2008/3/30 (Sun) at 11:08 am

映画|シュラム 死の快楽|Schramm

孤独死するシリアルキラーの脳裏に浮かんだ刹那の心象風景。惨めな変態孤独男の性生活sex暴力。フロリアン・ケルナー・フォン・グストルフモニカ・M。監督ユルグ・ブットゲライト。1993年。ドイツ映画。

シュラム 死の快楽 / Schramm DVDDVD画像

"Today I am dirty, but tomorrow I'll be just dirt."
- Carl Panzram

通称リップスティックキラーと呼ばれるシリアルキラーが孤独死した。家に招き入れた宗教勧誘の男女を惨殺した後、壁の血痕を消すためにペンキ塗りをしてた彼は足を滑らせて脚立から床に転落。そのまま死亡。この映画は彼が死んだところから始まり、死んだところで終わる。死にゆく変態男の脳に閃いた記憶の集積ビジョン。

男はデブハゲの短小包茎である。彼がマラソンをする夢風景がしばしば挿入されるが、彼は元々アスリートだったんだろうか。あるいは憧れの夢っちゅうことかな。歪んだコンプレックスゆえに性格は内向的であり、女性との接点を渇望しつつも手が出せない。だから殺して犯ッちゃう。男は犠牲者の唇に口紅を塗るという儀式を重んじる。だからリップスティックキラー。

ある日、隣の部屋に住む美女に声をかけられた。高級娼婦である彼女は「謎の金持ち男に出張サービスをすることになったから送り迎えをしてほしい」といった。男が頼みを聞いてやったら、女は気前よくめしをオゴってくれた。デートである。彼女は男を信頼しているような口ぶりだが、心の中では彼を見下しているのかもしれない。それはそうかもしれないが、こんな美女が寄ってくるなんてラッキーじゃん!うまいことやってヒモになるなりすりゃいいと思うんだが、彼の場合はちがうのだ。

女を睡眠薬で眠らせた。殺しちゃうのかと思ったら「ファッキングカント!このメスブタめ!」と罵倒しながら目の前でオナニーをしただけだった。なぜ彼が一般的な手順で女と交流することを望まないのか私には謎なんだが、これもコンプレックスのせい?あるいは狂ってるから?女性を憎んでるから?ぜんぶ?

鬱屈した男の日常がまったりと描かれていく。その合間に醜怪な幻視が出たり消えたりする。数々の見るに耐えない映像が連続するんだが、私が思うに、この映画にただならぬ気迫を与えているのはあのシーンがダントツである。それは片足がちぎれる幻視でなく、歯のついたヴァギナ肉塊でもなく、包茎チンコの包皮にクギを打ちつけるイテテな映像でもなく、歯医者にめんたまをえぐられるグロ映像でもなく、男がハダカでダッチワイフ相手に射精したときでもない。

私がいちばん感動したのは、使い終わったダッチワイフを風呂場で洗うシーンであった。ビニルの穴に指を突っ込んでジャブジャブ洗うデブ男の姿は、これでもかっちゅうくらいに孤独だった。真性のダメ人間。空気吸ってるだけみたいな。私はかつてこれほどにみじめな風景というのを映画の中で見たことがないヨ。コメンタリの中でモニカ・Mも「このシーンはイイ」といっていた。

もしこれがなかったとしたら、この映画の印象はガラリと変わってたと思う。グロな特殊効果をいくつかやってみました的な普通のホラーで終わってたんじゃないか。こんな役を演じた俳優はもうなんでもできちゃうだろうなという気がする。とにかくやることなすこと狂ってて変態だという印象を観客に与えつつ、冒頭の殺人場面に戻る。男は死んでいく。娼婦女は運転手役の彼が部屋から出てこないのでひとりででかける。彼女が金持ち顧客相手にSMボンデージプレイをやってる場面に移り、彼女のウギャー顔アップでおしまい。エンドロールでは彼女のポラ写真が見れた。

隣人娼婦を演じたのは『ネクロマンティック 2』のモニカ・M。男を演じたフロリアン・ケルナー・フォン・グストルフも同作品にチョイ役で出ていた。彼はこの映画の役づくりのために35ポンド(役16kg)増量したそうである。徹底的にダメ人間であるためには、醜悪なデブである必要があったのだな。

英語版DVDには "Into the Mind of a Serial Killer" ていうサブタイトルがついている。『シリアルキラーの心の中』てかんじか。この映画を見てシリアルキラーに同情/共感する観客はまずいないだろう。こんなやつは生きてる価値なしとだれもが思うだろう。この映画を観たひとが「こうなりたい」と思うわけがない。シリアルキラーってもんを徹底的にコキおろし、デブハゲのコンプレックスの塊と決めつけ、そこになんのエクスキューズも与えていないわけだから、この映画は正しいメッセージなんじゃないかとわたしゃ思うんだが、世の中にはこれを反社会的な映画と考えるひとも大勢いるみたいである。監督!がんばってくださいヨ!

1993年の『シュラム / 死の快楽』以来、ユルグ・ブットゲライトは新作映画を発表していない。この15年のあいだにテレビドラマのエピソードをいくつかをつくったのと("Lexx"、"Durch die Nacht mit...")、いくつかの小さな実験的な映画に出演しただけである。このへんのは"Lexx" 以外ドイツだけみたいでよくわからない。あと短いミュージックビデオのクリップをつくったらしいとどこかで読んだのだが、ソースをなくしてしまった。そろそろ次回作を期待したい!

以下、DVDのメイキング/コメンタリの中から小ネタをいくつか。

ユルグ・ブットゲライトの他の作品と同じく、メイキング映像は楽しそうである。この映画はインディーズであるからして、ディレクターといえども荷物運びはするし、カメラマンのお手伝いもするし、みんなでワイワイガヤガヤと創作をしてる雰囲気だ。女優のモニカ・Mさえもよっこらしょーと鉄パイプ運びを手伝っていた。ファミリーっぽくて和みます。

いままで何度も使われた定番手法、コの字型に組んだ鉄パイプにカメラをとりつけてグルーリと回していくヤツが今回も使われていた。『シネマ・イン・シネマ』は使われなかった。またユルグ・ブットゲライト本人がいつもチョイ出演をするんだが、今回はなかった。最後にスモークの中から出てきた神(ですか?)がもしかしてと思ったんだけど別人だった。

主役を演じたフロリアン・ケルナー・フォン・グストルフは、当時タクシー運転手をやめて自分の映画プロダクションを設立したばかりだった。彼は別の映画のプロデューサー業をやりつつ映画に出演した。デブになれといわれて、ハダカにされて、オナニーしろといわれてスゴイ人生だな。彼は楽しいオッサンってかんじのひとだ。撮影で使われたタクシーは彼が働いていた会社から借りてきた。

殺されたふたりの男女は俳優でなく素人さんだそうである。いい演技してましたよね。眼鏡の男性が映画のパッケージデザイン、男の顔に血がドバーとついてるアレをデザインしたそうです。

主演のフロリアン〜がいっていたんだが、ユルグ・ブットゲライトは胃が悪くていつも薬を飲んでたそうである。メイキング撮影時点の話。表情はニコニコして楽しそうだったが『ネクロマンティック』のときよりもずいぶんやせたなーという印象である。いまの彼の顔を見てみたいんだけど、どこでなにしてるんでしょう。

Schramm trailer

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原題: Schramm
別題: Schramm: Into the Mind of a Serial Killer
邦題(カタカナ): 『シュラム 死の快楽』
制作年: 1994年
制作国: ドイツ
公開日: 1994年9月14日 (カナダ) (Toronto International Film Festival)
1997年4月22日 (スペイン)
2001年3月13日 (アメリカ) (DVD)
2011年4月22日 (フランス) (Lyon Festival Hallucinations Collectives)
imdb.com: imdb.com :: Schramm
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
音楽
シネマトグラフィ
編集
特殊効果(Special Effects)
Makeup

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