映画|憲兵と幽霊
戦時中の日本を舞台に、非道悪辣な憲兵さんがみんなを不幸にしてニタニタするホラー映画。悪漢を演じる天知茂の冷血ウスラ笑いを楽しもう。天知茂、久保菜穂子、中山昭二。監督 中川信夫。1958年。モノクロ。
戦時中の日本。
憲兵中尉の波島(天知茂)は、ヤサ男ダンディな外観からは想像もつかない、世にも悪辣な手腕で己の欲を満たす鬼の憲兵である。
惚れた女、明子(久保菜穂子)を手に入れるべく、知悉を尽くして部下の高橋軍曹(三村俊夫)を操り、女の夫である正直者の田沢伍長(中山昭二)を国賊の裏切り者に仕立て上げ、銃殺刑に処す。
さらにその母(宮田文子)を死に至らしめ、悲しみに暮れる未亡人、明子を陰湿に弄び、てごめにする。飽きるとポイ捨て。良心のカケラもない悪の所業。
だれにも知られることなく、スイスイと悪事を重ねた波島は中国に出征を命じられる。そこで彼を待っていたのは、かつてヒデー目に遭わせた男の弟(中山昭二が一人二役)であった。
希代の国賊、卑劣漢はいつしか追われる身となり、奇怪な幻影を見るに及び、そして破滅する。
敵国スパイのサングラス男、張覚仁に芝田新。天性の犯罪者、憲兵波島に惚れてメロメロのお色気ネーチャン、紅蘭さんに三原葉子。波島の上司、小森憲兵中佐に中村彰。張覚仁の替え玉男に國創典。といったみなさんが登場します。
漢口のナイトクラブのシーンでは、万里昌代のお色気ダンスがある。また、当時の人気歌手、胡美芳が出てきてうたを歌う場面もあります。
感想
天知茂・オン・ステージ。ですな。
おれ、頭いいよ。みたいな顔でわるいことをたくさんやる。顔演技がノリノリ。わっはっはー、じゃないんですよ。常にニタニタです。天知茂のニタニタはダンディです。下品にならないニタニタをここまで表現できる俳優は他にいないでしょう。
ニタニタの中にも様々なニタニタがあり、ニタニタの深みをかんじます。天知茂は、ニタニタ俳優として持てるニタニタを遺憾なく出し切ったのではないでしょうか。全身全霊を賭けて、ニタニタ表現に取り組んでいますよ。すばらしい。
持ち前のニヒル顔でスイスイニタニタと悪事を重ねるんだが、やっぱり最後には自滅します。オバケが出てくると、さすがにニタニタは影を潜めます。彼もオバケはこわかったんだと思うと、安心するような、残念なような、不思議なきもちになりました。
と思ったら、最後の最後で驚きました。彼はすべてを失い、みじめに捕縛されるんですが、当然ながら、悔しげな顔をするんですが、よーく見ると、その致命的な状況においてさえ、ほんのりとウスラ笑いを浮かべているように、私には見えるのです。
諦めと悔しさがごたまぜになった負け犬感の中に、一抹の寂寥感漂うニタニタが、私には確かにかんじられるのです。ニタニタ・サムシングてかんじ。正直、ここまでやるとはおもいませんでした。俳優、天知茂の底力を見た思いがしました。
墓地の場面は演出がおもしろかったですね。十字架とか、西洋風の棺桶とか、ドクロなんかが出てくる。ああいうのは西欧のホラー映画に影響を受けているんだろうか。
ところで、チト余談ですが、古い映画を観ると、言葉遣いが現代と違うので、笑ってしまう表現によく出くわすんですけれど、この映画にもありましたよ。
天知茂が善人ぶって、久保菜穂子に「お母様の具合はいかがですか」と尋ねるところ。久保菜穂子はこの男が悪人だなんて知らないので、まじめに答えます。とっても具合がよくないと伝えるのに、彼女はシリアス顔でこういったんですよ↓
「大きな刺激を与えると発狂するなんて、先生はおっしゃいますの」
驚きました。発狂すか。いくらなんでも「刺激を与えると発狂する病気」なんてこの世にあるんでしょうか。私、初めて聞いたよ。ほんとにあるの?
天知茂のニタニタアルバム
希代のニタニタ犯罪者、波島さんのニタニタ顔を連続写真でご覧頂きましょう。
ネタバレです
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Kenpei to yûrei | |
M.P. and the Ghost | |
『憲兵と幽霊』 | |
1958年 | |
日本 | |
1958年8月10日 (日本) | |
imdb.com :: Kenpei to yûrei |
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