!!!! SPOILER ALERT !!!!
!ネタバレ注意!
本ページは『映画|憲兵と幽霊』のネタバレ全開です。この映画の普通の(ネタバレのない)レビューはこちらにあります↓
ネタバレあらすじ
昭和16年(1941年)秋。戦時中。
憲兵少尉、波島(天知茂)は自分の惚れた女、明子さん(久保菜穂子)が、自分の部下である田沢(中山昭二)のヨメになるのを見て苦々しく思う。ケッ。
部下である高橋軍曹(三村俊夫)に「少尉殿も彼女の争奪戦にはみごと負けましたなあアハハ」なんていわれてしまうのであるが、これを聞いた波島は、ニヒル顔でこう言い返す。
「負けた?フフフ。長期交戦。最後の勝利を得るのが軍人精神というものだ。それに、女性というものは、攻略するまでが楽しみなのだ。手に入ればすぐに魅力は消える」
なんていうんだが、この言葉は単なる負け惜しみではなかったという点が、のちに明かされます。
ところで、冒頭近くで、波島は酔客にからまれた色っぽいネーチャンの紅蘭さん(三原葉子)を助けるのであるが、この女はまたあとから出てくる。
その1年後。昭和17年夏。
波島は中尉になっている。彼のところに部下の高橋が青い顔で飛び込んできて「重要機密書類をなくしてしまった!」と知らせた。
これを聞いた波島は「なにィ!あれは日本陸軍の運命を決する重要な書類であるぞ!」と叱責し「おまえ、死刑になるヨ」とびっくりさせ、さんざん脅して、涙目にさせ「助けてください」といわせるや、頃合いを見て態度を軟化させる。
しょうがねぇ、んじゃ教えてやるか、おれって部下想いだからサ、といった口調で「だれかに罪を着せればよい」と世渡りのコツを伝授した。高橋は目をぱちくり。
高橋「そ、それは、どうすりゃいいのでありますか!」
波島「たとえばだな、カラの鞄をだれかの部屋においとく。んで、しばらくしてから、それを発見してだな、そいつが犯人ってことにすりゃいいだろ」
高橋「そ、そ、それはだれに?」
波島「ばかッ!おれにそんなことがいえるか!」
すぐに名前を出さないのが憎いところ。老獪である。こんどは天皇陛下を持ち出す。
波島「頭を働かせ。上官の命令は即陛下の命令。この軍隊の絶対命令を利用するのだ。いいか、犯人は部下だ。それも貴様の競争相手になりそうなヤツがよい」
波島はここまでいうと、チラと相手の表情を見た。そろそろいっちゃっていいカナー、てな具合でこう述べた。
波島「たとえばだな... 田沢伍長... とか?」
田沢というのは、波島が惚れた女と結婚した男である。つまり自分の恋敵をハメる作戦だったんですな。わるぅ。
高橋はいわれるままに田沢を犯人に仕立て上げ、拷問部屋に吊るして自白を強要するが、田沢は質実剛健のまじめ男なので、容易には思い通りにならない。
どうしても自白を引き出せない高橋は再び波島に相談した。波島はまたまた悪知恵を授けた。
波島「田沢の女房と母親もとっつかまえて、共犯者ってことにして、田沢の目の前で拷問するってのはどうよ」
高橋「そんなことをして、よろしいんでありますか!」
波島「毒を食らわば皿まで」
高橋「ハッ!明日にも逮捕します!」
波島「うむ。ごくろう」
田沢は目の前で母(宮田文子)と妻を拷問され、やった覚えのない罪を泣く泣く自供した。そして哀れにも国賊の裏切り者として銃殺刑に処せられた。ズダーン。
田沢伍長「おれをこんな目に遭わせたやつは恨み殺してやる。けしてわすれないぞ。このうらみは(ガクッ)」
波島はうれしげ。高橋はヒキツリ顔。
銃殺の場面では、無念に死んで行った田沢伍長の弟(中山昭二が一人二役)が出てくる。弟は兄を銃殺せよと命令されたが、兄の恨み台詞を聞いて卒倒した。この弟はまたあとから登場します。
すべて波島の思い通り。トントン拍子である。なんてわるいやつなんだとびっくりするが、さらに驚くことに、例の重要書類を盗んだのは、当の波島なのであった。彼は敵国スパイ、張覚仁(芝田新)と密通し、軍の機密情報を売っていたのである。
波島は敵に売る情報を手に入れると同時に、他の者に罪を着せ、ターゲット人妻の夫を排除するという、一粒で3度おいしい作戦を成功させてニタニタした。
陰謀と知悉に長けた冷血憲兵である波島は、次なる作戦へ。
田沢の未亡人、明子に接近。彼女に同情を寄せるような台詞を述べ、親切ゲに就職先を世話をするのであるが、その会社は敵国スパイ、張覚仁の肝いりの会社であった。
明子はOLとして働きだした。一方、波島は明子に知られることなく、田沢の母を死に追いやった。この老婆は息子が銃殺されたショックで入院していたのだが、そこに波島が現れ「明子さんはあんたを邪魔だっていってたヨ」などとウソを教えた。これを聞いた母は飛び降り自殺。
翌日の新聞には「国賊の銃殺に続いて、母は自殺」と見出しが出た。波島は裏で動いて、明子が首になるようにした。明子にとっては、家族を失い、国賊と罵られ、職を失うという三重苦である。もう涙も枯れました。
そこに波島が親切顔でやってきて、元気づけるような台詞をいう。明子は感謝の台詞を述べた。計算通り。この男にとって、人生とは、かくもチョロいゲームなのだ。
波島は、さてさて最後の仕上げにいきますか、とばかりに、いかにも慎み深い善良男を演じつつ、プロポーズをした。が、思ったようにことが運ばない。明子は意外に芯が強い女であったか。あるいは、死んだ田沢への情がまだ断ち切れないのか。
波島はプランBに移行。明子をてごめにした。そして飽きるとポイ捨てである。明子はいまこそ波島という男の本質を知ったのであり、猛烈に悔しがった。
明子「あなたは鬼だわ。わたしのような弱い者をこんなにいぢめてひどいですわ。うぅうう。しくしく」
明子は波島の子供ができちゃったそうなんだが、波島は動じる気配なく、バッサリ切り捨てた。
波島「子供は早く始末したほうが身のためですよ。フフフ。いくら産めよ増やせよの時代でもね。アハハ」
波島はケッと去った。彼の目下の関心は、お色気ネーチャンの紅蘭さん。こちらは、昔、酔客に絡まれたところを波島に助けられて以来、波島にメロメロであり、そして彼女は、波島が密かに通じてる敵国スパイ、張覚仁の愛人でもあるのであった。
嫉妬深い張覚仁は、ただならぬ視線でふたりを眺めており、ふつふつと三角関係になりつつある。張覚仁にしてみれば、波島は有能な取引相手なので、面と向かってケンカできない事情があるんですな。
波島に外地出征の辞令が下った。行き先は漢口(中国の都市)。これに伴い、張覚仁も漢口に移動。彼らは商売上のコンビなので。
波島は漢口へ旅立つが、その直前、酔っぱらった部下の高橋と口論になり、ささいな争いから彼を殺してしまった。こっそり死体を海に捨てた。
中国の漢口。
赴任早々、波島は「敵国スパイの張覚仁を逮捕せよ」作戦を指揮するよう命じられた。日本軍はひそかに張覚仁の動向を探っていたのであり、その情報によれば、今夜、ナイトクラブに現れるはずなんだそうな。
これは波島にとって一大事。もし張覚仁が逮捕されれば、自分の悪行もバレてしまう。彼はひそかに張覚仁と連絡を取り、替え玉を用意させるように画策した。
しかしながら、波島にとって不運だったのは、漢口における彼の部下が、かつて自分がハメた男、田沢伍長の弟だったという点であった。
かつて田沢伍長は誠実無比な人柄でありながら、波島の策略に落ち、国賊の汚名を着せられて銃殺されたのであるが、その銃殺隊の中に彼の弟がいた。弟は兄の無実を信じ、その汚名をいつか晴らしてやるぞと誓って切磋研磨に励んできたのであり、そして長い年月を経て、彼はいまこうして憲兵となり、中国漢口において、波島の部下として配属されたのであった。
波島は自分の罪がバレないように、チョコマカと動き回り、隠蔽工作に精を出すが、田沢がいるので思うようにならず、ピンチになる。
ナイトクラブの捕り物シーンでは、万里昌代が出てきて豊満お色気ダンスをやったり、当時の人気歌手、胡美芳が出てきてうたを歌ったりするのであるが、波島にとってはそれどころじゃないのである。
波島は捕り物のドタバタにまぎれて、田沢も替え玉(國創典)もブッ殺してしまえという腹だったようだが、失敗。彼は替え玉を替え玉と知りつつ逮捕し、尋問せねばならなくなる。替え玉を張覚仁であるとしてサッサと終わらせようとしたが、これも失敗。その男が別人であると証言したのは、あの明子さんであった。
明子は波島に捨てられたのち、お国のために尽力しようと看護婦になって漢口の病院で働いていたのである。明子は義理の弟である田沢と出会い、心強く思う。ふたりは協力体制で波島を追いつめる。
その頃、日本で高橋の死体が発見された。状況から見て、波島が疑わしいという情報が入ってきたものだから、軍のえらいさんである小森憲兵中佐(中村彰)も田沢に同意した。
波島は絶望的なあがきとばかりに替え玉をブッ殺した。が、そんなことをしたら疑われるだけである。波島の部屋からスパイ業務用の無線機が発見された。
波島は逃走。いまや軍から追われるお尋ね者である。彼は張覚仁を頼るが、もう相手にしてもらえない。
張覚仁「役に立たない人間は死んでしまえ」
波島「それがいっしょに仕事をした人間に対する最後の言葉か」
張覚仁「人間?そんな言葉を知っていたのか」
波島はすべてを失ったが、ひとりだけ彼の味方になる女がいた。それは紅蘭さん。彼女は自分の愛人である張覚仁を射殺した。
波島は紅蘭といっしょに逃げるが、田沢を含む憲兵隊がウジャーと追ってくる。紅蘭は射たれて死亡。
波島は墓場に逃げ込んだ。すると、これまでに彼が陥れた不幸な者たちの亡霊がいっせいに現れた。このシーンの演出はなかなかおもしろい。
そこに田沢がやってきて、ついにお縄になる。波島は軍法会議にかけられ、稀に見る凶悪冷酷無比な国賊としてさらし者になり、厳しく罰せられるであろう。これでやっと、死んだ田沢(兄)とその母も浮かばれるであろう。
ラスト。
明子と田沢が登場。ふたりはしんみりとお互いを励まし合う。田沢は「いつか戦争が終わったら ... 」と語り始め、婉曲的な言い回しでプロポーズのようなことをいうのであるが、明子は「わたしはそれを受ける資格がありません」とかいう。それでも田沢は「ぼくは待ちますよ」と確信顔でいう。
悲しいメロディがぐわーんと大きく鳴る。
戦争ってたいへんなんですなあという余韻を残して終了。
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