2014/3/21 (Fri) at 10:17 am

映画|ヒア・カムズ・ザ・デヴィル|Here Comes the Devil

丘から悪魔がやってくる!メキシコの呪いの地の恐怖を描いたボグリアーノのホラー映画。Laura Caroフランシスコ・バレイロMichele Garcia。監督アドリアン・ガルシア・ボグリアーノ。原題『Ahi va el diablo』。2012年。

ヒア・カムズ・ザ・デヴィル / Here Comes the Devil DVDDVD画像

ここはメキシコのティフアナ。

プロローグ。

背徳のレズビアンカップルがアヘアヘやってたところ、侵入者に襲われ、ズダーンと指をチョン切られる。女を襲ったキチガイ男は人間の指をいっぱい持って、どっかの丘にいって、ギョエーとへんなことをやる。

この冒頭の衝撃シーンの中には、じつは、後の展開につながる演出がふたつ仕込んである。という話を私は監督さんのコメンタリで知った。ぜんぜん気づかなかった。これからこの映画をご覧になる方は、よく注意して見てください。

場面は変わって、4人の平凡家族が登場。

彼らは例の丘にピクニックにやってくる。パパ(フランシスコ・バレイロ)とママ(Laura Caro)に加え、ふたりの子供は、中学生くらいの姉(Michele Garcia)と弟(Alan Martinez)。

そこらで遊んでいたら、姉(Michele Garcia)が初潮になった。両親は子供たちを連れて町にいき、ママ(Laura Caro)は娘をトイレに連れていってめんどうを見た。この場面では、どっかの変態男が初潮パンツを物欲しげに覗き込んでいるのがチラと映る。きもちわりー。

さて、下着を替えて落ち着いたら、子供たちは「もう少し遊びたい」といい、親たちは疲れてしまったもので車で待つことにした。ママは姉に時計を渡し「遅くならないように戻ってきなさい」と念を押した。子供たちは手をつないで歩いていった。その背中を複雑顔で見守るママ。

いくら仲がよくても思春期の年頃の姉弟が手をつないで歩くというのは不自然ではないか。映画の中でこの子供たちがナニする場面というのはないが、限りなく近親相姦を想起させる演出である。手をつなぐ場面をよく見ると、指を絡ませている。彼らは丘にいくと岩の合間の洞窟のようなところに入っていく。やっぱり怪しい。

一方、車で待つ親たちは「居眠りでもするか」と思ったら、急にエロエロ発情。カーセックスを始める。中年夫婦が汗まみれでエッチな台詞をしゃべってナニする場面はものすごく淫靡である。いやらしい。

てわけで、この映画は、冒頭のズダーンといい、近親相姦風の子供たちといい、初潮パンツを欲しがる変態男といい、淫乱な中年夫婦といい、血の匂いやsexの背徳性というものを深く感じさせるムードで始まります。

その日、子供たちは帰ってこなかった。両親はアワを食って駆けずり回り、ポリスに届けたが、ようとして見つからず、夜になった。地元の人がいうに、その丘というのは、神隠しのように人間がいなくなる、摩訶不思議な重力場であり、呪いの地であり、瘴気を放つ場所なのだと教わった。後に明かされる話によれば、その昔、傷ついたシリアルキラーがこの丘に逃げ込んだことがあるそうな。警察は彼の死体を発見できなかった。なにが起きたのか。誰にもわからない。

両親はホテルに泊まって眠れぬ夜を過ごしたが、翌朝、幸運なことに、警察のお陰で子供たちが帰ってきた。一般的な話、ホラー映画に出てくるメキシコ警察というのは、無能で暴力的で役立たずというのが相場だが、この映画のポリスはポリスらしい仕事をやるから意外である。

子供たちは無事でよかった。と思ったら、この日を境に、子供たちのようすがへんになる。色々あるんだが、細かい話は映画を観てくださいよ、と思うが、両親はその理由を注意深く探り、「あの日、あの丘で、子供たちはどっかのだれかにわるいことをされたのではないか。それはすごくエッチなことなのではないか」と確信する。独自調査の結果、トイレを覗いていたあの変態野郎が、当日、丘のあたりをうろついていたという事実を知る。夫婦はガガーと怒り、復讐一直線でそいつを襲うんだが、しかし、それはこの映画の主題ではない。

子供の初潮パンツに欲情する変態男よりももっと邪悪ななにかがあの丘には棲みついてて、みんなをこわい目に遭わせているんですよ。この映画は、なにかこう、人間が自然に抱く根源的な恐怖、sexにまつわる潜在的な恐れというものを描いているかんじですね。おそろしい!

トレイラー動画

Here Comes the Devil (2012) trailer

感想

と書いたらボグリアーノさんが返事をくれました↓

うれしい!

Here Comes the Devil (2012)』は2012年のTIFFでプレミアされてずいぶん話題だった。期待通りにおもしろかった。一見すると、『難解/不可解/意味わからない』ように思えるが、そうでもないんじゃないかな。『Here Comes The Devil』という題名通り、「丘から悪魔がやってきた」というだけの話。それ以上でもそれ以下でもない。

コメンタリの監督さんの話によれば、「へんな噂が絶えないこわい丘でこわいことが起きる」という単純プロットをまず最初に思いつき、「当初は、アルゼンチンにしようと考えていたが、メキシコの、特にティフアナという場所は、しょっちゅうUFOが目撃されるとか、人が消えるとか、トンデモ系の噂がたえない場所として有名だから、そっちでやることにした」なんだそうで、コメンタリでは他にも色々とおもしろいことをしゃべってて、この記事の最後に書いたので、興味のある方はそちらを読んでください。

この映画が不可解に思えるのは、私たちが普段見馴れているホラー映画において暗黙に存在するお約束がスッ飛ばされ、監督さんが紡いだ独自の映像言語/記号に変換されているからだと思う。つっても、彼がわがまま放題にやっている自己満足でなく、どこか既視感を覚えるような雰囲気が常にあるから、そこらへんは計算してつくっているのだろう。私的には、よくある宗教ネタに走っていないところがいいと思った。

隠された意図が色々とあるそうなので、よく知りたい方はコメンタリを参考に細かい演出の意図を想像したら楽しいだろうが、大半の観客はそこまでやらないだろうし、やらなくてもいいのである。ボケーと映像に身を任せ、なんだかきもちわりー、と思えたらそれでいいじゃん。無意識裏であるにせよ、監督の意図があなたの脳に作用したわけだから。

ボグリアーノという男は、映画を観る者の背後に亡霊のように現れ、あなたの耳元にふぅーと息を吹きかけ、ヒャーとこわがらせたら無言で去っていく。そんな映画監督なのである。この映画を観終わった後、あなたの背中に彼の手形が残っているかもしれないよ。

US版DVD/Blu-Rayのオマケはたいへんよい

アドリアン・ガルシア・ボグリアーノ監督
アドリアン・ガルシア・ボグリアーノ / Adrian Garcia Bogliano 画像

DVDにはこれだけオマケが入っていた。特にコメンタリがおもしろいです(詳しくは後述)↓

  • Commentary With Director Adrian Garcia Bogliano
  • Extended Nightmare Scene
  • Behind The Scenes Comparisons
  • Rehearsals
  • Behind The Scenes Photo Gallery
  • AXS TV: A Look At Here Comes The Devil

英語字幕つき↓

日本のアマゾンでも売ってた↓

私は昨年発売されたUK版も持ってるが、こちらはオマケがない。映画しか入ってない。字幕もhard sub仕様だからますますよくない。買うならUS版がいいですよ。

DVDのコメンタリ

ここから先は映画をご覧になった方向け。

US版のDVDに収録されているボグリアーノ監督のコメンタリはたいへん興味深く、映画の背景を詳しく知りたい人は必聴です。その中からいくつか抜粋します。

・『Here Comes the Devil (2012)』は多くのオマージュネタがある。そのほとんどは70年代のイタリアンホラー。場面を引用したもの/プロットやキャラクターを参考にしたもの/音楽を参考にしたもの/等々。これらの過去作品がどんな風にオマージュされているかを詳しく知りたい方は、コメンタリを聞いてください。影響を受けた作品/人物リスト↓

・冒頭の女が男に襲われる場面には、その後の展開につながる演出がふたつ仕込んである。それは『電話の音』と『ドア』。女が襲われる場面で「りーんりーん」と電話が鳴っているが、あれは、映画の後半において、ママがベビーシッターに電話する場面とつながっている。そして、男が逃げていったドアは、ベビーシッターの家の玄関の扉である。つまり、冒頭の暴力事件の発生場所はベビーシッターの家であり、ママが電話している最中に起きた出来事だったというわけです。勘違いする人がいるかもしれないのでいちおう書いておくが、襲われた女とベビーシッターは別人である。俳優が違うから。彼女たちの関係はわからない。この演出の意図は「目と鼻の先で別の事件が起きていたんですよ。ここらへんじゃこんな奇怪な出来事がしょっちゅう起きるんですよ」という意味の隠し味なのかなと私は思った。別のセオリを考えついた人は教えてください。

・子供たちが手をつないでいるシーン。「メキシコでは、子供同士が普通に手をつないでいたらただの友達。指を絡ませていたら友達以上の関係を暗示する」という話をメキシコ人assistant directorのGerman Gabarrotから聞いて、監督さんはそのアイデアを気に入って採用した。このシーンだけでなく、German Gabarrotの助言が至るところで採用されている。

・カーセックスの場面。両親が子供の頃に経験した初sexの記憶をエロエロに語りつつ、パパの指はママのマンコに挿入されていた同じ頃、子供たちは手をつないで洞窟に入っていく。双方において『挿入』が描かれているのは、意図したモンタージュ手法である。ボグリアーノ的なダークユーモア。

・撮影期間は18日。ロケの日程調整がたいへんだった。

・劇場の場面で監督がカメオ出演している。

・「父親が息子に車の運転を教えるシーン」は監督的にはすごく大事な場面なんだが、これがわからないという人が多くて監督さんはびっくりした。

・ベビーシッターの若い女が告白する場面で出てくる色と光が乱脈する不思議映像は「悪魔的なものにレイプされる者が見る映像」という意図である。冒頭のレズ女の会話の中に出てくる光の夢の話はこれに呼応している。

・『Here Comes the Devil (2012)』のお話は「へんな噂がたえないへんな丘でこわいことが起きる」という単純プロットがベースになっている。当初は、アルゼンチンにしようと考えていたが、メキシコの、特にティフアナという場所は、しょっちゅうUFOが目撃されるとか、人が消えるとか、トンデモ系の噂がたえない場所として有名だから、そっちでやることにした。でもこの企画が採用されるかまったく自信がなかった。Dark Sky Filmsの英断に感謝する。

・キャスティングについて色々。監督はキャラクターを活き活きと描くために色々と苦労した。俳優の日程調整がギリギリで、打ち合わせをする時間が少なかったから大変だった。DVDのオマケの中には『Rehearsals』というのが入っているが、これを見ると、監督がどんな風に俳優とコラボしていったのかがよくわかります。

・丘の場面の映像はなんともいいかんじだが、あれは現在は売られていないアナログ写真カメラのレンズ及びフィルターを使用して撮影した。このような映像表現はpost production(スタジオでコンピュータでやる作業)では再現できない。このような機材がいま手に入らないのは、監督にはじつに腹立たしいことである(私もこの映像は好き)。

・本作品はアルゼンチン映画でなく、アメリカ/メキシコ合作である。ゆえにメキシコで配給されることを前提としているんだが、通常、メキシコ映画というのは『貧乏人が憧れる大金持ちのセレブ家族』が出てくるのが一般的である。しかし、この映画の家族はその路線から完全に外れている。こんな映画をメキシコ資本でつくるというのはかなり例外的。

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原題: Ahí va el diablo
別題: Here Comes the Devil
Gonosz lélek közeleg
Aqui Vem o Diabo
制作年: 2012年
制作国: メキシコ
公開日: 2012年9月11日 (カナダ) (Toronto International Film Festival)
2012年9月20日 (アメリカ) (Austin Fantastic Fest)
2012年9月20日 (アメリカ) (Fantastic Fest)
2012年9月26日 (イギリス) (Raindance Film Festival)
2012年10月12日 (スペイン) (Sitges Film Festival)
2012年11月16日 (メキシコ) (Morbido Film Fest)
2012年11月17日 (フランス) (Paris International Fantastic Film Festival)
2013年 (メキシコ)
2013年12月13日 (アメリカ) (limited)
2014年5月30日 (ドイツ) (DVD)
2014年8月6日 (イタリア) (DVD)
imdb.com: imdb.com :: Ahí va el diablo
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プロデュース
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
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特殊効果(Special Effects)
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