2015/1/23 (Fri) at 10:36 am

映画|ハウスバウンド|Housebound

不良娘がオバケ屋敷にとじこめられてヒーヒー顔になるのを見物しよう。ニュージーランドのホラー映画。お笑い + シリアス混合。話題作。おすすめ。Morgana O'ReillyRima Te WiataGlen-Paul Waru。監督Gerard Johnstone。2014年。

ハウスバウンド / Housebound DVDDVD画像

ここはニュージーランド。

筋金入りの不良娘、カイリーさん(Morgana O'Reilly)は、ドジ男といっしょに深夜のATMを襲って金を強奪しようとしたが、大ドジをやらかして、ポリスに捕まり、ふてくされ顔になった。

判決は保護観察(house arrest)。「8ヶ月間、ママの家で反省しろ」といわれたもんで、担当官に引っぱられ、生まれ故郷の田舎の家に帰された。

足首に逃亡防止の装置をつけられる。家から出ていったり、むりやり外そうとすると、すぐにおまわりさんが飛んでくるしかけになっています。

要は「ママといっしょに正しい生活をして、まっとうな人間になるのだ。反省するのだ」という話だが、これは罪が軽すぎるのではないか。ATMを襲うのは重罪である。保護観察になるくらいだから、彼女は未成年なのだと思うが、ニュージーランドには少年院てもんはないんですかね。

という疑問はさておき、映画はずんずん進んでいく。

家にはママ(Rima Te Wiata)と、ママの再婚相手(ロス・ハーパー)がいる。不良娘は彼らを前にしても反省する気などさらさらなく、いつもタバコをぷーかぷーか。トガリ目で周囲を睥睨し、「ケッ」とかいうのが日課である。映画を見てると殴りたくなってくるよ。

といった調子のホームドラマ風景がありつつ、この家の秘密が明かされる。

ここんちはオバケ屋敷なんですね。誰もいないところでへんな物音がしたりする。そして、このオバケ屋敷現象は、はるか大昔、カイリーさんが子供だった頃から続いているそうな。

大昔、ママが別れたパパと結婚して家を買った、そのずっと前、この家で陰惨な殺人事件があったという。10代娘がフォークでメッタ刺しで殺されたが、犯人わからず。こんな家だからオバケが出てもおかしくないんだが、ここから先がおもしろいんだが、娘が家を出た後も、ママはオバケ屋敷と知りつつ、再婚相手といっしょに住み続けているというのである。

ここんちのママは細かいことを気にしない。「オバケがいようがなにもわるさをしなけりゃいいんじゃないの」という台詞はなかったが、まぁ、そんな調子で、おせんべいをバリバリ食っているようなオバちゃんなのである。この映画のキャラはぜんぶおもしろいが、このオバちゃんは群を抜いておもしろい。娘の足首につけられた逃亡防止装置を見て「すごーい!ハイテクだー!」と喜んだりする。このオバちゃんと、トガリ目ふてくされ娘との掛け合いは漫才の域に達しています。

ママは陽気キャラだが、その再婚相手はおそろしく無口で、貝のように口を閉ざしている。おしゃべりババアと無口夫という取り合わせは世間に多いが、ここまで無口だとかなり気味が悪い。なんなの、このひとは!?

保護観察の担当者のアンちゃん(Glen-Paul Waru)はオバケ退治の心得があり、オカルト事件よろずお任せの親切キャラで色々と助けてくれる。ちょっと頼りない男だが、彼は中盤でこの映画のキモになる台詞をいう。あれはいい。

あとカウンセラーのオッサン(キャメロン・ローズ)。顔がビル・マーレイに似ているこの男は、「ただの脇役なんだな」と思っていたら、後半クライマックスになると重要度が増す。えー。そうだったの。

隣人のきもちわるい男(ミック・イネス)も出てくる。コイツが殺人犯なんですかねー。怪しいですねー。あともうひとり重要人物が出てくるんだが、こちらはナイショ。

最後にびっくりtwistがある。おもしろかったなあ。うまくつくってあるなあ。驚いたなあ。クソ生意気な不良娘がヒーヒー顔になるのを見物するのはじつに愉快である。満足した。みんなも見よう。

トレイラー動画

Housebound (2014) trailer

感想

よかったところ↓

  • 脚本、ソリッド。
  • キャラの立ちヨシ。
  • 不良娘、にくたらしい。
  • 不良娘のチビリ顔、たのしい。
  • オバちゃん、おもしろい。
  • お笑いとシリアスの混ぜ加減が絶妙にうまい。
  • うますぎる。
  • 伏線の張り巡らせも巧みである。
  • さりげないシーンに色々と意味があるよ。
  • これほどのもんとは思いませんでした。

わるかったところ↓

  • ない。

導入パートあたりは「まぁまぁいいじゃん」「とりあえず地雷じゃなくてよかった」くらいのもんだが、途中からずんずん引き込まれた。不良娘が小憎たらしィ!あのひと、演技うまいですねえ。

思い返せば、『Housebound (2014)』のお話は決して目新しくない。いわゆる『よくある系』である。後半に明かされるtwistは意外であるとはいえ、じつは、それは、数年前に話題になった、とある低予算ホラー映画と同じだ(そのタイトルを明かすとネタバレになってしまうからここには書かない)。

私は常々思うんだが、『よくある系』の中には、つまらない『よくある系』とおもしろい『よくある系』があるよね。どうしてこれほどに歴然とした差ができるのだろう。つまらない『よくある系』を作る人たちだってバカではあるまい。彼らも色々とがんばっているのである。それでも差ができる。私は見る専門なので笑っていられるが、つくる専門の人にとっては死活問題であろう。この映画は「どうしたらよりよい『よくある系』をつくれるか?」に日夜悩む人々にとって、うってつけの教科書になりえるのではないか。

非行少女の更正にはオバケ屋敷を!

誠に以て『よくある系』なんだが、ひとつだけ、驚くほどの独自性が『Housebound (2014)』にはある。そこは地味なトコではあるが、確実に効いている。その部分だけをネタバレ最小で紹介しよう。

自分の家で大昔に少女が惨殺されたこと、それがオバケの正体であることを知った不良娘は、家から出て行こうとする。彼女の足首には逃亡防止の装置がついているが、「そんなこと知ったこっちゃない!オバケ屋敷なんだから!逃げるぞ!ママなんかほっとく!」てな調子で、スタスタ出て行こうとするんだが、そこに保護観察のアンちゃんが現れ、「まてまて」という。

その場面の会話がコレ↓

Amos: You both feel like the world owns you something. You're both permanently pissed off. And you're both stuck up in that house. Except her sentence doesn't last eight months. It lasts forever. Unless someone's willing to help her out.
Kylie: It's not gonna change anything.
Amos: Maybe she doesn't expect it to. Maybe she just wants you to listen.

会話中の"both"は不良娘と、オバケになっちまったかわいそうな少女を指す。ゆえにこんな意味になる↓

アモス「きみとオバケには共通点がある。きみらは世界に縛りつけられていると信じ込んでいる。あの家に閉じ込められて、どこにもいけず、永遠にくそったれのきぶんだ。きみはいいよ。8ヶ月の保護観察が終われば出ていけるんだから。でも少女のオバケは永遠に保護観察なんだぞ。誰かが助けてやらないとだめだろ」
カイリー「わたしになにができるっていうんだ、ばかやろう」
アモス「オバケは助けてもらおうなんて思ってないのかも。単に話を聞いてもらいたいだけなのかも」

つまりこういうことです。

家に地縛するオバケ少女と、保護観察処分を受けた不良娘を対峙させ、「おまえらの境遇はおなじではないか」という論法で攻めつつ「オバケを成仏させてあげられるのはおまえしかいない」→「人助けをしろ」→「これすなわち更正の道である」という結論に帰着するのである。

こんな保護監察官がいるのか。私はほんとうにびっくりした。かつてこれほどにオバケというものをポジティブに捉えた例があっただろうか。クリスマスキャロル以来ではないかしらん。この場面を見た私はこうなった↓

この後、いろいろとあって、クリスマスキャロルとはちがう展開になっていくが、それでもこの主題は通底している。そこがえらい。

シリアスかコメディか

IMDbではこの映画にcomedyのタグがついているし、コメディホラー映画としてあちこちで紹介されている。でもこのパケはぜんぜんちがうじゃん?薄気味悪くていかにもホラーっぽい。これはお笑いなのかなんなのか、私はよくわからずに見たんだが、確かにお笑いであり、また、とてもシリアスなお話でもある。このパケは嘘ではない。

シリアス場面にギャグを突っ込んでくるのが絶妙にうまいんですね。昨夜、倉林さん(twitter@kurabayakurabay)とスカイプでしゃべってて、彼と話しているといつもすごく楽しくて長電話になってしまうんだが、『Housebound (2014)』のことをチョロッと話してみたらば、「ぜんぜんわかんない!なにそれ!」といわれた。そうなんだよね。うまくいえないんだよね。この質感というものが。まぁ、見てくださいよ。おもしろいから。

ネタバレを一番下に書くけれど、未見の方は読まないほうがいいですよ。

後から追記。

記事をpostした後にこの映画のことをtweetしたら、すぐにこういうへんじがきた↓

やはりみんなもこの映画のお笑いとシリアスの絶妙な混合比に感嘆しているようだ。やっぱりねー。

追記以上。

スコットさんも絶賛!

私が「みろみろみろみろみろみろみろみろみろみろ」といってもあまり説得力がないかも、という気がするので、スコットさんのお言葉を引用しておこう。

彼のレビューはいつも私の好みと合う。彼が推すヤツはかなりの高確率で当たる。『スウィング・オブ・ザ・デッド (2012)』も彼に教わった。ホラーファンは彼をフォローするといいですよ。

US版DVDが発売中!

US版のDVDには以下のオマケが入っています↓

  • Commentary by the Filmmakers
  • Deleted Scenes
  • Trailer

Deleted Scenes』にはみっつの削除シーンが入っているが、どれもキャラの肉付けに貢献している場面である。各シーンには監督のコメントが入っている。

この映画のDVDはCCつき↓

Memorable Quotes

Kylie: He's a cabbage in a polar fleece.

Miriam: That was a gift from your uncle Melvin. It's genuine Cameroon.
Kylie: Good, then it won't break.

Amos: How did she die?
Miriam: Pardon?
Amos: How did she die?
Miriam: Oh, she was quite old, I think. Yeah. No, um, she used to run a B&B. Actually I thought about doing that myself with the place at one time.
Kylie: You were going to run a B&B?
Miriam: I have wanted to do other things with my life besides put up with your nonsense.
Kylie: Who would want a holiday in Bulford?
Miriam: We live on the Twin Coast Hightway, Kylie. Lots of tourists drive through here.
Kylie: Yeah, at warp fucking speed.

Miriam: Oh. Well, I appreciate you trying to help, Amos. It's just, I don't think I can actually afford to pay for all that.

Amos: You cannot punch ectoplasm.

Kylie: Why would anyone donate to a bed and breakfast, Graeme?

Amos: You both feel like the world owns you something. You're both permanently pissed off. And you're both stuck up in that house. Except her sentence doesn't last eight months. It lasts forever. Unless someone's willing to help her out.
Kylie: It's not gonna change anything.
Amos: Maybe she doesn't expect it to. Maybe she just wants you to listen.

Kraglund: "Eugenized." That's what I used to call it.

Kylie: Dennis, I think you'll find my mental state is pretty sound compared to the maniac that's living in our fucking walls!

Miriam: Jesus! Kylie! He's got a bloody corkscrew in his neck!

未見の方は読まないほうがいいですよ↓

ネタバレです

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原題: Housebound
別題: Привязанные к дому
制作年: 2014年
制作国: ニュージーランド
公開日: 2014年3月10日 (アメリカ) (South by Southwest Film Festival)
2014年4月26日 (アメリカ) (Stanley Film Festival)
2014年4月27日 (イギリス) (Dead by Dawn Horror Film Festival)
2014年5月9日 (アメリカ) (Chicago Critics Film Festival)
2014年7月26日 (ニュージーランド) (New Zealand International Film Festival)
2014年8月3日 (カナダ) (Fantasia International Film Festival)
2014年8月27日 (ドイツ) (Fantasy Filmfest)
2014年9月4日 (ニュージーランド)
2014年9月26日 (カナダ) (Saskatoon Fantastic Film Festival)
2014年10月3日 (カナダ) (Vancouver International Film Festival)
2014年10月10日 (アメリカ) (Mile High Horror Film Festival)
2014年10月11日 (フランス) (Absurde Seance)
2014年10月16日 (カナダ) (Toronto After Dark Film Festival)
2014年10月17日 (アメリカ) (limited)
2014年10月31日 (アメリカ) (Hawaii Film Festival)
2014年11月7日 (オーストラリア) (Canberra International Film Festival)
2014年11月13日 (イギリス) (Abertoir Horror Festival)
2014年11月14日 (イギリス) (Leeds International Film Festival)
2014年11月19日 (フランス) (Paris International Fantastic Film Festival)
2015年2月12日 (ドイツ)
2015年3月24日 (ドイツ) (Blu-ray & DVD premiere)
2015年7月3日 (イギリス)
imdb.com: imdb.com :: Housebound
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
シネマトグラフィ
編集
プロダクション・デザイン
アートディレクション
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視覚効果(Visual Effects)
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