映画|Alleluia
中年男女肉欲狂気の修羅場を見よ。熟女キラーの詐欺師ジゴロと、愛欲に溺れる嫉妬ヒステリー女が出てくる陰鬱スリラードラマ。現代フランス版『ハネムーン・キラーズ (1970)』。おすすめ。ロラ・ドゥエニャス、ローラン・リュカ、エレーナ・ノグエラ。監督ファブリス・ドゥ・ヴェルツ。2014年。
ここはフランス。
グロリアさん(ロラ・ドゥエニャス)は仕事と子育てに勤しむ平凡な独身オバちゃんで、恋人をつくる気なんてさらさらなかったが、友達の勧めでオンラインデートに申し込み、男前紳士のミシェルさん(ローラン・リュカ)と出会った。ふたりのデートはあれよあれよと盛り上がり、彼女はめくるめく夜を味わった。
ところが、この男は熟女キラー専門のジゴロ詐欺師であった。彼はいつもやるようにグロリアさんをヒーヒー歓ばせた後、大金を引き出したら、ホイと逃げた。一丁アガリである。
ところが、諦めきれないグロリアさんは、必死の思いでミシェルさんを探した。やっと見つけたら、彼は夜のクラブで仕事中だった。つまりどっかのオバちゃんとよろしくやっていた。グロリアさんは爆発ドッカーン!
と思いきや、彼女を見た詐欺師男は、誠に都合よく、頭痛で失神した。じつに詐欺師臭い野郎だ。と思ったが、ほんとに頭痛持ちらしい。彼が気を失っているあいだ、彼女はこの男の持ち物を調べてすべてを知ったが、目を覚ました彼に意外なことをいう↓
「わたしはあなたがあなたでもかまいません。愛しているのだから、どうか恋人になってください。あなたはそのままでいいのです。あなたの頭痛を癒してあげる」
長年男日照りだったゆえに忘れられないのか。あるいは、元々こういう性格なのか。あるいは、よほどナニの具合がよかったのか。そんな理由なのかなと想像されます。
素っ頓狂な愛の提案を聞かされた詐欺師のミシェルさんは「ほんとにそれでいいの?」とめんくらい、しかし相手が本気であると知ると満足げであり、「ヨッシャ。ヨッシャ。愛しているぜベイビー」てな調子で(じつに詐欺師臭い)、その日からふたりは詐欺師コンビになった。
じっさい、この男の詐欺師演技は大したものである。このお調子者演技は『24』のローガン大統領みたいだと思った。ま、あれよりは男前なんですが。本人はハンフリー・ボガートに憧れているらしいです。
彼はたくさんのカモリストを持ってて、どれもこれもが大金持ちのオバちゃんである。言葉巧みにカモをだまし、得意の寝技で歓ばせ、金を引き出す。これが彼の常套手口だが、グロリアさんというパートナーができて以来、彼女は妹と名乗ってくっついてくるようになった。
妹同伴のジゴロなんてサマにならないね。デートの邪魔だ。と思うかもしれないが、この場合、相手は金持ちオバちゃんであり、お上品な貴婦人マダムばかりであるから、妹の存在は邪魔になるどころか、逆に、カモをだまくらかすのに都合がいいのである。兄妹の思い出話などを聞かせてやれば、相手はコロリと信用する。なかなか息の合った詐欺コンビではないか。
と思いきや、誤算が発生する。グロリアさんは嫉妬心をコントロールできない。愛する男がカモ女といちゃいちゃしているのを見ると頭にきちゃう。怒り狂って、ンモー!つって、ギャーギャー怒って、カモから金を引き出す前にズガーンとブッ殺してしまうのだ。うへー。
殺した後は、「わたしにまかせとき」つって、ノコギリでギーコギーコと死体をバラす。書き忘れたが、この女は死体安置所で働いていたのである。死体の扱いは手慣れたもの。詐欺の仕事はミシェルさんの独断場だが、死体処理になると、グロリアさんの方が格上の師匠である。息が合ってるのか合ってないのかわからないコンビでありますね。
中年男女の愛憎がグジュグジュに詰まった陰鬱なスリラー映画です。最後は大迫力の修羅場!修羅場!
Gloria: You can fuck her, you can kill her! Kill her!
トレイラー動画
Alleluia (2014) trailer
感想
Twitterにこの映画のことを書いたら↓
『Alleluia』はフランスの陰鬱ドラマスリラー。熟女をコマすのが大得意な熟年ジゴロ詐欺師+ヒステリー気質直情型の嫉妬女がコンビを組んで詐欺をやるが、嫉妬女があまりに嫉妬深くて、お金を取る前にドッカーンと怒ってカモを殺す。うへー。 pic.twitter.com/wxLhBCu5la
— Hiro Fujii (@horrorshox) July 17, 2015
大畑創監督からこのように訊かれた↓
@horrorshox え、『ハネムーンキラーズ』みたいな感じなのでしょうか?
— 大畑創 (@hajimeohata) July 17, 2015
まさにドンピシャリ。本作『Alleluia (2014)』は「『ハネムーン・キラーズ (1970)』のリメイクである」とは書かれていないが、明らかに相似の部分が多く、そのいくつかは偶然ではないように思うので、オマージュってヤツなのだろう。かなり似ているものの、これまた別の世界感があるので、嫌なパクリを見たというかんじはなかった。
これだけ似ているとリメイクでないことが不自然に思われるが、なにか権利の関係でオリジナルのタイトルを使えなかったのかもしれない。ウラの事情のことなんかは私は知らないが、まぁ、おもしろければいいじゃないですか。
『ハネムーン・キラーズ (1970)』はよかった。病院で働くオールドミスのデブ婦長さんが出てきて、色恋沙汰にはまったく縁がなさそうなオバちゃんなのだが、これが色男ジゴロに出会ったらコテンと夢中になり、相手が詐欺師と知ってさえ「そのままでいいのよ」とかいって、ふたりは詐欺師コンビになる。
美男醜女カップルの組み合わせは世の中に多いが、『ハネムーン・キラーズ (1970)』『Alleluia (2014)』のどちらにおいても、そのパターンである。男は小粋な伊達紳士。女はサエないオバちゃん。当然ながら、観客は男の真意が気になる。ほんとに惚れているのかね。まさかね。と思う。
どちらの映画においても、色男は詐欺師だからますますわからない。詐欺師はしょっちゅう愛の言葉を囁くが、なにしろ詐欺師のいうことだから信用できない。ところが、『ハネムーン・キラーズ (1970)』のエンディングはそんな疑いを木っ端微塵に粉砕した。あのアンちゃんはマジにあのデブ婦長さんに惚れていたと明かされる。いいエンディングだった。
『Alleluia (2014)』の方ではその点はどうなのか。詐欺師はグロリアさんをだましていたのだろうか。あるいは、『ハネムーン・キラーズ (1970)』のアンちゃんのようにまじに惚れていたのか。そこは映画を見て確かめてくださいよ。
『Alleluia (2014)』は『ハネムーン・キラーズ (1970)』をより陰鬱に中年男女の嫉妬心と愛欲を描いており、嫉妬心を煮詰めてコテコテに固めて、中年嫉妬女の愛液をジャブジャブかけたような凝縮感がある。
嫉妬に駆られて逆上するグロリアさんに手を焼いた詐欺男が、渋々ながらという調子で、彼女に睡眠薬を飲ませる場面があった。あれを見ていたら、伊右衛門に毒を盛られるお岩さんみたいで、ついグロリアさんに同情してしまい、いや、ちょっと待て、コイツは頭のおかしい狂女なのだ、と気づいて、妙な居心地の悪さを覚えた。
そして、最後の最後には、ものすごい修羅場がやってくる。大迫力の演技を見た。ゴア場面は少しだけだが、その部分はよくできていた。斧をズダーンと振り下ろしたところを腕で受け止めるところなんて、本当に痛痛痛痛痛痛だった。あと、こわがり子供の演技もよかった。
ひとつだけ文句を。
最後のあれ、〇〇が××を助ける(見ればわかるよ)というのが私には解せなかった。なぜあんな展開にしたのだろう。ふたりは揃って地獄に堕ちていく。地獄への片道電車についに乗ってしまった。という展開が望ましいように私には思われ、だからあそこはあのままズガーンとイッちゃってほしかったですね。
という小さな不満はあるが、総じておもしろかった。おすすめです。私はiTunesUSで見たが、UK版DVDも発売中↓
Release Date: 2014-12-22
Studio: Studiocanal
Run Time: 93 minutes
Language: French
Subtitles: English
Region: Region 2
Rated: Suitable for 18 years and over
Number of discs: 1
Best Sellers Rank: 61,472
US版もそのうち出るでしょう。
『ハネムーン・キラーズ』関連映画
後から追記。
この記事をアプしてから、『ハネムーン・キラーズ (1970)』関連の映画は他にもありますよって色々教わった。たくさん出ているんだなあ。この筋書きはよほど映画製作者を魅了するのですね。
ベタで恐縮ですが、『ハネムーン・キラーズ』といえば、Profundo Carmesí https://t.co/zy1gR5Irjo も、同じ話をベースにしてますよね。(Alleluiaのみ未見ではありますが…) https://t.co/cwMIvW7CJK
— 小林雅明 (@asaakim) July 18, 2015
@horrorshox 『ハネムーン…』はカルト・ムービーで、『Profundo...』はアートハウス/映画祭系では知られた作品なので、フランスというか欧州というか、そっちのほうの作り手のほうが、”わかる”のではないでしょうか。
— 小林雅明 (@asaakim) July 18, 2015
実話である結婚詐欺&殺人を繰り返したレイ&マーサの事件を基にした作品、ロンリーハートはなかなかよく出来た逸品。早くハネムーンキラーズ観たい pic.twitter.com/ZujjrZDSs7
— 東洋の純真 (@HorrorFulter) July 18, 2015
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imdb.com :: Alléluia |
- Fabrice Du Welz :: ファブリス・ドゥ・ヴェルツ [imdb]
- Romain Protat :: ロマン・プロタ [imdb] (adaptation)
- Romain Protat :: ロマン・プロタ [imdb] (dialogue)
- Vincent Tavier :: ヴァンサン・タヴィエ [imdb] (co-writer)
- Lola Dueñas :: ロラ・ドゥエニャス [imdb] (Gloria)
- Laurent Lucas :: ローラン・リュカ [imdb] (Michel)
- Héléna Noguerra :: エレーナ・ノグエラ [imdb] (Solange)
- Anne-Marie Loop :: アン=マリー・ループ [imdb] (Gabriella)
- Stéphane Bissot :: ステファーヌ・ビソ [imdb] (Madeleine)
- David Murgia :: ダヴィッド・ミュルジア [imdb] (Père Luis)
- Renaud Rutten :: ルノー・ルッテン [imdb] (Le réceptionniste)
- Édith Le Merdy [imdb] (Marguerite)
- Philippe Résimont [imdb] (Fritkot man)
- Vincent Tavier :: ヴァンサン・タヴィエ [imdb] (producer)
- Bart Van Langendonck :: バート・ヴァン・ランゲンドンク [imdb] (co-producer)
- Matthieu Warter :: マチュー・ワルテル [imdb] (producer)
- Mathieu Bardou [imdb] (co-producer)
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