2010/11/3 (Wed) at 9:52 pm

映画|キラー・インサイド・ミー|The Killer Inside Me

善良男が殺人者になるスリラー映画。1940年代のテキサス田舎町を舞台にしたジム・トンプソンのノワール小説『内なる殺人者(or おれの中の殺し屋)』を映画化。ケイシー・アフレックケイト・ハドソンジェシカ・アルバ。監督マイケル・ウィンターボトム。2010年。

キラー・インサイド・ミー / The Killer Inside Me DVDDVD画像

1940年代。テキサス、セントラル・シティ。GOOD OL' DAYSそのまんまという雰囲気の、静かできれいな田舎町。

この町をこよなく愛するルー・フォード(ケイシー・アフレック)は保安官代理である。男前。善良。親切。面倒見がよい。職務に忠実。安い給料に文句をいわない。町一番の愛され男。それがルー・フォードである。

彼は町の人々からしょっちゅういろんなことを頼まれる。「うちの息子がバイトを始めたんだが、チト心配なので様子を見てやってくれ」とかいわれるんだが、そのたびに「ええよ。まかせとき」つってマメに動く。

といっても大したことをやるわけでなく、彼は子供を見つけて世間話をするだけなんだが、不思議なことに、彼がしゃべると悪ガキが素直にいうことを聞く。親たちは安心する。ルーは大人たちに信頼されているばかりでなく、悪ガキ連中にも慕われているのです。こんなおまわりさんってすばらしい!

昭和のホームドラマに出てくる篠田三郎キャラそのまんまの愛され男。もしあなたに年頃の娘さんがいたら「こんな男と結婚しろ」といいたくなるタイプ。それがルー・フォードである。

こんな善良男が、じつは残虐サディスト趣味のキチガイ殺人者だったんですよという話。ジム・トンプソンが1950年代に書いたパルプ小説『The Killer Inside Me』が原作です。

ルーにお尻ペンペンされる売春女のジョイス・レイクランド(ジェシカ・アルバ)。ルーを愛する善良娘のエイミー・スタントン(ケイト・ハドソン)。町を支配するわるもんゼネコン社長のチェスター・コンウェイ(ネッド・ビーティ)。そのドラ息子のエルマー・コンウェイ(ジェイ・R・ファーガソン)。密かにコンウェイに敵意を抱く労働組合の委員長のジョー・ロスマン(イライアス・コティーズ)。ルーを信頼する老シェリフのボブ・メイプルズ(トム・バウアー)。敏腕弁護士のビリー・ボーイ・ウォーカー(ビル・プルマン)。といったみなさんが登場します。

トレイラー動画

The Killer Inside Me (2010) trailer

2011年春に日本でリリース予定

日本のアマゾンにはまだなかったけど、allcinemaに載ってた↓

感想

amazon.comをチラ見すると、褒めるレビューがいくつかあるものの、罵詈雑言が目立ちます。「星ひとつくれてやるのもいまいましい!クソ映画め!」と怒るみなさんの声↓

TRASHY
ALBA BEATEN INTO A BEEF!
Horrible, should not have been made
Brutal Just to be Brutal
Sick & graphically brutal
Don't watch it.

おぉ!こんなワードが並んでいるとわくわくしませんか。ヨサゲじゃないですか。こんな文句がホラーファンには限りなく心地よい褒め言葉に見えますね。

わくわく気分でDVDをセットする私。オープニングがかっこいい!ジム・トンプソンのパルプな雰囲気に合ってる。いいじゃんいいじゃん。

最初のシーンは、ルー(ケイシー・アフレック)が、上司シェリフのボブ(トム・バウアー)に呼ばれて仕事を命じられるところです。「町外れにいる売春女をちょっと見てきてくれや」という話で、このときボブはルーに「彼女を逮捕するか、追っ払うか、判断はおまえに任せる」という指示の仕方をします。ルーという男が多大な信頼を得ているんだなというのがよくわかる。原作通りの雰囲気です。

んで、彼はいわれた通りにジョイス(ジェシカ・アルバ)の家にいくんだが、その途中でナレーションが入って、この町のようすがサラリとレクチャされます。

「セントラル・シティはテキサスの田舎町。ぼくの生まれ故郷です。ここじゃ、相手がスカートを履いていれば必ず "ma'am" と呼ぶし、相手が犯罪者だろうが、そいつがパンツをずりさげた男であるなら、まずは謝罪の意を述べる。それがここらの流儀なんですよ」という台詞は、これまた原作へのオマージュ魂がかんじられますね。

ここらへんまでは「いいな!いいな!」と期待したんだが、その後の展開で急落下してしまいましたよ泣。はー。

ルーとジョイスが出会うシーン

町の外れの一軒家でこっそり売春をやってるジョイスは、この町の空気を読んで、うまいことやってきた女なのです。テカテカのネオンが光ってるわけでなく、ヤクザなヒモがいるわけでもないんで、いきなり逮捕ってのもかわいそうかな的な雰囲気があって、だから、ボブはルーに「おまえに任せる」といったのです。

そこにやってきたルーは「ふーん、こんなネーチャンかあ」という顔で様子をうかがうんだが、彼女が銃を所持していることを知ると「これはいかんな!」という顔になり「今日中に町を出なさい。以上」という判断を下す。そしたら女がピーピーわめいて、彼にピンタをする。したら、これが引き金になり、ルーは暴力男に変身。相手をメッタ打ちにする。

ルーは、自分の内奥に潜む暴力衝動を常日頃から自覚しており、それを理性で抑えてきたんだが、このときばかりはそれがガガーと出ちゃって、女を叩きのめしてしまう。やがてきもちが落ち着くと、大後悔して謝罪の言葉を述べる。相手はそれを受け入れる。ふたりはくっつく。

という展開なんだけど、これ、原作では、ルーという男の破壊的な情動を描いた印象シーンですが、映画のほうでは、やってることは似ているんだが、とても印象が薄いのです。本気度が足りないってかんじがする。

チト長いが、原作からこのシーンを引用します↓

"You dumb bastard," she yelled. "I asked you what you wanted."

"Since you put it that way," I said, "I'll tell you. I want you out of Central City by sundown. If I catch you here after that I'll run you in for prostitution."

I slammed on my hat and started for the door. She got in front of me, blocking the way.

"You lousy son-of-a-bitch. You--"

"Don't you call me that," I said. "Don't do it, ma am.

"I did call you that! And I'll do it again! You're a son--of-a-bitch, bastard, pimp. .

I tried to push past her. I had to get out of there. I knew what was going to happen if I didn't get out, and I knew I couldn't let it happen. I might kill her. It might bring the sickness back. And even if I didn't and it didn't, I'd be washed up. She'd talk. She'd yell her head off. And people would start thinking, thinking and wondering about that time fifteen years ago.

She slapped me so hard that my ears rang, first on one side then the other. She swung and kept swinging. My hat flew off. I stooped to pick it up, and she slammed her knee under my chin.

I stumbled backward on my heels and sat down on the floor. I heard a mean laugh, then another laugh sort of apologetic. She said, "Gosh, sheriff, I didn't mean to--I-- you made me so mad I--I--"

"Sure," I grinned. My vision was clearing and I found my voice again. "Sure, ma'am, I know how it was. Used to get that way myself. Give me a hand, will you?"

"You-you won't hurt me?"

"Me? Aw, now, ma'am."

"No," she said, and she sounded almost disappointed. "I know you won't. Anyone can see you're too easy-going." And she came over to me slowly and gave me her hands.

I pulled myself up. I held her wrists with one hand and swung. It almost stunned her; I didn't want her completely stunned. I wanted her so she would understand what was happening to her.

"No, baby"--my lips drew back from my teeth.

"I'm not going to hurt you. I wouldn't think of hurting you. I'm just going to beat the ass plumb off of you.

I said it, and I meant it and I damned near did.

I jerked the jersey up over her face and tied the end in a knot. I threw her down on the bed, yanked off her sleeping shorts and tied her feet together with them.

I took off my belt and raised it over my head. .

I don't know how long it was before I stopped, before I came to my senses. All I know is that my arm ached like hell and her rear end was one big bruise, and I was scared crazy--as scared as a man can get and go on living.

I freed her feet and hands, and pulled the jersey off her head. I soaked a towel in cold water and bathed her with it. I poured coffee between her lips. And all the time I was talking, begging her to forgive me, telling her how sorry I was.

I got down on my knees by the bed, and begged and apologized. At last her eyelids fluttered and opened.

"D-don't," she whispered.

"I won't," I said. "Honest to God, ma'am, I won't ever-- "Don't talk." She brushed her lips against mine.

"Don't say you're sorry."

She kissed me again. She began fumbling at my tie, my shirt; starting to undress me after I'd almost skinned her alive.

私、この部分、とても好きなんですけど、ぜんぜん違うなと思った。これほど原作に倣っているのに、"I'm not going to hurt you. I wouldn't think of hurting you. I'm just going to beat the ass plumb off of you." というルーの台詞を省略したのがへんだし、ジェシカ・アルバが簡単に許しすぎだと思う。ふたりのあいだでもっと感情のうねりがあったはずなんだけどなあ。

世の中には、原作を読まずにこの映画を観る人も多いだろうから、そういう人にとってはどうなの?このシーンはどう見えるんだろうかと想像してみたんだけど、それでもダメだと思うのですね。

女がいきなり初対面の男に暴力を振るわれ、相手の謝罪をすぐに受け入れ、そいつと仲良くなるって、この女バカ?って思うんじゃないかな。小説の方ではそこらへん説得力あるんですよ。みんなはどう思ったのだろうか。

映画はこの先もほぼ原作通りにいくんだが、やはり「なにかが足りない」感が常にある。ルーが秘密の暗部をさらけだす演出として、女をお尻ペンペンするシーンがときどきあるんだが、SMぽいのをちょっとやってみましたよ的でつまらなかった(これくらいやってほしい)。

この小説が出版されたのは1950年代で、場所は因習的なテキサスの田舎町で、当時ならおそろしく背徳的だったと思うんだが、いまの時代では、お尻ペンペンくらいじゃ「やっベー。イッちゃってますよ、このひとは」感が出ないと思う。小説はいま読んでもおもしろいですが、映像にするとまた印象が違うでしょう?

もっとなにか大幅なadaptationを盛り込んで、たとえば、ルーの家の地下には秘密の拷問ルームがあって、ヒデーことをやってるとかですね、そういう演出が欲しかったなあ。てか、ま、そういうホラー的な演出どうこうの話でなく「人間の内なる暗部を描く」という点をもっと掘り下げて表現してもらいたかったですよ。

原作のファンはこの映画が日本でリリースされるのをすごく楽しみにしているでしょうから、なんだか、文句を書いてちゃってすませんと思うんですが、ま、人によって感想はそれぞれだろうから、ご自身でご覧になって、判断してくださいよ。おまえにいわれなくても観るわ!といわれそうですが。。

エイミー死亡の場面だけよかった

ぶちぶち文句を書きましたが、エイミー(ケイト・ハドソン)が死亡するところだけ、よかったです。特にゴアゴアがあるわけじゃないんだが、いきなりズダーン!とくるかんじ、死にかけピクピクするところなんか、よかった。あれを見たら、ジェシカ・アルバがブン殴られるシーンがいかにだめだったかという点がよくわかった。演技力がないせいか、監督さんの演出が悪いせいなのか、私には判然としませんが。

DVDのExtra

  • Making Of With Casey Affleck
  • Making Of With Jessica Alba
  • Making Of With Kate Hudson
  • Trailer

私、どうも観る気がしないので、これらのオマケは未見です。

原作について

以下は本の話。

ジム・トンプソンの『The Killer Inside Me』は2つの翻訳が出てます。未読の方はぜひどうぞ↓

おれの中の殺し屋 (扶桑社ミステリー) 画像
おれの中の殺し屋 (扶桑社ミステリー)
翻訳 三川基好
2005年発刊 定価: 840円

内なる殺人者(河出書房新社刊)
内なる殺人者(河出書房新社刊)
翻訳 村田勝彦
2001年発刊 定価: 1,470円

翻訳が違うんで、どちらを読むか迷うところですね。私は河出書房の方しか読んでないので、比べてどうなのかわからないです。でも、もし人に聞かれたら、扶桑社ミステリーの方が新しいし、ちょっと安いからそっちでいいんじゃね?といいますが。。。どうなんだろ。

私は村田勝彦氏の翻訳を読んですごく気に入ったのですが、翻訳特有の物足りなさを感じたので英語の方も読みました↓

英語の方を読んで「あー、こういう意味だったのか!」とわかるところがいくつかありましたよ。例えば以下の部分。

最後の方、ヤリ手弁護士のビリー・ボーイ・ウォーカー(映画ではビル・プルマンが演じていた)が「雑草がどーのこーの」としゃべる台詞がありますが、あの部分が翻訳だとよくわかんなかったんですが、英語で読んだらすんなり理解できました。以下は原作から引用ですが、映画の中でもほとんど同じ内容のことをしゃべってました↓

Before that I'd seen everything in black and white, good and bad. But after I was set straight I saw that the name you put to a thing depended on where you stood and where it stood. And. . . and here's the definition, right out of the agronomy books: 'A weed is a plant out of place.' Let me repeat that. 'A weed is a plant out of place.' I find a hollyhock in my cornfield, and it's a weed. I find it in my yard, and it's a flower. "You're in my yard, Mr. Ford."

"A weed is a plant out of place." って、英語で読んでやっとわかった。この弁護士は、ルーが孤独であることをひとめで見抜いたのですね。なるー。この部分、村田勝彦氏の翻訳だと「雑草は場ちがいな植物である」となってるけど、私、ぴんとこなかったです。みんなはこれでわかるのかな。

という調子で、英文を読んでいくつかの新たな発見があったのですが、でも、翻訳が悪いといいたいわけではありません。てか、細かく比較&精査してみないと批判できないし、そこまでやる気もないです。

私、思うに、一般的な話、翻訳ってのは「盲目の人に形や色を伝える努力」みたいなもんではないですか。だからおのずと限界があるわけなんだが、そこをあきらめずに追究して、あーでもない、こーでもない、と知恵を絞るのが翻訳って仕事の妙なのかなと思います。

翻訳者のみなさんは、自らが決して到達できない地点を目指しているという不毛さを噛み締めつつ仕事しているのかなと思う(想像)。だから、世の翻訳者たちはマゾであると同時に、芸術的な詐欺者なのではないですか。「原文 = 翻訳文」であると言い切らないと、彼らは商売にならないですから。

あ、もちろん技術文(マニュアルとか)等の翻訳はまた違いますよ。文学全般の話。

Memorable Quotes

Lou Ford: The trouble with growing up in a small town is everybody thinks they know who you are. I was born here 29 years ago. And Central City was small enough that my father was the only doctor in town. Then the oil boom came, and the town grew to fit its name. The sheriff's office handles the policing for both the city and the county. We do a pretty good job of it, to our own way of thinkin'. We're kind of old-fashoned. Out here, you say, "Yes, ma'am," and "No, ma'am," to anything with a skirt on. Out here, if you catch a man with his pants down, you apologize, even if you have to arrest him afterwards. Out here, you're a man and a gentleman, or you aren't anything at all. And God help you if you're not.

Bob Maples: It's always lightest just before the dark.

Joe Rothman: Better watch that stuff, Lou. You save that for the birds, huh?

Lou Ford: Amy came to see me every day. She always brought some cake or pie or something. And she had to take it kind of easy when she sat down. We'd sit outside and have a drink, and I'd think how much she looked like her. And afterwards, she'd lie in my arms, and I could almost fool myself into thinking it was her. But it wasn't her. And for that matter, it wouldn't have made any difference if it had been. I'd just be right back where I started. I took her everywhere she wanted to go, did everything she wanted to do. It wasn't any trouble. She didn't want to go much or do much. For the first time in I don't remember when, my mind was really free.

Lou Ford: I knew I had to kill Amy. I could put the reason into words. But every time I thought about it, I had to stop and think why again. I'd be doing something reading a book or something, and all of a sudden, it would come over me that I was gonna kill her, and the idea seemed so crazy that I'd almost laugh out laud. Then I'd start thinking, and I'd see it, see that it had to be done.

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原題: The Killer Inside Me
別題: Убийца внутри меня
El asesino dentro de mi
El demonio bajo la piel
El diablo bajo la piel
Ha'rotze'ach she'betohi
Morderca we mnie
Morilec v meni
O Assassino em Mim
O dolofonos mesa mou
Tappaja sisälläni
The Killer Inside Me
Ucigas in mine
邦題(カタカナ): 『キラー・インサイド・ミー』
制作年: 2010年
制作国: アメリカ/スウェーデン/イギリス/カナダ
公開日: 2010年1月24日 (アメリカ) (Sundance Film Festival premiere)
2010年2月19日 (ドイツ) (Berlin International Film Festival)
2010年3月22日 (香港) (Hong Kong International Film Festival)
2010年4月9日 (フランス) (Beaune Film Festival)
2010年4月27日 (アメリカ) (Tribeca Film Festival)
2010年6月8日 (イギリス)
2010年6月18日 (アメリカ) (New York City, New York)
2010年6月25日 (アメリカ) (limited)
2010年7月8日 (フランス) (Paris Cinéma)
2010年7月8日 (韓国)
2010年7月29日 (オーストラリア) (Melbourne International Film Festival)
2010年8月11日 (フランス)
2010年8月18日 (ドイツ) (Berlin Fantasy Filmfest)
2010年8月22日 (ドイツ) (Hamburg Fantasy Filmfest)
2010年8月26日 (オーストラリア)
2010年9月16日 (ロシア)
2010年11月17日 (スウェーデン) (Stockholm International Film Festival)
2010年11月26日 (イタリア)
2010年12月15日 (スウェーデン) (DVD)
2011年1月21日 (スペイン)
2011年4月16日 (日本)
imdb.com: imdb.com :: The Killer Inside Me
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
音楽
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
セット制作
衣装デザイン
視覚効果(Visual Effects)
特殊効果(Special Effects)
Makeup
謝辞

ホラーSHOX [呪](『ほらーしょっくすのろい』と読む)は新作ホラー映画のレビュー中心のブログです。たまに古いのやコメディ等もとりあげます。HORROR SHOX is a Japan-based web site, which is all about horror flicks.

 

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