映画|Der Samurai
オオカミ!日本刀を振り回す謎オカマ!孤独なおまわりさん!想像が想像を呼ぶ、ドイツの詩的映像ホラー映画。Michel Diercks、ピット・ブコウスキー。監督Till Kleinert。2014年。
ここはドイツの田舎。
地元警官のヤコブさん(Michel Diercks)は、「森にオオカミがいるよ。こわいよ」という地元民の通報を受け、さてどうしたもんだか、と考えたのち、肉屋で生肉を大量に購入し、それを森に置き、オオカミにめしを与えるという、誠に以て融和的な策を実施する。
オオカミの食欲を満たしてやれば人間を襲わないと考えてそのようにしたと思われるが、ちょっとね、お人好しすぎるというか、先の事を考えてませんね。オオカミが「もっとよこせ!肉が足らん!」と言い出したらどうするんだ。
そんな心配をよそに、彼はひとりで黙々とオオカミ餌やり作戦を続け、周囲はそんな彼をコバカにし、同僚ボスからも「おまえなー」と呆れられている。彼は自分が他人からどう思われようがお構いなしであり、いつもひとりぼっちで淡々と仕事をし、家に帰ると痴呆おばあちゃんのめんどうを見たり、ミニチュアモデル(ジオラマみたいなの)をつくったりする。
そんなヤコブさんの静かな日常が進行していたところに、差出人不明の小包が届く。大きくて長い小包の中身はわからない。宛先には「Lone Wolf」と書かれてあって、続いてc/oヤコブとある。でも彼にはこんな同居人はいない。彼は荷物の処遇に困り、その持ち主を捜し出す。
小包の受け取り主は、ドレス姿のオカマ野郎(ピット・ブコウスキー)だった。謎のオカマは荷物を受け取ると、喜んで、包みをほどいた。すると、中から大きな日本刀が出てくるではないか。うへー。そんなものを振り回しては危ないですよ。
と注意する間もなく、謎オカマはヒャッホーと町に繰り出し、日本刀を振り回して、大殺戮を始める。なんですか。いったい。平和主義のヤコブさんはオカマの殺戮を止めようとジタバタするが、その勢いは止まらない。
そうこうするうちに、オカマとヤコブの間に、ゲイ同士の交わりのような映像が出てきたり、いったいこれは夢なんだか現実なんだかさっぱりわからないという調子で映画は進行していくのである。ものすごくへんな映画!
Der Samurai: Look closely. These are the miscreants. They are like corks to our bodies, keep the spirit bottled in. It's our duty to get rid of the blockage once and for all.
トレイラー動画
Der Samurai (2014) trailer
感想
謎めいた映画である。でも、私にはわかったぞ。こうである↓
オオカミがオオカミとして覚醒する前は、人間界に身を置く決まりになっている。選ばれたものだけがオオカミ界からのお迎えを呼んで、オオカミデビューする。ヤコブが森に生肉を置いたのは、彼自身は気づいていないけれども、彼の心の内奥に覚醒スイッチがあり、『自分の仲間たちとつながりたい』と彼自身が希ったからである(でも本人はその衝動に気づいていない)。
それを受けて登場する謎オカマは、オオカミ界からやってきたお迎えの使者である(と同時にヤコブ自身の投影でもある)。彼は「さぁこっちにおいで。おまえもオオカミとして覚醒するんだよ」というつもりでやってきたんだが、ヤコブさんの内側では『人間vsオオカミ』が葛藤し、彼はどうすればいいのかわからなくなってしまう。あー。困った!上記は私が考えついた勝手な解釈です。わはははは。
人間が立ち入ることを許されない森の秘密を、詩的な映像で描いた『Der Samurai (2014)』は、大人向けのお伽話のようだ。想像が想像を呼び、物語が脳内に染み渡っていくのは、知らない土地の地図をつくっているような心地がする。こんな風に想像を喚起されるのは、すばらしい映像体験だ。
撮影がとても巧い。森の中を追いかけっこする場面は幻を見ているように引き込まれる。ふたりの俳優の演技もいい。ヤコブさんは気弱青年風の優しい男だが、ごくたまに、キモの座った顔になる。彼は一瞬で不良男を黙らせるこつを知っている。オオカミの血を引いているのかなと思わせる精妙さを、彼はとてもうまく演じた。
対するオカマちゃんは、日本刀を振り回してヒデーことをやらかすが、どこか憎めない。オカマちゃんは名状しがたい哀しみに衝き動かされているようであり、ないものねだりをする子供のようであり、殺戮をすることによって、ヤコブと合体したいと希っているようだ。
そして、この映画のエンディングはすばらしくノーテンキで、意味不明で、カッ飛んでいる。あれはいいなー。理屈を超えて胸に訴えるのだ。泣けてくるんだけど、なぜ泣けてくるのか、私はうまく説明できない。
自己の殻を破って解き放たれる。あのかんじ。『Der Samurai (2014)』では、人間の首をワインのコルクに例えているそうなので、つまり、あれはシャンパンを抜くお祝いみたいなものなのだろうか。よくわからないが、ハッピーエンディングだったのだろう。感動した。
と、絶賛レビューになったが、あなたが『Der Samurai (2014)』を見ておもしろいと感じるかは知らない。なにせ『説明をしない映画』だから。こういうもんは理屈抜きで、頭をカラッポにして、映像と音に身を任せて、感じた通りに感じればいいんじゃないのかな。
オオカミ = 暴力者 = やっかいもの = オカマ。なんて解釈をして、これはLGBT映画なんだな。という風に感じる人が多いのかもしれないが、私は説教臭いのは好きじゃないから、そういう映画として喧伝されるのは嫌だなって思うけれど、みんなのいろんな感想を聞いてみたい。
私は『Der Samurai (2014)』をiTunesUSで観たが、iTunesUSでは、エンディング間近でチンコがスミベタ修正されていた。あれは勃起チンコだったのだろうと私は想像しているんだが、見えないからわからない。同時に発売されたBlu-Rayではどうなってるのか。ものすごく気になったので、注文をした。これこれ↓
Release Date: 2015-06-09
Studio: Artsploitation Films
Run Time: 89 minutes
Language: English
Region: Region 1
Rated: Unrated
Number of discs: 1
Best Sellers Rank: 25,768
ちょっと追記。興味深い話をチラと聞いたので。
@HorrorFulter さっきIMDbのレビューを読んでいたら、DER SAMURAIはTHE HITCHERの影響が大きいと監督さんがいったそうですよ。お話はぜんぜん違うけどいわれてみれば確かにって思いました。http://t.co/zBDz4zwlEX
— Hiro Fujii (@horrorshox) June 29, 2015
@horrorshox 確かにあの『オカマ』の行動や得体の知れない恐怖や雰囲気はルドガーハウアーにインスパイアされた感じしますね。ヒッチャー観たくなってきました。DER SAMURAIは何度観ても飽きないようなスッと引き込まれる魅力ありますね。
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) June 29, 2015
追記以上。
Artsploitation Filmsから話題作続々!
Artsploitation Filmsについて詳しくは過去の記事をご覧下さい。ここは本当にいいんですよ↓
今月の同レーベルは最高に熱い。『Der Samurai (2014)』に加え、『The House with 100 Eyes (2013)』『Horsehead (2014)』が出た。どちらも話題作だが、特に、私は『The House with 100 Eyes』をすごく楽しみにしていた。これはずいぶん前に完成していたんだが、なぜかリリースが遅れ、ずっとファンが待っていた作品である。
トレイラーはこちら↓
この2作品も近々感想を書くからまた読んでください。
現在、Artsploitation Filmsでは格安セールをやっているから、ファンはお見逃しなく↓
Astonishing discount! @Artsploitation is totally hot! Go check their site! http://t.co/Jx4m3WPmG7
— Hiro Fujii (@horrorshox) June 10, 2015
後日追記。
いつもお世話になっているtwitter@BavariyaHonpo11さんが、『Der Samurai (2014)』について、すばらしい感想tweetをしてくださったので引用します↓
Der Samrai (2014)をかなり期待していたのだが、想像していた以上によかった。「ヒッチャー」の影響があるというのは納得。最後の方はニヤニヤしっぱなし。あとヤーコプ可愛い。若い頃のイーサン・ホークに似てなくもない。
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 28, 2015
ついでの感想:オカマの日本刀が頑丈すぎる。オオカミのパワーだろう。 pic.twitter.com/4awIWJaSi1
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 28, 2015
で、Der Samuraiのヤーコプは文句なしにリスみたいに可愛いのだが、日本刀のオカマに惚れる。「トーチソング・トリロジー」のアーノルドと「ヒッチャー」のルトガーを足したような疲れた雰囲気がたまらない。
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 28, 2015
Hitcher(1986)のThomas Howellに相当する、Michel Diercksが繊細で良かった。この映画も10代の頃に観たら面白かっただろうな。 pic.twitter.com/vuFlnwZEUN
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 29, 2015
Der Samurai (2014) ist ein sehr merkwürdiger, aber schöner, amüsanter Film. Er hat mir gut gefallen. Hoffentlich kommt der Film in Japan.
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 29, 2015
Der Samuraiに出てくるドイツの田舎の不良は今でもあんな感じ。昨夜、満月の街灯もない真っ暗なトウモロコシ畑を散歩したら、あんな感じの子たちが原チャリに載って丘に集合していた。ただ向こうもビビっていた。そりゃ、ステテコパンツのアジア人がフラフラ畦道から出てきたら怖いよな。
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 29, 2015
前ツイートの追加説明:畦道を満月の明かりを頼りに散歩していました。それでも殺されない程度に平和など田舎です。
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 29, 2015
@BavariyaHonpo11 あの映画をみたらドイツは楽しそうな国だ!って誰でも思いますよね。思わないか。私は思うんですけど。
— Hiro Fujii (@horrorshox) August 29, 2015
ええ、ドイツの森は、ツインピークスの森より怖くて楽しいと思います。しかもあの、ドイツの森が、ウヴェさんとオラフさんを作ったのです!(嘘) https://t.co/DeMfWwMXbe
— Bavariya (海外放浪中) (@BavariyaHonpo11) August 29, 2015
この映画の森は本当になにかいそうだっていう雰囲気があるんですよね。あの森に迷い込んで、てくてく歩き回って、ヘトヘトになったら、ハイター博士の家にたどりつくんじゃないの?『ムカデ人間 (2009)』の撮影地はオランダですが、場所はドイツの森の家という設定でした。
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ドイツ | |
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imdb.com :: Der Samurai |
- Till Kleinert [imdb] (screenplay)
- Pit Bukowski :: ピット・ブコウスキー [imdb] (Der Samurai)
- Christopher Kane :: クリストファー・ケイン [imdb] (Schölli)
- Gernot Alwin Kunert :: ゲルノット・アルウィン・クーネルト [imdb] (Wachtmeister Giersch)
- Manfred Möck :: マンフレド・モック [imdb] (Postbote)
- Michael Schumacher :: マイケル・シューマカー [imdb] (Polizist)
- Michel Diercks [imdb] (Jakob)
- Uwe Preuss [imdb] (Horvath)
- Kaja Blachnik [imdb] (Karo)
- Ulrike Hanke-Haensch [imdb] (Großmutter)
- Ulrike Bliefert [imdb] (Hundebesitzerin)
- Janin Halisch [imdb] (Yvonne)
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- Anna de Paoli [imdb] (producer)
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- Jonathan Weber :: ジョナサン・ウェバー [imdb] (digital compositor: riseFX)
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