映画|東海道四谷怪談
ジャパンクラシック夏ホラーの定番『お岩さん』だよ。天知茂、若杉嘉津子、江見俊太郎、北沢典子。監督中川信夫。1959年。
備前岡山。
民谷伊右衛門(天知茂)はお岩(若杉嘉津子)との結婚に反対されたがあきらめきれぬ。お岩のパパを夜道で待ち伏せし「そこをなんとかよろしく頼むおねがい許してお願いします」と土下座ムードの直談判。相手はこれをセセラ笑うのであり「浪人風情がなにをいうか。このゴミムシめ。えーいどけコノヤロ」とコバカにされた伊右衛門、ウガーと瞬間沸騰。バッタバッタと相手を惨殺。おもいしったかくそったれええ。ふうふうザマミロ。後先考えずに人を殺しちゃったわけだが、一部始終を見ていた下級家来ポンビキ風の直助(江見俊太郎)は根っからのわるもんで、この単純バカサムライの伊右衛門に「ダンナ、いい考えがありますぜ。あっしにまかせておくんなせー」と言葉巧みに取り入り、ふたりはコンビ結成。
直助のアシストを得た伊右衛門は罪を逃れ「カタキ討ちに手を貸す」という名目で恩を売り、チャッカリお岩さんのハートをゲットすることに成功した。直助がなんでこんな世話を焼くかというと、彼のほうはお岩の妹のカワイコちゃんのお袖(北沢典子)に惚れているからである。こっちのほうは婚約者がすでにいたので、直助ひとりではどうにもならんので「あんたを助けた代わりにアイツを殺してくれ」と密約をしたのである。伊右衛門は気が進まぬ風だったが「武士の言葉に二言はない」という単純ロジックがこの男の信条である。気の毒な善良男、与茂七(中村竜三郎)を滝に突き落として約束を守った。
以後、舞台は江戸に移ります。
伊右衛門はお岩さんと、直助はお袖さんといっしょに江戸に来て新生活を始める。各自は惚れた女を手に入れて望みを達成したが、これが思ったよりも楽しくない!伊右衛門には赤ちゃんができたが、武士は食わねどツマヨウジの伊右衛門は生活力ゼロである。貧乏長屋暮らしのカサハリ浪人。病弱お岩は陰気顔で「いつパパのカタキを討ってくれますの」ばかりいうからむしゃくしゃする。えーいやってられんわ。お酒をごくごく。うぃー。直助に至っては「パパのカタキ討ちの手伝いをするというから、わたしはおまえのような下級チンピラといっしょになったのだ。カタキ討ちが終わるまではSEXナシだぞ」と寸止め宣言されてトホホである。単純バカサムライと悪党はそれぞれの事情で悶々とする。
伊右衛門は江戸の町でひょっこりカワイコちゃんと出会う。お梅さん(池内淳子)は可憐な美少女で、立派な家柄の娘である。偶然に彼女を助けてやったことをきっかけに交際スタート。お岩さんのパパにはゴミムシ扱いされた伊右衛門であったが、今回はお梅さんのパパにもゾッコン好かれてイイカンジ。こうなるとお岩さんが邪魔である。またもやわるもん直助のアシストを得て、こんどはお岩さんを葬り去る計画を立てる。
直助が手に入れてきた毒薬をお岩さんに飲ませ、さらにレスラー顔スキンヘッドの汗だく男、宅悦(大友純)に「うちの奥さんとヤッちゃっていいよ」と誘ってみた。非道である。なにも知らないお岩さんは、日頃は冷淡な夫が急に親切なことをいいだして、薬を飲ませてくれたり、按摩を呼んでくれたりするので大感激アメアラレ。「やっぱり、いえもんさまはいいひとだー」と泣いて喜ぶ。かわいそ。
悪だくみを聞かされて按摩に呼ばれた宅悦は見ためほどの悪人ではなかった。きれいな奥さんとうっしっしと喜んでやってきた彼だったが、ドタンバで相手が気の毒になり、ぜんぶバラしちゃう。「アンタのダンナに頼まれたんですぜ。どうか許しておくんなさい」という言葉を聞いたお岩さんは悲しみ、悔しがる。母の形見のクシで髪をすいたらガボッと抜け落ち、その顔には醜悪なデキモノが!すべてを知ったお岩さんは絶望する。若杉嘉津子の長台詞演技を楽しもう!
「うらめしやー。いえもんどの。なんの罪科もないこのわたしに、ようもようも、こんなむごたらしいめに、不憫なぼうや、なんでそなたはあのいえもんなどに、この母といっしょに死んでおくれ。かわいいそなたを残して、母は成仏できませぬうう。血も涙もない極悪人のいえもん、このうらみ、はらさずにおくものかあああ」
絶望したお岩さんは怨みの言葉を残し、ベイビーと共に自殺。そこにやってきた伊右衛門は宅悦からなにがあったのかを聞きだすと「不義密通の不届きモノが〜」とわるもん台詞を述べて、宅悦をズバンと殺す。直助を呼び、ふたりの死体を戸板に打ちつけて川流しポイ。真相を知る者はいない。一丁アガリである。伊右衛門は第一線を超えてしまった自分を恥じているようであり、直助に「おれのきもちがわかるかバーロー」などと毒づいていたが、ここまできたらヤメられないのだ。毒食わば皿まで。なにも知らないお梅さんとスピード結婚する。フルハム伊右衛門だ。これで貧乏浪人生活とはオサラバ。おれの人生は最高だよわっはっはー。
と思ったら、お岩さんのオバケがジャジャーンと出てきて、伊右衛門をおののかす。新ヨメもおののく。新婚初夜のベッドにオバケが現れ、血迷った伊右衛門はなんと新ヨメを殺してしまう。ひぃ。ついでにお手伝いのオバサンまで殺しちゃってまたまた転落人生まっさかさま。罪を隠蔽しようとするたびに彼は落ちていく。お岩さんのオバケはまだまだ許しちゃくれません。自分を不幸にした伊右衛門をトコトン追いつめ、彼を苦しめるのだ。もう許してもらえないのだ。
ラスト。
伊右衛門はすべてを失い、お岩さんと宅悦のオバケにヒィヒィいわれされ、もはや狂死寸前。ここにやってきたのが、お岩さんの妹、お袖さんとその恋人の善良男の与茂七である。与茂七は滝壺で転落死したかと思われたが、じつは生きていた。お岩さんのオバケに導かれてふたりは再会し、すべては伊右衛門のわるだくみのせいなのだと知ったのである。ふたりは『善良!』を絵に描いたような白装束に身を包んで伊右衛門をうりゃうりゃと追いつめます。
伊右衛門は剣の達人である。オバケに苛まれてヨレヨレながらもしぶといあがきで抵抗するが、大地の裂け目から現れるお岩さんオバケに気をとられ、ついに倒れる。ヒキツリ顔でうへえええとおののき「おいわああ、ゆるしてくれええ」と哀れな叫びをあげつつ、壮絶に死亡。いまさら後悔したって遅いのだ。
怨みを晴らせたお岩さんは、やっとこさ、赤ちゃんといっしょに成仏されました。おしまいー。
※感想
夏ホラーの定番、お岩さんのお話でした。細かい丁寧なつくりと工夫がなされており、天知茂のニヒルな絶望演技もとてもよくって、たいへん楽しかったです。
youtubeにガイジンが語る四谷怪談てのがありました。ブロンド美女が出てきて、四谷怪談をレビューしています。このひとすごいよ。「YOTSUYA KAIDANは歌舞伎のお話がモトなんだよ。日本の有名なホラー話だからこれまでにたくさん映画化されています。アタシのオキニはなんつっても中川監督のヤツと、仲代達也のバージョンねー。仲代達也はミフネとおなじくらいの大スターなんですヨ」てな具合に熱く語っています。日本人に見られることを意識しているのでしょうか。とても聞きとりやすい英語でしゃべってくれてるのでいちどご覧ください。日本のホラーボーイは彼女のファンになることまちがいなし!
四谷怪談のあらすじ紹介、歴史背景のおまとめから始まってジャパンホラーについての意見を述べておられます。ハショリ気味の要約意訳↓
「復讐する黒髪の女のオバケ、水、家族間トラブル、色恋沙汰というような日本のホラーにおなじみのエレメントがそこにはあります。個人的な感想を述べると、1959年の中川信夫バージョンはカメラワークがよいです。歌舞伎っぽい雰囲気が出てるからすき。一方、1966年のほうは仲代達矢の演技がよかったです。ギョロギョロめだまの顔演技が、いかにも呪われているという雰囲気でした。(中略)社会的に弱者だった女性がオバケになって超絶パワーを持って恨みを晴らすという筋書きは日本ホラーの原点と思われ、そこには明確なロジックがあります。つまり「わるいことをしたらヒデーめにあう」ってことなのですね。イエモンはまさにソレです。いかにも日本のホラーだなーと思う反面、いまのホラーと比べて違う点もあります。現代の日本のホラーときたら、そういうロジックを飛び越えて、もうだれかれなしに「アンタは呪われた!」とかいって、バタバタ死んでいくというヤツが多くて、The Grudgeとかですね、ある人々はそういうのはオウム真理教のサリン事件の影響ではないかというけど、わたしにはそれが影響してるのかなんてわかりませんが、なにかしら社会の兆候が出ているのかなという気もします」
ジャパン通のガイジンに会うと、なんかこう、誇らしげなきぶんでうれしいです。自分が褒められているような気がするんですよね。私が映画をつくったわけじゃないんですけどね。
あとから追記。
彼女はConstantineちゃんというのですが、彼女のlivejournalでうちのブログの記事を紹介してもらえました。ワーイ。以下のページで私が書いた翻訳(てか要約)がさらに英語訳された文章が載ってます。翻訳したもんを翻訳してお返しするっちゅうのもおもしろいコミュニケーションですね↓
- Non Stop To Tokyo - ホラーSHOX
url変わったから訂正↓
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Tôkaidô Yotsuya kaidan | |
Ghost Story of Yotsuya Histoire de fantômes japonais Ta fantasmata tis Yotsuya 2 The Ghost of Yotsuya Yotsuya Ghost Story in Tokaido | |
『東海道四谷怪談』 | |
1959年 | |
日本 | |
1959年7月11日 (日本) 1995年1月25日 (フランス) 2006年4月9日 (香港) (Hong Kong International Film Festival) 2010年4月28日 (イタリア) (Udine Far East Film Festival) | |
imdb.com :: Tôkaidô Yotsuya kaidan |
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