映画|レイト・フェイズ|Late Phases
盲目おじいちゃん vs ワーウルフの闘いを描いたホラー映画。アドリアン・ガルシア・ボグリアーノ監督の最新作。ニック・ダミチ、イーサン・エンブリー、ランス・ゲスト、トム・ヌーナン、ラリー・フェセンデン。2014年。
どっかの田舎。
盲目の老人、アンブローズさん(ニック・ダミチ)は、息子(イーサン・エンブリー)の付き添いで、クレセント・ベイていう老人コミュニティに引っ越してくる。
こんな雰囲気の町は日本では聞いたことがないので、なんと訳せばいいのかわからないが、ヘルパーさんのいない老人ホームってかんじですね。広い敷地の中にこぎれいな家が点在し、お年寄りたちが暮らしています。
介護ヘルパーはいないが、しょっちゅうおまわりさんが見回りにきたり、教会に通う定期バスがきたりする。静かに余生を送る老人たちは一様に寂しげではあるが、こんなところに住めるのは、幸せな部類であろう。
アンブローズさんは退役軍人。ベトナム体験が彼の人生に暗い影を落としている。日本でいうところの昭和一ケタ糞頑固。いまは穏やかな顔つきのおじいさんだが、若い頃には、ちゃぶ台ひっくり返しで妻を泣かせたんじゃないですかね。いまは妻亡く、彼の相棒はワンコのみ。
なにしろ頑固老人であるから、人から厄介者扱いされるのが大嫌い。自分のことは自分でできると信じる彼は、あれこれと世話を焼きたがる息子を追い返し、よっこらしょうと落ち着いた。おじいちゃん、みんなと仲良くしてくださいよ。いきなり銃を出したりしてはいけないですよ。そんなにつっけんどんだと嫌われてしまいますよ。
なんていう間もなく、やにわ、大暴れワーウルフが殴り込みをかけてくるではないか。この攻撃で、隣人おばあちゃんとアンブローズさんの愛犬が殺されてしまった。
イッパツ目の驚かせはものすごい迫力である。相手は年寄りなんだから手加減してやれ。といっても怪物さんには通じない。壁をズダーーン!ドシンドシン!並の年寄りなら音を聞いただけで心臓発作即死であろう。
おじいちゃん vs ワーウルフの闘いが始まる。
つっても、果たして闘いになるんでしょうか。相手は怪力バーサクのドンドン怪物ですよ。かつて老マイケル・ケインは『狼たちの処刑台 (2009)』でギャングを相手にひーこらいって闘ったけれど、あれもたいへんだったが、こちらは老人であるばかりでなく、目が見えないんですよ。だいじょうぶかなー。おじいちゃん、無理しないで。
そんな私らの声が聞こえているのか知らないが、本人は至ってマイペース。死んだワンコのお墓を掘って、巨大な墓石を注文。シャベルを杖代わりにして、どこへでもひとりで出かけていく。銃の手入れに余念がない。周囲からは変人扱いされてもぜんぜん気にしない。彼は次の満月の夜に向け、黙々と計画を実行しているようだ。
本作『Late Phases (2014)』は、Glass Eye Pixが制作に絡んでいるので、ラリー・フェセンデンも脇役で登場する。彼が演じるのは墓石屋のオッサンであり、おじいちゃんが銀の銃弾を手に入れるための手引きをする。登場時間は少ないが、重要な役柄だ。
ちょっと怪しい長身の神父様にトム・ヌーナン。定期バスの運行をやってる親切オヤジにランス・ゲスト。アンブローズさんの息子の嫁にエリン・カミングス。近所のおばあちゃんにティナ・ルイーズ。といったみなさんが登場します。
トレイラー動画
Late Phases (2014) trailer
感想
ボグリアーノの新作『LATE PHASES』はいままでのボグリアーノの雰囲気とは少しちがって、アメリカウケを配慮したのかなってかんじだが、でも、おもしろかった。さすがのニック・ダミチ!熱いドラマ!
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 14, 2015
Watched @agarciabogliano's LATE PHASES. Stubborn old man vs werewolf! Quite enjoyable while it was a bit different from Bogliano's style.
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 14, 2015
本作『Late Phases (2014)』は、制作国アメリカ、言語は英語、脚本はエリック・ストルツ(俳優のエリック・ストルツとは別人)ということで、アメリカ人観客の嗜好に配慮しているのだろう。これまでのボグリアーノ監督の作品に見られたようなブッ飛び感はかなり薄まっている。
そこは残念だが、良いところがたくさんあるから、これもいいかって思った。始まってすぐ。まず音楽がいいんだよね。ジャジャーンと引き込まれた。そのまま最後までおもしろく見れた。
ニック・ダミチという俳優は、どんな映画に出てきても、人生を感じさせる演技をするから驚く。彼が演じているだけで、役が大きく見える。この映画で彼が演じているのは、退役軍人のクソ頑固オヤジだが、並の人がこれを演じたら、まぁどこにでもいるような凡々たる男になるだろうが、彼がやっているとぜんぜんちがう。年老いたクリント・イーストウッドの荒々しさに、人生ドラマを演じたらピカイチのあの男、志村喬のエキスを注入したようである。なんていったら褒めすぎか。ま、そんなかんじなのですよ。
映画の冒頭でラリー・フェセンデンがこんな台詞をチョロッという↓
O'Brien: Yeah, people always think they got time.
「人は誰でも自分には時間が残されているって思っているものだ」
そして以下は、中盤において、アンブローズ老人が神父様に述べた台詞である↓
Ambrose: All I got left, Father, are consequences.
「わたしの人生に残されているのは、過去の遺恨だけだ」
とでも訳せばいいのかね。この場合、consequencesていうのは、『過去にやらかしたことへの代償/報復』みたいな意味だろう。この台詞は映画の主題に直結している。そう。これは老人のconsequencesを描いた映画なのですね。
80年代風のワーウルフ
注目のワーウルフだが、これもよかった。この映画は2014年のSXSWでプレミアされて話題だったが↓
当時の観客たちが『ハウリング (1981)』『狼男アメリカン (1981)』を引き合いに出して褒めていたが、確かにそうだ。80年代ノリの雰囲気である。
みなさんのレビューを読ませてもらったところおおむね好評だが、「モンスターの造形だけは頂けません!笑っちまった!」という感想がIMDbのBBSにあった。私は嫌いじゃないが、そういいたくなるのもわかる。以下はDarkSkyFilmsが公開したビハインドシーン写真だが↓
監督に演技指導されるオオカミ男
「おまえなー」「すません」
Exclusive BTS shot of @agarciabogliano and star from LATE PHASES, now on VOD, coming to DVD/Blu-ray March 10th! pic.twitter.com/MnPx9N4ffi
— Dark Sky Films (@darkskyfilms) February 13, 2015
オオカミ男さんは監督にとっちめられているではないか。ぜんぜんこわくない。でもこれはビハインドシーンですから。実際はもっとこわいよ。でも、基本はこの造形なのである。こわくないっていうか、どこか昔風。そこがいまのホラーファンには意外に思えたのだろう。
いいラインがたくさんあった
脚本にクレジットされているのはエリック・ストルツだけだが、ニック・ダミチ風の場面が随所にあり、彼も演出に口を出しているのだろうと思った(未確認ですが)。良い台詞がたくさんあった。こんなの↓
Anne: You know Ambrose, I was reading about this thing online: this great new microwave for the visually impaired. It actually reads the numbers out loud as you're entering them.
Ambrose: Jesus Christ, I'm not that goddam lonely.
息子の嫁「目が不自由な人に便利な電子レンジをネットで見つけたよ。数字を読みあげてくれるんですって」
頑固オヤジ「わしゃ、そんな寂しがりじゃない」
老人の息子の嫁が一人暮らしの義理父を心配し「こんな電子レンジを買ってこようか」と親切ゲにいったら、このオヤジは『しゃべる電子レンジ』を『寂しさを紛らわすコンパニオン機能つきの電子レンジ』と誤解しているのである。
世代間の断絶やこの男の頑固気質というものを、サラリとした会話でストロングに表現しているではないか。こんな脚本が私は好きだ。
本作『Late Phases (2014)』は、良質のアクションホラー映画であることに加え、盲目老人の孤独な人生というものを、悲しく、男らしく描いている。『ネズミゾンビ (2006)』『ステイク・ランド 戦いの旅路 (2010)』で彼のファンになった人は、間違いなくハマるだろう。男は黙ってサッポロビール・ミーツ・ハウリング!ですね!
ちょと深読みしよう
「この映画はボグリアーノらしさが薄い」と書いた。確かにそうなんだが、2度見して気づいたことがある。映画の後半で「〇〇さんがワーウルフだった!」と明かされるが、クライマックスのアクションシーンでは、複数のワーウルフが出てくるのだ。あれはどうしてなの?
そして、さらに気づいたのだが、その中に、目が白っぽいヤツがいた。白内障みたいに。あれって、もしかして、頑固オヤジは自分と闘っていたっていう意味なのかなって思った。でも、そいつは普通にまっすぐ襲ってきたから、目が見えているようだった。だから私の考えすぎなのかもしれない。
アドリアン・ガルシア・ボグリアーノという監督は隠しネタを仕込むのが好きである。これもいつかDVDが出るだろう。そしたらコメンタリで色々と明かしてくれるだろう。そこで初めて「やはりボグリアーノだ!」と気づかされるのだろう。たぶん。
いちおう書き添えておくけれど、監督コメンタリを聞かないと映画の意図がわからない映画なんてダメである。だから、そういうのは別に聞かなくていいし、知る必要もない。でも、この人のウラ話はおもしろいのだ。映画のウラ話を知ったからといって、一銭の得にもならないが、そこを知りたいのがファン心理なのである。
私は『Late Phases (2014)』をiTunesUSで見ました。近いうちにDVDも出ると思います。
ちょっと追記
記事をアプした後、この映画についてうだうだとtwitterでしゃべってて↓
んで、その後、白い目のワーウルフが気になるので、ボグリアーノさんに質問してみましたよ↓
@agarciabogliano Thanks for the RT! One question. I remember one of werewolves in climax looked white-eyed like it was blinded.
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 17, 2015
@agarciabogliano I'm not sure but I felt Ambrose might be fighting against himself. Was it your intention?
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 17, 2015
@agarciabogliano I really expect to listen to your commentary when DVD is out. Hope @darkskyfilms include it on DVD. Thanks!
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 17, 2015
そしたら返事くれました。うれしい↓
@horrorshox @darkskyfilms Love that interpretation about the white eyed werewolf!
— AdriánGarcíaBogliano (@agarciabogliano) February 19, 2015
@horrorshox There is an idea of him and the lead werewolf to have some similarities.
— AdriánGarcíaBogliano (@agarciabogliano) February 19, 2015
@horrorshox I explore some of tose ideas on the commentary that will appear on @darkskyfilms DVD. Although if you can, look for the blu ray!
— AdriánGarcíaBogliano (@agarciabogliano) February 19, 2015
なるほどー。
その後、またうだうだと↓
ボグリアーノさんが返事くれた。ワーウルフと彼には類似性がある。詳しくはもうすぐ出るBluRayのコメンタリを聞け。だそうです。>RT @HorrorFulter
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 19, 2015
@horrorshox 類似性ですか?うーん……孤独と闘争本能がハンパないくらいしか思い浮かばないんで、とりあえずもう一回観ます(^^;)商売上手ですねボグリアーノさんは笑
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) February 19, 2015
@HorrorFulter 彼のコメンタリはおもしろいんですよ!私、後から気づいたのですが、ワーウルフは家族みたいだったじゃないですか。仲間が殺されるとわんわん怒ったりして。それがダミチさん演じるジイさんと似通っているんじゃないかな。とか。
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 19, 2015
@horrorshox なるほど!爺さんも愛犬や表向きは心開いてなくても同じような境遇の隣人婆さん殺されて、復讐挑むんですもんね。
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) February 19, 2015
@HorrorFulter そうそう!
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 19, 2015
@HorrorFulter あっ、んで、最後のあの殺し方が!ワーウルフの〇〇にズボッと!
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 19, 2015
@horrorshox そうすると合点が行きますね!ふと思ったんですが爺さんとワーウルフの戦いはサイドメニューで、親子、仲間、家族のあらゆる形の絆がメインメニューな気がしてきました。
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) February 19, 2015
@HorrorFulter おー。てことは、ダミチ流の家族ドラマを、ボグリアーノ手法でやった映画なんだ!と思えてきました。
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 19, 2015
@horrorshox そのような感じです、上手く言えないんですがホラーの皮を被った家族ドラマというか。
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) February 19, 2015
@HorrorFulter おもしろい!この一連のチャットはおもしろいので、あとでブログの記事に追記する風に引用していいですか。
— Hiro Fujii (@horrorshox) February 19, 2015
@horrorshox はい、喜んで!
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) February 19, 2015
という次第で、暫定結論を得ることができました。東洋の純真さん、ありがとう。私たちの考えがどこまで当たってるのかわかりませんが、こんな風にしゃべってると楽しいですね。
それにしても、twitterてのは便利なもんだ。映画を見終わった後に監督に質問して、ファン同士でこんな風にしゃべれるなんて!SF映画のようだ!
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