2011/3/9 (Wed) at 4:15 am

映画|実録・阿部定

『阿部定事件』を田中登が映画化。女の情念ジャパン元祖実在チンコカッター、定さんと吉さんの愛の物語。日活ロマンポルノ。宮下順子江角英明。監督 田中登。1975年。

実録・阿部定 DVDDVD画像

定・吉二人キリ。

昭和11年。定(宮下順子)と吉(江角英明)は許されない間柄でありながら、後先をかえりみず、手に手を取って駆け落ちをした。

とある待合の四畳半一間に引きこもり、明けても暮れてもお酒を飲んで、芸者三昧sex三昧。荒淫肉欲の日々に耽溺する。

この世は軍国主義一色で、だれもがお国のためにひーこらいってるさなかに、知ったこっちゃねーヨ、とばかりにやりまくる。

花柳幻舟が芸者役で登場します。ベンベンと三味線を弾いて小唄を歌う。その目前で、定と吉は戯れ合い、えっさほいさとエッチしまくるのです。

が、しかし、その楽しい時間もいつしか終わってしまう。吉と離れることなど考えられない定は彼を絞殺。愛する男のすべてを手に入れてにんまりする。そのチンコを切りとり、だいじに懐にしまって、逃亡生活。やがて刑事に追われてお縄になる。

昭和の『阿部定事件』を田中登が映画化。

感想

この前、ナマニクさんの『I Spit on Your Grave』のレビューのコメント欄で「チンコカット話」をしたのがおもしろかったんで↓

近々コレを見ようと思っておりました。

さて、日活ロマンポルノです。私はリアルタイムで観ていたわけではありません。まだ子供でしたから。

当時は、いまよりもずっとおおらかな時代で、普通に、そこらへんに、子供たちが通る道沿いに、成人映画専門の映画館がありました。団地妻がどうしたとか、修道女がどうしたとか、エッチなポスターがどどーんと貼ってあった。子供の目に触れるところに猥褻物がたくさんありました。ああいうのの中にこれもあったのかなと思いますが、当然ながら覚えていません。

という具合で、子供でしたので、宮下順子といえば、ホームドラマに出てくるふくよかで優しそうなオバちゃんくらいにしか思ってませんでしたが、大人になってからですね、こういう古いポルノ映画を観て、こんなスゲーひとだったのか!と知りました。吉行和子なども同じようなかんじでした。

この映画の宮下順子は、かわいらしくて、不幸で、狂った女を情感たっぷりに演じています。血肉の愛です。惚れた男ならそのゲロまで惚れる。みたいな女です。

彼女はチンコを切りとったあと「定・吉二人キリ」というフレーズをうれしげに血文字で書くんだが、小学生の女の子が相合い傘のラクガキを描いているようでした。無邪気というか。ラストの近くの彼女の台詞によれば「みんなに自分たちのことを知ってもらいたかったから」書いたんだそうです。やっぱり相合い傘だよ。

ネクロマンティック2 (1991)』のモニカ・Mと比べると、女の切なさがよりいっそう深くかんじられます。あちらは単にブツとしてのチンコを欲しがっている風でしたから。

実際の阿部定さんは、漏れ伝わる話によれば、世間の同情を集めて異例の短い刑期で罪を終えたそうですが、以下は私の想像なんですけど、美化されている部分が多いんじゃないかなあ。現実には、色恋に狂った中年男女なんて小汚いもんですヨ。

それだからこそ、余計に、文学や映画といった芸術分野で耽美的に表現されうるのかなとおもいます。そのまま映したら小汚くてどうしようもないものを、いかにも現実味があるように虚構の美世界をつくるというような。

そのギリギリのセンを、絵空事としての実録モノという体裁で、攻めて攻めてつくり込んでいるという点で、傑作です。

実録・阿部定 (1975)』と『愛のコリーダ』を比べてみる

大島渚の『愛のコリーダ』と『実録・阿部定 (1975)』はどちらも『阿部定事件』を題材にしていますが、その内容はかなりちがいます。いつか『愛のコリーダ』のレビューを書いて、そちらで触れたいと思いますが、ここでは吉さんのキャラの違いについてのみ述べます。

愛のコリーダ』の吉は藤竜也ですから、イロ男です。圧倒的にこちらの方が華がある。彼はモテ男で女遊びを知ってて、自ら定を選んだという自信に満ちている。

一方、江角英明が演じた『実録・阿部定 (1975)』の吉は、みためパッとしない旦那風情で、派手美人の定ちゃんの引き立て役というムードだったです。え、おれでいいんですか、という言葉はなかったけれど。

こんなこといったら江角英明に失礼かもしれないが、こっちの吉さんは、もし殺されなかったとしても、定のような美女と恋仲になるなんて2度となかったんじゃないか。こんなネーチャンが夢中になってくれるなんて、彼にとっては奇跡だったのではないか。

彼は本能的にその点を察知して、自らすすんで殺されていったようにも見えた。これは私の印象なのでみなさんの感じ方とは違うかもしれないですが、彼は、人生絶頂のいまにおいてブッ殺されるならそれもイイじゃん、なんて想いが少しくらいはあったんじゃないのかなあ。だから、藤竜也のようなカッコよさはないけれど、愛すべきキャラだったとおもいますよ。

田中登監督と宮下順子

私が持ってるのは日本版のDVDで、オマケは予告編しか入ってないんだが、田中登 + 宮下順子コンビの別の映画『責める!』てのがあって、こちらはSMテーマの映画で、これもそのうちレビューをアプしたいと思うんですが、そのDVD(フランス版)に田中登のインタビューが入っています。

『責める!』の中で、宮下順子が極寒の荒野、日光戦場ヶ原で木に宙づりにされるというシーンがあって、それを撮影中に彼女は寒くて寒くてもうだめになって、異変に気づいたクルーが大急ぎで毛布でくるんで旅館に放り込んだ、という昔話をしゃべっています。宿で息を吹き返した宮下順子は「監督、ころしてやるうぅううう!」と泣きわめいたそうな。いい話ですなあ。

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原題: Jitsuroku Abe Sada
別題: A Woman Called Abe Sada
A Woman Called Sada Abe
Abe Sada
Abesada - L'abisso dei sensi
Die Geschichte der Abe Sada
La véritable histoire d'Abe Sada
邦題(カタカナ): 『実録・阿部定』
制作年: 1975年
制作国: 日本
公開日: 1975年2月8日 (日本)
1990年6月13日 (フランス)
1991年7月18日 (ドイツ)
2005年11月4日 (ドイツ) (TV初オンエア)
imdb.com: imdb.com :: Jitsuroku Abe Sada

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