2010/1/16 (Sat) at 5:29 pm

小説|オンリー・チャイルド|ジャック・ケッチャム著

A感覚サディストレイパー幼児虐待者の魔の手から息子を守るママの絶望を描いたハードコア小説。ジャック・ケッチャム著。

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さて今回のわるもん、アーサー・ダンスはこんなひとである↓

  • 商売の才がある金持ち男。
  • 政界や法曹界に知り合いが多い地元の名士。
  • 見た目ハンサム、物腰柔らかなモテ男。
  • 車はリンカーン。
  • 銃のコレクションが自慢。
  • じつはサディスト。
  • じつはレイピスト。
  • アナルセックスを異常に好む。
  • とにかくアナル。
  • アナルひとすじ。
  • レイプする対象は女性だけでなく子供もアリ。
  • 自分の子供を日常的にレイプする。
  • 子供時代、ママに虐待されていた。
  • シリアルキラーである可能性99%。

以下、ネタバレ度中です。

物語

女は自分の恋人を優しい男だと信じて結婚したが、相手がサディスト趣味の暴力男とわかったもんで速攻で離婚した。が、本当の悲劇はここからが本番である。「子供に対しては優しいパパ」を巧妙に演じる男は父親が子供に会う権利を主張し、これが認められた。女は法廷の命令により、定期的に息子を預けなければならない。

子供は父親と面会する度にレイプされる。子供は以前から原因不明の異常行動をしていたが(つまり離婚する前から虐待されていた)、それがますますひどくなる。ママは大心配であり、カウンセラーに連れて行って異常の原因を知ろうとするが、子供はなにもしゃべらない。

ある日、ママは息子のお尻の傷を見て真実を知り、怒り狂う。彼女自身もアナルレイプされた経験があるからイッパツでわかったのだ。息子をあんなキチガイに会わせたくない!弁護士やらカウンセラーやらの協力を得て法律的な手順を踏むのだが、これがうまくいかない。ジャック・バウアーみたいにガガーとブッ殺す!というわけにはいかないのがむずかしいところなのだ。相手は有能な弁護士に守られて巧妙かつ陰湿に責めてくる。レイプされた子供本人がしゃべってくれればいいのだが、彼の口は重く閉ざされている。ママは息子を守るために闘う。

感想

この小説の中には過激な描写が含まれるけれども、その恐怖はレイプ描写そのものよりも、法律がいかにこの種の犯罪に対して無力であるかという点を描いているところである。後半のスピード感あふれる展開はすごくうまくて、よくできた法廷ドラマを見ているように引きずり込まれる。よほどのヒネクレ者じゃない限り、この小説を読む読者はかわいそうな女性リディアとレイプされる少年ロバートを応援しつつ読むと思うんだが、これがまたじつにうまくて、物事が好転したと思ったら穴ぼこに落ちたり、じつにハラハラドキドキなのだ。そして最後はケッチャムらしく絶望のラストに落ちる。

愛する息子のために闘うママの姿はサラ・コナーのようだが、サラ・コナーの場合は、死んでしまったとはいえ、カイル・リースという立派な父親がいたのだ。サラは幼いジョンに父親がどれだけ勇気ある男だったかを語ることができたが、こちらの不幸女リディアの場合は、息子の口から「パパはぼくのおしりにちんこをつっこんだ。すごくいたかった」という証言を引き出さなければいけないのである。それをいわせないと息子を救えないから。WWSD = What Would Sarah Do? = サラならどうする?

ひとつ疑問。もしこのアーサーていう変態男が、アナルセックスに快感を覚えるM女パートナーに出会っていたら彼の人生はまるで違っていたのだろうか。彼はよきパートナーを相手に背徳的ではあるが無害なセックスライフを楽しみつつ、まっとうな人生を歩んだのだろうか。

答えはノーだと思う。

本来、SMというのは「愛がなくちゃだめ」という唯一のルールによって支えられる行為であろう。愛があって初めてSMプレイは成立すると思うんだけど、アーサーの場合は、相手がまったく楽しんでいない、単純に苦痛から逃れたがっている、という情況に興奮する体質であるからして、おそらく彼のような人間がアナルセックス好きな女に出会ったら、プレイ開始3秒で飽きるだろう。そしてアナルに代わるなにかを求めるだろう。病質者はなにが起きても病質者である。

以下、ネタバレ全開です。
小説を未読の方は読まないほうがいいです。

息子ロバートが元夫アーサーに虐待されていると知ったリディアは、大急ぎで弁護士を雇って法的な手続きに走る。医者やらカウンセラーやらにロバートを連れ回し、なにが起きたかをほじくり返すという行為はロバートにとってじつに辛いのは承知だが、それを立証しない限り、相手は父親ヅラをしてロバートに会えるのである。危険を退けるためにはやらねばならぬ。

裁判が始まる。法廷に関係者たちが呼ばれていくつかの証言をし、双方の弁護士がしゃべったけれども、確証得られず。判事はどちらのいいぶんが正しいのかわからない。ロバートがすべて告白すれば白黒はっきりするが、彼はこわいパパに「ママを殺すぞ」と脅されてしゃべらない。子供はママを守るために沈黙しているのである。という点を知るのは鬼畜アーサーと小説を読む読者のみ。リディアは裁判をやるうち、法廷に対し不信感を持つようになる。法律は弱い者を助けてくれないのだ。

「もしアーサーが無実という判決が出たら、あなたは法律に従うか?」といういぢわるな質問をされたリディアは「なにがあろうと息子を守る」と答えたが、それが心証を悪くしてアーサー有利の判決が出てしまう。「虐待の証拠はない。ロバートの監護権はアーサーへ」と聞いたリディアは気が狂わんばかりであり「息子を連れて逃げる」といったが、弁護士にかろうじて説得される。いまソレをやったら、完全に彼女のほうがわるもんになってしまうからである。

どうしようもなくなったリディアは、息子に判決を告げる。息子はそれを聞くとやっとしゃべる気になり、レイプされたときの状況をあらいざらい告白した。おぉおお。ここまでこの小説を読んできた読者はガッツポーズである。ロバートの証言はすぐにビデオ録画され、判事に送られる。

ところが、またもや法律の壁に阻まれる。判事がこの証拠テープを検討するあいだのみ、子供は父母いずれのところにも行かず、福祉施設で一時預かりになるというのである。それはほんの2、3日で終わるといわれて承知するしかなかった。

リディアはふたりきりでロバートに面会できる。アーサーは面会できるが、監督者が同席しなければならない。というルールなんだが、リディアはじつに心配である。陰湿アーサーが監督者の目を盗んでなにをやるかわかったもんじゃない。と思ったら、やっぱりアーサーは監督する係員の目を盗んでロバートを脅す。これを受けてロバートは証言を撤回する。「あれはぜんぶうそだ」といいだす。リディアはまたもや絶望する。

この時点で、弁護士でなくアンドリュー・ヴァクスのバークに電話すればよかったのだが、小説の作者がちがうので、バークも彼女を助けられないのだ(ヴァクスは小児性愛変態テーマのハードボイルド小説を書いている小説家で、バークてのは彼の小説に出てくるヒーローキャラの探偵です)。

結局のところ、判事は証言が二転三転する子供を前に、どちらを信じてよいのかわからず、じつにバカな判定を下す。

「父も母も息子といっしょに暮らしちゃだめ。ロバートの監護権はアーサーの両親(ロバートの祖父母)に与えられる。アーサーは両親の監督の元でのみ息子に面会できる」

という判決であった。これは「いくらなんでもジジババのいるまえで虐待をしないだろう、祖父母はそれを許さないだろう」という意図なんだが、元はといえばこの祖父母たちが狂った教育をしたせいでアーサーのようなモンスターができちゃったわけで、そんな祖父母に子供を預けるなんてリディアは納得できないし、アーサーが自分の両親をまるめこんで息子に接近しようとするのもミエミエである。てわけで、リディアは無力感をかみしめるが、それでもせめてやれることはやるのだという気合いで毎日時間の許す限りアーサーの両親の家に通い、息子に面会する権利を行使し続けることにした。

ところで、法廷話の合間に、別のサブストーリィが進行する。

連続レイプ殺人事件が発生しており、しょっちゅう女の死体が発見されるが、警察は犯人の手がかりを得られない。地元警官のダッガンは子供時代のアーサーを知る人物であり、彼はひそかにアーサーがキラーではないかと疑っている。でも証拠はない。

※『黒い夏』においても、チャーリーという刑事が殺人者レイを執拗に追ったけれども、あれと似たキャラですね。

キラーはミスをする。殺されかかった女が必死のファイトで逃げることに成功したのである。警察にとって初めての目撃証言者であるからして、これは大きな手がかりである。キラーの車はアーサーが所有するリンカーンと同型。さらに作成されたモンタージュ似顔絵はアーサーにそっくりだった。ダッガンは自分の勘が正しかったと確信したが、その日からアーサーは姿を消した。職場にも現れないし、彼のリンカーンは見つからない。

こちらはリディア。彼女にとってシリアルキラーの事件なんか関係ないわけでロバートのことで頭がいっぱいなんだが、彼女はアーサーが両親の家に隠れていることを知る。これは法廷が下した判決に背く行為である。彼女はすぐさまポリスに連絡したが「礼状を取るのにどーのこーの」とこれまた役立たずなことをいう。唯一わかってくれそうなダッガンに直接連絡したが、こちらは不在だったので奥さんに緊急の伝言を残した。というやるだけのことをやったけれど、もはや待ったナシである。法律なんかに頼っていられるか!と銃を持って突撃する。家に侵入。息子の見る前でアーサーを射殺。ダッガンが到着したのはその直後であった。遅いなあ。

てわけで、わるもんアーサーは死亡したわけだが、警察は彼がキラーであると証明できなかった。アゴに銃弾を受けたせいで顔が変わってしまい、唯一キラーの顔を知る生存者女性は判別できなかったのである。アーサーはすでに死んだのだから、キラーであることの証拠なんかどうでもいいではないかという意見は早計である。なぜならその結果によって、リディアに対する心証がまるきり変わってしまうからだ。アーサーとキラーとの関係は結局わからずじまい。これはリディアにとって不利に働いた。

エピローグ。

リディアは殺人罪で起訴される。正当防衛は認められず、息子を守るためにやったという主張は退けられ、事件前のロバートの告白ビデオは信用されなかった。有罪判決。仮釈放まで残り15年。彼女が出所するときにはロバートは24歳である。

さらに悪いことに、ロバートの監護権はアーサーの母、ルースに与えられた。ルースはアーサーを育てた虐待ママである。リディアにはバーバラという妹がいるんだが、バーバラが独身だからというだけの理由で、ルースが引き取ることになった。という踏んだり蹴ったりの結末であるが、リディアは深く同情を寄せるリポーターに対して現在の心境を語った。

「ロバートが父親に虐待されることは2度とない。それでじゅうぶんです」

その頃、ロバートは祖母に虐待されている。

これでおしまいですが、このネタバレは物語のうわっつらを要約しただけで、じっさいの小説のなかではリディアとアーサーの子供時代の話などもあり、物語にいろんな肉づけがされています。未読なのにネタバレを読んじゃったせっかちなあなたもぜひ小説を手に取ってケッチャムの絶望筆致を体験してください。

ところで「警察がキラー = アーサーを立証できなかった」というのは、冷静に考えてみると不自然な気もします。住居や車に残された証拠を精査すればわかりそうなもんなのになと思うんですが、まぁ、読んでいるあいだはまったく不自然に思えなかったし、アーサーはそれだけ注意深く証拠を隠滅したということでオッケー。

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