前置きもなく、コレです。並々ならぬ非凡さをかんじさせます。
・最初のへん。ふたりのカワイコちゃんがタイヤパンクしてこまったーなーと思ったら、ドイツ人キモオヤジが通りがかるところ。監督のお言葉。「この先、彼女たちが味わう恐怖に比べたら、このオヤジに10連続レイプされていたほうがましだったでしょう」。オヤジを演じたのはバーント・コストローというドイツの有名な俳優さんだそうです。このシーン、よく見るとルームミラーにえっちなアクセサリがひっかけてある。なかなか細かい演出。
・Goof。女の子たちがクルマを降りたときアシュリン・イェニーはバッグを持っていたが、森を歩くシーンではバッグは消えている。バッグを持って歩くとノイズがするからこうなったそうな。ま、いわれなければわからない程度のエラー。
・ディーター・ラーザーは撮影初日からみんなを魅了した。単に「ドアを開ける」という演技だけで、ただならぬオーラであった。
・家の中に飾ってある大きな絵(シャム双生児のヤツ)はトム・シックス監督が描いたものである。
・ディーター・ラーザーは60本以上の出演作品がある。バート・ランカスターやジョン・マルコヴィッチといった国際スターと共演したこともある。そんなキャリアを持ち、これほどホラー向けの俳優であるにもかかわらず、ホラー映画に出演依頼されたのは『Human Centipede』が初。
・『ジョセフ・ハイター(Josef Heiter)』という名前は、実在したナチスのわるもん科学者たち、フェター博士、リヒター博士、ジョセフ・メンゲラという3人の名前をミックスして名づけた。
・『ムカデ人間』の着想を得たのは、監督が友達と一緒にテレビを見てて、変態ペド犯罪者のニュースを見たときに「こんなヤツラは口とお尻をくっつけて、ムカデにしてしまうべきである」「おー、そりゃイイネー!」なんつって、それをやってみたということであった(でもこの映画のみなさんは犯罪者ではなく、無実の一般人です)。
・ついにムカデ人間が完成し、長年の夢を叶えた博士が感涙するシーン。監督のお言葉。「『ライオンキング』を見ているようです」
・博士の家は森の一軒家という設定だが、じっさいには近所に他の家もあった。芝生の庭でムカデ人間をどーこーするシーンでは、近所の家の窓から丸見えであった。ご近所さんはかなりおったまげたことであろう。
・博士がムカデ人間にエサを与えるシーン。博士が関西ヤクザの顔をケトばすところで、ディーター・ラーザーが足を顔に近づけすぎたもんで、北村昭博は怒って文句をいった。ふたりはケンカになった。その険悪な雰囲気のせいで、いいかんじの絵が撮れたから監督さん的にはよかった。監督のコメント → "They had a huge fight. But luckily, we could bring them back together." というくらいなので相当のもんだったのかなと思われるが、以下は私の想像なのでハズしてるかもしれないが、ディーター・ラーザーという俳優さんは、まぢに『成り切って』しまうひとなのかな。だからついやりすぎて相手を怒らせてしまうのかな。
・庭のウンコのシーン。監督のお言葉。「口のなかに他人のウンコが強制的に入ってくるという壮絶な悲しみを表現した、アシュリー・C・ウィリアムズはじつにえらい。このテイクはイッパツでオッケーでした」
・博士が自宅のプールで泳ぐシーン。全裸フルチンで泳ぐという演出は、ディーター・ラーザーの提案による。博士にとってムカデ人間はペットである。ペットの前でチンコをだすのは恥ずかしくないし、オナニーさえできるだろう、だからこのシーンはハダカで泳ぐべきであるという理由。
・「博士は人間ムカデに性的な興奮を覚えているのか?」という問いに対する答えは「ノー」である。彼は人間嫌いで、単に科学的な実験物として人間ムカデを見ている。
・博士が黄色いぐじゅぐじゅ液のにおいを嗅ぐところ、階段の血液を舐めるところ、博士がフルーツを食べるところも、ディーター・ラーザーの提案により、そういう演出になった。
・影響を受けた映画として、デビッド・クローネンバーグの初期作品『デビッド・クローネンバーグのシーバース / Shivers(1975)』『ザ・ブルード/怒りのメタファー / The Brood (1979)』『クラッシュ / Crash (1996)』に加え、クエンティン・タランティーノ全般を挙げた。また、この『人間ムカデ』に関しては、パオロ・パゾリーニの『ソドムの市 / Salò o le 120 giornate di Sodoma (1975年)』に直接的影響を受けた。
・ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映したとき、北村昭博が「ヨッシャー!」と叫ぶシーンでは、日本人の観客はすげーよろこんでた("They went wild.")。
・続編パート2『The Human Centipede (Full Sequence)』はただいま製作中。
Memorable Quotes
Dr. Heiter: I'm Dr. Josef Heiter, retired but still very well known as the leading surgeon in separating Siamese twins. Six months ago, I designed a never-seen operation not separating anymore but creating. I transformed my three Rottweilers into a beautiful three-hound construction. Good news. Your tissues match. So... I'll explain this spectacular operation only once.
We start with cutting the ligamentum patellae, the ligaments of the kneecaps, so knee extension is no longer possible. Pulling from B and C the central incisors, lateral incisors, and canines from the upper and lower jaws. The lips from B and C and the anus of A and B are cut circular along the border between skin and mucosa, the mucus cutaneous zone. Two pedicellated grafts are prepared and lifted from the underlying tissue. V-shaped incisions below the chins of B and C up to their cheeks connecting the circular mucosa and skin parts of anus and mouth from A to B and B to C. Connecting the pedicellated grafts to the chin-cheek incisions from A to B and B to C. Creating a Siamese triplet, connected via the gastric system. Ingestion by A, passing through B, to the excretion of C...
A human centipede... first sequence.
Dr. Heiter: One of my Rottweilers also tried to escape just before the operation. After I caught the dog, he had to take the middle position. In this position, the healing pains are twice as intense. Do you already regret your little escape? In fact, I'm thankful for it, because now I know definitely you are the middle piece!
Lindsay: Just kill me now. I'd rather be dead!
Dr. Heiter: Game over.
Dr. Heiter: Do this once more again to me, and I'll pull your teeth out one by one, you kamikaze shit hole.
Dr. Heiter: You want to bite me? Now you can bite me. Bite my boots. Bite my boots. Bite my boots! Ah, Mister Kamikaze is chicken today. [imitating Japanese]
Katsuro: おまえのやってることはな、オナニーなんだよ!
Dr. Heiter: How dare you to turn your back on me? I give you some education!
Katsuro: う、うぐ、う、うんこが!ご、ごめんよう、ごめんよう。
Dr. Heiter: Ahahahahha! Feed her! Feed her! Hard! Swallow it, bitch! Swallow up! Feed her! Feed her! Hard!
Katsuro: かみさま?神様ですかァ?おれは、ムシケラです。親を捨て、子供を捨て、愛を拒絶して生きてきました。ムシケラ、ムシケラ以下の存在です。で、でも、でも、神様!たとえそうどあろうとしても、たとえ、これが、あなたの、与えた天罰だとしても、お、おれは、人間であると、信じたいです。ねーちゃん!ねーちゃんたちー!おい、オッサン!奇妙な世界やな?!うぐごあああああああああああ。
ネタバレのあらすじは、下の画像の、そのまた下にあります。読んでみようという方は、ずりずりーとスクロールしてください。映画をご覧になってから読んだほうがいいですよ。
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2011/3/8, 3:15 PM