映画|プリズン・サバイブ|Felon

ウェイド・ポーターは不運な男である。夜中に強盗の侵入を察知した彼は愛する婚約者と子供を守るため、バットを構えて敵を撃退した。強盗は逃げた。ポーターは追いかけた。庭で殴って殺してしまった。殺す気はなかったが、必死で振り回したバットに運悪く相手の頭がジャストミートしちゃったのである。殺人罪で逮捕された。

これで有罪になるっていうのは、映画を観てる私たちにはずいぶん非情に思えるが、刑事のセリフによれば、たとえ相手が強盗でも逃げようとしている者を殺したら罪になるそうである。「家の中だったらよかったのにね」といわれて手錠がガチャン。なんか気の毒。

非常事態に馴れていない一般人ならば、こんなときには恐怖に駆られてバットを振り回すなんてだれでもやってしまいそうだけどなあ。相手が逃げようとしてるかどうかなんて、パッとわからないですよ。とつぜん反撃してくるかもしれないし。相手は強盗なんだから！と私は思ったんだけど、司法は非情であり、刑期3年でスピード結審。

彼の不運はここで終わらない。凶悪ギャングがワンサカのsupermaxに（つまり最高厳重警備な刑務所に）収監された。刑務所に移送されるバスの中でさっそくギャング同士の殺し合いが勃発。ポーターは刑務所長に呼び出され「だれがやったかいえ」といわれたが、彼は報復を怖れていえなかった。問答無用でSHU入りとなる。SHUていうのは日本語でなんというのか知らないが、Security Housing Unitの略で、極悪のみなさんのみが入れられるところみたい。

狭いセルにふたりづつ入れられる。1日にいちどだけ外に出してもらえるが、これが息抜きどころか、毎度の苦行だってことがすぐにわかった。小学校の教室くらいの白い部屋に囚人たちは集められ「そこで自由に遊んでろ」ってことなんだけど、ポーターにとっては血に飢えた野獣にさらされたウサギみたいなもんである。無意味な人種間抗争に明け暮れるギャングどもの相手をしなくちゃいけないからたいへんだ。ここは完全無法地帯なのである！看守たちも助けてくれない！

助けてくれないどころか、刑務所長以下CO (Correctional Officer = 看守) たちは囚人たちを闘犬に見たててどっちが勝つかを見て楽しむか、気まぐれにショック銃か電気ビリビリ棒でいぢめるのが楽しくてたまらないという連中である。私やあなたのような善良な市民がこんなところに入れられたら、3秒で自殺したくなるだろう。とにかくぢっと我慢をして3年の刑期をやりすごしたいんだが、残り数ヶ月ってときになってますます絶望的な事態に発展！

彼を塀の外から支える美人婚約者に『24』のナディア役、マリソル・ニコルズ。ポーターを助けてくれる熱い男ジョン・スミス役にヴァル・キルマー。わるもん刑務所長役にLostのマイケル役のハロルド・ペリノー。サム・シェパード。

※感想

スティーブン・ドーフ演じるポーターが刑務所内のギャング抗争に巻き込まれつつ、いちるの願いを賭けてジタバタをしていく物語だが、ここで重要なroleを果たすのがヴァル・キルマー演じるジョン・スミスなる重犯罪人である。彼はポーターのセルメイトであり、その罪状は追って明かされるが、登場の瞬間からして極悪オーラむんむんのオヤジであり、いったいコイツはどんなサイコパスなのだ！と見てる私たちは「あそこにいなくてヨカッター」と胸を撫でおろし、ポーターの境遇に同情しちゃうんだけど、このオヤジがあじわいのある役柄をこなすのである。

リック・ローマン・ウォー監督はスタントのキャリアが長く、それゆえにアクションシーンにはこだわりがあるということだが、その暴力描写に加えて、脚本がじつによかった。ヴァル・キルマーはたくさん名台詞を吐いた↓

John Smith: When your life is defined by a single action, it changes the concept of time.

John Smith: Usually I'm quoting someone else's words. The least I can do is give you some John Smith originals. They won't be poetic. But they'll be the truth. Yes, prison desensitizes you. But it also forces you to see what's most important. Family. And loyalty. Because a con like you knows neither exists in this place. So don't run from who you've become, felon. Embrace it. Grow from it. And you'll never lose sight of what truly matters. That's my final piece of advice, Wade Porter. You protect your family at all costs. Even if you're forced to kill again. Because if i had to, I'd wipe out the whole planet to get mine back. So long, friend.

DVDのSpecialに監督の語りが入っている。「リアルのギャングたちにたくさん取材をした」とか「映画に出演している囚人の中には元ギャングや現役ギャングのみなさんもいる」とかしゃべっていた。私は本物のsupermaxを知らないんでこれがどこまでリアルなんだかわかりませんけれど、たしかにこういうもんなのかなーという迫力があった。いやほんとこわかったですよ。監督はいろいろしゃべっていたけれど、このひとことがいちばんいいなと思った↓

One thing I didn't wanna do with the prison is ... I didn't wanna glorify gangs.

そうそう。この視点がいい。私は "glorify gangs" をしてるから『アメリカン・ギャングスター』が嫌いだったんだ！

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