2011/4/26 (Tue) at 8:28 am

映画|ハートレス|Heartless - ネタバレ

フィリップ・リドリー監督の最新作『ハートレス (2009)』のネタバレ + 私の解釈はこうです。てのを書いてみましたよ。ネタバレオッケーな方のみ。このエントリ長いです。

ハートレス / Heartless - ネタバレ DVDDVD画像

この映画は以前にレビューを書いたんですが↓

最近、ブログの読者の方からこの映画に関してメールを頂戴して、いろいろしゃべってて、んで、もういっぺん観て、こんどはネタバレを書いてみました。長文です。最後に私の解釈も書きました。

ネタバレは困るぞ、というひとは上にリンクした前回のヤツを読んでください。こっちは読まないほうがいいですよ。

ネタバレあらすじ

早朝の町。

男(ジム・スタージェス)がうろついて写真を撮っている。ナニゲに廃屋の窓を撮影したら、彼の顔が驚愕顔になる。彼はなにを見たのでしょう。

現像部屋。彼の見たものが印画紙に浮かび上がる。暗い窓の向こうに、得体の知れない悪魔的なものが確かに写っていた。

このシーンの曲の歌詞↓

This is the world we live in.
Don't let it take you over.
Scream.
Safer to live in a dream.

この男は夢の中に生きているんでしょうか。

彼の名前はジェイミーという。写真が趣味。信心深い母(ルース・シーン)とふたり暮らし。彼の顔には大きなハート型のアザがある。体にもアザがある。これゆえに、その性格は内気で引っ込み思案である。

ジェイミーには兄(ジャスティン・サリンジャー)がいて、こちらは妻子持ち。ママは孤独なジェイミーの行く末を心配し「あなたもお兄ちゃんみたいにいつか家庭を持って子供をつくるんだよ」的なことをよくいう。

それは口うるさい風でなく、とても優しい調子で「あなたは自分で思ってるほどヒデー見ためではない」と伝えたがっている風なんだが、ジェイミー本人は「そんなのむり」と決め込んでいる。

ジェイミーが憂鬱になる理由はアザ以外にもうひとつあって、それは10年前に死んだ父(ティモシー・スポール)のことである。父は彼に写真を教えてくれて、優しいパパだったので、彼はいまだにさみしがっている。

こんな調子で、ジェイミーさんという男は、孤独で、悲しげで、ママと兄のお陰でどうにかこうにかやっている、写真だけが生き甲斐、という不幸青年です。

慢性的な鬱屈ゆえに、24時間殉教者みたいな顔つき。常に下を向く。でも、彼は優しい性格だし、見た目はそう悪くないし、ニコニコしてれば愛嬌があるんだが、本人はそれに気づくことができないのである。こまったやつですな。

こんなホームドラマ風景の合間に、ギョッとする事件が起きる。

いつものように町をうろついて写真を撮っていたらば、フード姿の男たちが、だれかをリンチし、火をつけ、ブッ殺す場面に遭遇。これだけでもおそろしいのに、さらに、犯人の顔を間近で見たらば、なんとそれは人間でない悪魔みたいな顔だったから、キモを潰して逃げた。

事件はニュースで報道されたんだが、テレビを見てジェイミーはさらに驚いた。目撃者のオッサンが「犯人は悪魔の仮面をつけていた」といったからである。でもジェイミーは「あれは仮面なんかではない。悪魔そのものなんだ」とひそかに思う。

前のレビューでも書いたが、ニュースのシーンでチョロッと子供が出てきて「あれは仮面じゃないよ!」という。その一瞬があるゆえに、ジェイミーが見たものはほんとに悪魔なのかなあというゾゾゾ感がある。さらに、この子供は映画の後半、Belleという名前で再登場する。

報道によれば、事件の被害者はCendrillon Houseていう集合住宅に住んでいた男とその息子だった。偶然ながら、その場所は死んだジェイミーの父が育ったところだった。

ヒデーことが起きる。

ママとふたりで父親の10周忌のお墓参りにいったら、帰りに例のギャング団に襲われ、ママ死亡。深く悲しんでいたらば、こんどは、親切だった隣人男(ノエル・クラーク)もギャング団に襲われ、大けがをし、行方不明になった。

この隣人男ってのは、孤独なジェイミーにすごく親切に接してくれて、バーに連れて行ってくれたりしました。彼とジェイミーの会話は映画の謎を解くカギが多く含まれる。

ジェイミーは度重なる凶事に希望を失い、死に場所を探しているような顔つきになってくる。銃を手に入れるんだが、自殺したいのか、復讐したいのか、自分でもわけがわかんなくなってるよう。完全にテンパッてます。

ニュースで、男の片腕(そのタトゥーからして隣人男のものらしい)が発見されたと報道され、発見者は近所に住む父と息子だった。バラバラの人体が発見されたが、頭部は出てこないそうな。

警察はギャング団の首謀者を特定した。片手義手の前科男(ジョン・マクミラン)で、Shevannal Mazeという。略してShe。警察は彼を見つけられない。

ジェイミーは隣人男が残したケータイ(クロコダイル柄の装飾)に導かれ、Papa Bと名乗る悪魔(ジョゼフ・マウル)に出会う。そいつはジェイミーに甘美な誘いをする。

「おれのいうことをチョロッと聞いてくれたら、アザをなくしてあげる」という話なんだが、どうやらコイツが例のギャング団の首謀者というか、悪の根源らしいとわかってくる。

Papa Bは不幸な人間をスカウトして、その希望をかなえてやる代わりにわるさをさせて、世の中に混沌をもたらしているというんですな。わるいやつです。

当然ながら、ジェイミーはPapa Bを憎むのであるが、結局、その誘いに乗る。「アザを消してもらう代わりにナニをさせたいの?」と聞いたら「神様を侮辱するラクガキをしろ」なんてアホなことをいうので、なんだ、それだけでいいのかと驚いてオッケーしたら、ほんとうにアザが消えちゃう。

Papa BにはBelle(ニキータ・ミストリー)ていう相方がいるんだが、こっちは少女(なぜかインド人顔)のなりをしていて、おっかないPapa Bに比べると、Belleちゃんは親切で優しいです。

Papa BとBelleは、脅し役と慰め役のコンビワザ(good cop, bad copですな)の要領で人間を操るんだなと、映画を観ている私らには思える。

アザが消えて喜んだジェイミーにBelleが「Weapons Manがいつかくるよ」という。Weapons Manてのは、Papa Bの手下で、悪魔と契約した人間に指令を伝える役目のやつらしい。

ジェイミーが表情を曇らせたら、Belleは「Weapons Manが行くのは60年先になるかもしれない」と安心させるようなことをいう。60年か、ふーん、どうせラクガキを描けばいいだけだし、ま、いいっか。てな調子で家に帰る。

この日からジェイミーの生活は一変する。彼はカワイコちゃんと出会って、恋に落ちる。ティアちゃん(クレマンス・ポエジー)は写真が好きな女で、優しくて、きれいで、趣味の相性もばっちりで、ジェイミーは天国にのぼるようなきもちでこの幸せを感受する。人生ってすばらしいなあ。

愛する女と出会って、結婚して、家庭を作る。というのは、ジェイミーにとっては、手の届かない夢だったし、死んだママがジェイミーに望んでいた願いでもあった。自分には一生縁がないと思っていた幸せが、急に現実味を帯びてきたわけで、有頂天になるのもむりはない。

このティアちゃんは映画の最初の方でチラと出てきたモデルの女と同一人物です。メイクが違うので私はぜんぜんわかりませんでしたが、監督さんのコメンタリでそうと知りました。ジェイミーはこのネーチャンの写真を何度も見ていたので、彼にとって憧れの娘だったというわけでした。

幸せイッパイで浮かれていたらば、例のWeapons Man(エディ・マーサン)がやってくる。そいつはセールスマンみたいな男であった。「60年後かとおもってた」といったら「早くなることもあるのです」といわれた。ジェイミーは緊張顔で彼を受け入れた。Weapons Manは家に入ってきて、部屋の趣味を褒め、ソファに座ると、ラップトップをとりだした。

「えーと、ジェイミー・モーガンさんですよねー。ちょとお待ちくださいね」なんつって、保険の外交員みたい。ジェイミーは神妙な顔で待ちつつ、はいはい、どこにラクガキをすればいいんでしょ、てな具合に思っていたらば「殺人せよ」といわれておったまげる。

「ラクガキっつったでしょーが!」と怒ったら、相手は「ははは、あなたもPapa Bの冗談を真に受けたんですな。ラクガキか。ははははは。こりゃいいですな。ウケましたよ」なんて笑うのである。

「次の満月の晩、だれかをブッ殺して、生きたまま心臓を取り出して、教会の階段に置く」

というのをやらねばならぬと聞かされた。

「うそだったっていうの?」「あたりまえでしょ」「卑怯じゃないか」「人生が公平だなんてだれがいったの」「Papa Bさんに連絡とってください」「むりむり」「ちょ、ほんとにできませんってば」「またおもしろいことをいうね。だれでも暴力者になれるんですよ。知ってるでしょ」

どうしてもいやだとゴネたら、Papa Bの超パワーでどどーんとお仕置きされた。彼はやるしかなくなる。いやいやながら、男娼(ジャック・ゴードン)をだまくらかして、家に連れ込んで、ブッ殺した。この場面では、インド人顔少女のBelleちゃんが亡霊のように出てきて、巧みな言葉で彼を操るんですな。彼女はここらへんからジェイミーのことをパパ呼ばわりしはじめ、その後もジェイミーにまとわりつく。

しばらく幸せな日々が続くのであるが、またまたPapa Bが出てきて、引っ掻き回す。彼はジェイミーに「おれのBelleを奪ったな!」といちゃもんをつけ「もうひとり殺せ」つって、こんどの標的はティアだというんで、「ぜったいむり」といやがったら、こわいもんをたくさん見せられ、彼はもうズタボロになってしまうのであるが、その後、さらに、ヒデー事実を知らされ、破壊的に追い込まれる。

いろいろあるんだが、まとめるとこう。

ジェイミーが惚れた女、ティアちゃんは、ある策略を理由にジェイミーに接近したのであった。がっびーん。

ジェイミーの兄の息子、つまり、甥ッ子(ルーク・トレッダウェイ)がそこらの不良と関わってトラブルになっているらしいというサブストーリィが最初の方からあったんだが、それと絡んでいたんですね、ティアちゃんは。

甥ッ子とティアは知り合い同士で、彼らは例のギャングと悶着を起こした。それを収めるためには、ジェイミーが暗証番号を知っている金庫の中のブツ、母の形見の貴金属を手に入れる必要があった。それゆえに、彼女はジェイミーに接近した。甥ッ子はジェイミーがティアの写真を持ってることに気づいたから、この作戦を考えたんですな。

そして、さらに、もういっちょう爆弾がくる。

ジェイミーのアザは消えてないのであった。ひぃ。

悪魔が彼に与えたのは、アザを消すことでなく、彼本人にはアザは見えないようにする。というみせかけだったんですな。さすが悪魔というべき、悪魔的な所業。

アザは消えてなかった。そしてティアさんはうそつきだった。

この2点はジェイミーをうちのめす残酷さであり、彼は大混乱するのであるが、それでもなお、ティアさんは悪女ではなかったと知ってまたまた驚く。

彼女はギャングに脅されていやいやジェイミーに接近したが、でもそれをやってるうちに惚れてしまったということで、だから、その愛はうそではなかったんですよ。ジェイミーが泣く泣く人殺しをやったのと同じような調子だったらしい。

彼女はアザも含めてジェイミーをすきになったのです。アザのある彼を「美しい」と呼んだのですね。でも彼の方は、アザがなくなったから恋人ができたと思っていたわけです。どっちもかわいそう。ティアさんの方にも悪魔がいってたのかもしれない。

ここらへんの事情がガガーと明かされつつ、片手義手のギャングが押し寄せて、どどーんとアクションがあって、ティアちゃん死亡。

ジェイミーさんは噴怒のひととなる。ギャングをブッ殺し、ウジャーと襲ってくる悪魔顔の連中と死闘を演じる。

Papa Bが再び出てくる。

Jamie: I'm not afraid of you anymore.
Papa B: No?
Jamie: No.
Papa B: Don't work unless you're scared, old son.

ジェイミー: ぼくはもうおまえをこわくない。
Papa B: ほんとに?
ジェイミー: うん。
Papa B: こわがってくれなくちゃ効かないな。Old son。

Papa Bはそういうと、悪魔のくせにチョッピリ悲しげな顔になり、闇に消える。

翌朝。

ジェイミーは顔に悪魔のマスクをつけた不良ギャングに襲われ、盛大にブッ殺される。

ラスト。

死亡するジェイミーの脳裏に、父親との思い出の風景が蘇る。少年時代、近くの公園で写真を撮ったときのこと。近くにいた子供がジェイミーの顔のアザを見て「あれなに?」という。少年ジェイミーは「またか」てな顔でうつむく。

ここで、父は星の話をする。

Dad: You need real dark to see stars. Because in the city there's too many street lamps and stuff, see, so... But when things are really dark, as dark as they can get, you see so much more, so many wonderful things. Sometimes, old son... things are gonna get darker for you than they do for the rest of us. But you've got to see those moments as something special. Because they're showing you things. A way of looking at the world that no one else will ever, ever understand. That's a blessing, Jamie. That's not a curse. Does that make sense?

Dad: 山に行くと、星が奇麗にたくさん見える。真の闇がなければ、あんな風に見えないんだよね。都会だと灯りが多いからだめだ。だからさ...。この世には、闇の世界に身を置いて、初めて見ることができる美しいものがあるんだよ。おまえはみんなが知らない闇を目にするだろう。でもそのおかげで出会える素晴らしいものがあるよ。そんなものがあるなんて知らないひとたちも多いよ。だからおまえは祝福されたんだよ。呪いなどではないよ。わかる?

こんな話をするんだが、この中で、父親はジェイミーを "old son" と呼ぶので、映画を観る私たちはハッとする。Papa Bも彼をこう呼んでいたから。

少年ジェイミーはその話を聞き終えると、神妙顔で「すきだよ、パパ」という。

この手のたとえ話は感動的であるが、実際にソレで悩んでいるひとにはあまり慰めにならないんじゃないか、ましてや、子供なんかにはよくわかんないのではないか、と私は思うんだが、ジェイミー少年は "I love you, dad." なんつって、物わかりのいい子供なんですね。父親を尊敬しているからでしょう。

父親は「さあ、帰ろう。ママが待ってるよ」つって、息子を優しくうながす(つまり天国へ)。

ジェイミーが立ち上がると、それは大人のジェイミーに変わっている。

彼は「パパ、やっと意味がわかったよ。最高に美しいよ」といって泣く。んで、死ぬ。

Jamie: Oh, Dad... Dad, you're right. You're right! It is beautiful.

おしまい。

私の解釈はこうです

この話は結局なんだったのであるか、という点について書きます。

悪魔話はすべてジェイミーの脳内妄想。Papa Bは妄想。Belleも妄想。男娼を殺したのも妄想。

※ちょと追記。「男娼を殺したのはほんとかも」という話をあとから書き加えました。一番下にある。追記以上。

彼は母親を残虐にブッ殺され、優しい隣人男もブッ殺され、深く心に痛手を負った。さらにニュースで見たCendrillon Houseというのが、たまたま父親ゆかりの場所だった。その他いくつかの偶然的な一致にピピッときて、悪魔話を脳内にデッチあげた。

フィリップ・リドリー監督自身がコメンタリで「悪魔はジェイミーのfantasy」と明瞭に述べていますから、そういうことなんでしょう。

ヒデー目に遭った男が狂死する?そんだけ?あっそ。

いやいや、この映画はそんな凡作ではないんですよ。どこがどうすごいかについて述べます。

以下は私の解釈です。

細かい台詞や演出などで、彼の妄想であると暗示される部分がたくさんありました。上のあらすじの中では割愛しましたが、隣人の親切男としゃべる場面。映画の序盤あたりの会話。

「ぼくが産まれたとき、パパがぼくの顔にキスをした。その印にこのアザがついたんだよ」とあたかもそれが祝福の証であるようにしゃべり、そしてそのあとには、一転して悲しげになり「アザがあることの辛さ」を述べます。

さらに「この世はパラレルワールドになってるような気がする」というような話をします。「そっちの世界では、自分にはアザはなくて、きれいなヨメがいて、子供もいて、どーのこーの」と夢見る口調でしゃべる。

愛情深い家族に支えられてきた彼は、いつも「おまえは祝福されて産まれてきたんだよ」と言われ続けてきたんですね。でも現実には彼は辛くて、でもだからといって家族を恨む気などはなく、自分の中で「結局どっちなんだ!」とあがいていたんじゃないのかな。『アザのない自分がいる世界』を夢見て、妄想が育まれつつあったのではないかな。

ふたりが飲むカクテルの名前がred rondo alla Faustという点も意味深です。ファウスト博士と出会うことを予見しているような。

だからこのシーンが妄想第一段階。その後、ヒデーことが起きると、妄想世界がどんどん肉付けされていった。

Papa Bという名前、"old son" という彼の台詞、さらに彼と出会うのは父ゆかりの場所、という点からして、Papa Bはジェイミーの脳内に構築された悪魔的父の姿です。

彼は父を愛していたわけだから、その父が彼にわるいことをさせるなんてへんじゃないかと思われる方も多いでしょう。でも、私はこう思うんですよ。彼は自分でも気づかない深層心理において、父を憎んでいたのではないか。これは通常いう意味での『憎しみ』とは少し違っていて『肉親ゆえの愛憎』ってあるじゃないですか。好きなんだけど憎たらしい。みたいな。そういうかんじ。

映画の最後の台詞 "Dad, you're right. You're right!" を聞いてそう思いました。ジェイミーはこの瞬間まで、父の言葉をありがたいとは思いつつも、それは夢物語だ、ただ自分を慰めるためにいってくれているだけなんだと思っていたんだろうと。

彼は父の『星の話』がうそだと思っていて、その、なんていうんでしょうか、名状しがたい噴怒みたいなものが心の奥深くに堆積し、それがギュワーンと濃縮還元されて出てきたのが、悪魔Papa Bだったんじゃないのかな。

Belleは容易に想像がつく通り、彼が夢に描くような自分の子供の姿です。なぜインド人顔なのかはよくわかりませんが。Belleちゃんは途中から明らかに悪魔的になってきて、彼に人殺しをさせようとしますが、それでもジェイミーはBelleを守ろうとします。その盲目さは親が子を想うきもちに似ている。

そして、ジェイミーが目撃した悪魔顔ギャングですが、これは「ジェイミーが他人から自分はこう見られている」と思う姿だったんじゃないか。彼自身、そこまで自分をバケモノだとは信じていなかったでしょうけれど、それがギュワーンと極端デフォルメされたらこうなった、みたいな姿だったんじゃないのかな。

ギャングの親玉、Sheてのは片手が義手になってて、フレディみたいに人を襲うんですが、このギャング男は妄想でなく現実に存在しているんですが、この『義手』ってのがdeformity(奇形的なもの)を暗示させるので、ジェイミーはその姿に自分を重ね合わせ、妄想の燃料になり得たのではないか。

エンディング近くで彼は悪魔顔のギャング共と闘いますが、あれは自分自身と闘っていたんだとおもう。その後に、Papa Bに「ぼくはもうおまえをこわくない」といえたのは、自分に打ち克つことができたから。

そして、ラストでジェイミーを襲うギャングは悪魔顔でなく、仮面をつけたギャングたちです。だから、やっと妄想が断ち切れたのですね。でも殺されちゃうわけですが。かわいそ。

そして、彼は死ぬ間際に、父と再会し、少年時代に聞いた星の話を思い出す。父はかつてこういいました。

「闇の世界に身を置いて、初めて見ることができる美しいものがあるんだよ。おまえはみんなが知らない闇を目にするだろう。でもそのおかげで出会える素晴らしいものがあるよ」

『すばらしいもの』てのは、ティアちゃんの愛です。悪魔やら、アザが消えたことやら、彼の周辺で起きた様々な出来事はぜんぶ脳内妄想だったけど、たったひとつ、彼女の愛は真実だったからです。彼は死ぬ間際になって初めて父がいった言葉の意味がわかった。そのような意味を汲んで、"You're right." を「やっと意味がわかったよ」と訳しました。

このように考えると、映画の意味深演出が符合するように感じられるのですが、どうでしょうか。

すごいマジックじゃないか!この映画、おもしろーい。

と思うでしょ。思わない???

さらにですね、ジェイミーが体験した脳内妄想というのは、単なる脳内妄想だけではないような含みがあります。

ティアちゃんは甥ッ子のいたずらに付き合わされてヒデー目に遭いましたが、彼女の方にも悪魔が出てきてあれこれとやらせたのではないか。また、じつは甥ッ子もそういう目に遭ってたのじゃないか。と、まぁ、これは私の想像なんですが。

甥ッ子ってのも哀れなヤツなんですね。彼はギャングと悶着を起こしたバカなんだけど、彼の元々の動機は「おばあちゃんに誕生日プレゼントをあげたい」という優しい気持ちだったんですよ。かわいそうじゃないですか。だから彼も悪魔に脅されたんじゃないかな。そっちの悪魔はGrandma Bだったのかもしれない。

親切な隣人男が大けがを負って失踪する直前、ジェイミーと会話するシーン。

詳しいことはわからないんだが、この隣人男は元ギャングだったらしい。ギャング仲間から逃げてきたらしい。んで、そこで「神様はいるのかな。地獄はあるのかな」なんて会話になったとき、怯えた顔でこういったんですね。

AJ: I've seen the future, Jamie. And it's a kingdom of horror.

"kingdom of horror" という言葉は、その後、ジェイミーがヒデー目に遭ったときにいう台詞と同じです。この会話から推測するに、隣人男もまたジェイミーと同じような悪魔体験があるんじゃないか。

というような話をつなげ合わせ、想像をミックスするとですね、この世に生きてる人たち、幸せそうな顔つきでそこらへんを歩いている人たちは、じつはみんな、各自の脳内にジェイミーが見たのと同じような悪夢世界を持っているんじゃないかとおもうんですよ。

それは、Papa Bでなく、Mama Bかもしれないし、Brother Bかもしれないが、だれもがそんな悪魔を飼っているのではないか。それが世の中の裏側のからくりなんじゃないか。ジェイミーはたまたまアザを持っててこういう目に遭ったけれども、人々はそういうアザ的なものを心に隠し持ってるんじゃないか。

とおもいました。

上に書いたあらすじはいろいろとハショり気味で、細かなパートが抜けています。台詞や演出や曲の歌詞の中に様々な暗示が精妙に配置されていますから、未見の方はどうぞご覧になって、いろんな解釈をしてみるといいですよ。

あー、ややこしい謎解きはごめんです。というひとはですね、ジェイミーがアザが消えたと信じ込んで大ハッピーになるところ、その後に現実を知って驚愕するところを見てください。彼を好きになるティアちゃんの心情を想像しながらあれを見ると、ほんとうにかわいそうです。残酷でロマンチックです。

前のレビューの方には、いくつか台詞を抜粋したんで、興味のある方はそちらもどうぞ。Memorable Quotesてとこにある。

フィリップ・リドリー監督のコメンタリ

監督さんのコメンタリからいくつか抜粋。

・オープニングで聞こえるノイズと "You're gonna fucking die!" という叫び声は映画のエンディングのもの。この映画が "dream within a dream" であることを暗示している。

・『緑と赤』という色使いがポイント。赤は現実。緑は妄想。赤のシーンは現像室のライティングが代表的だが、この中では、ジェイミーのアザが消えて見える(つまり彼にとっては安息の場所という意味もあるのかな)。

・監督は台詞のないシークエンスのシーンがすき。

・ジェイミーがほっつきあるいて写真を撮っている廃墟みたいな場所は監督さんのお気に入りスポットで、彼がよく写真を撮ってる場所。

・随所に流れる曲は大きな意味を持つ。これらのオリジナル楽曲はフィリップ・リドリー監督本人とNick Bicatが作詞をした。

・悪魔はジェイミーの妄想である。彼は母が殺されたあと銃を手に入れた。最初、その銃を家の中に飾ってあるイエス様の絵に向けた。神様を殺そうとしたができなくて、自殺しようとした。が、それもできなくて、結果、妄想話をデッチあげた。このような情動は、人間が死から逃れるための心理的なメカニズムではないか。

・クロコダイルというシンボルが随所で登場する。

・ジェイミーの家のリヴィングルームのシーンが何度か出てくるが、シーンごとにアングルやライティングを変え、雰囲気に変化を持たせる工夫をした。ジェイミーとティアが出会う場面は優しいかんじ。Weapons Manの場面は冷たいかんじ。

・ジェイミーとティアが初デートする公園はロンドンのヴィクトリア・パーク。映画に出てくる巨木は監督さんのお気に入りスポット。ここはジェイミーが父と過ごした思い出の場所でもある。

・ナイトクラブのシーンは諸般の都合から、黒バックにライティングのみという演出になった。ここはいろんなひとに「よくないヨ」といわれて最後まで迷った部分であるが、いま観るとこれでよかったと思う。

・ジェイミーとティアがナニするシーン。ティアは策略目的でジェイミーに近づいたけれども、彼を愛するフリをしているうちに、本当に愛するようになった。これはフランスの作家、ジャン・ジュネの言葉を思い出させる。"You have to fake emotion in order to feel it."

・屋上のシーン。ここは監督が住んでいるフラットの屋上。

・エンディング近くでジェイミーがPapa Bに「もうこわくないよ」っていう場面。ジェイミーは自分の妄想を妄想であると理解したからこわくなくなったのである。

・エンドロールで、監督さんは映画で採用しなかったジェイミーの子供時代のエピソードを長々と語る。子供時代にいぢめられたジェイミーがどーのこーの、つってだらだら話すんだが、それは少年ジェイミーが父にニコンの一眼レフをもらう場面。ジェイミーにとってtotally make senseな、つまり『完全に理解できる』つまり『完璧に調和のとれた(とでもいうのかな)』人生の瞬間だったんだそうで。詳しくはDVDをどぞ。

男娼を殺したのはほんとかな?

ちょと追記。「男娼を殺したのはほんとかもヨ」というメールを頂戴しました。

ジェイミーは男娼を殺した後、心臓を教会に持っていって、帰ってくると、行方不明になった男が残したカギを使って、隣の部屋のドアを開け、死体をそっちに隠す。風呂に入って、そのまま寝ちゃう。翌朝。Belleに起こされて「ぜんぶきれいにしといたヨ。さあ、着替えて」といわれて、はいそうですか、つってデートにいく。

てことなんで、妄想のBelleが血糊の掃除なんかできるわけないので、上のように書きました。でも、夢遊病者みたいに自分で掃除をしたのかもしれないですね。だからどっちにもとれますね。隣人アパートには死体があるのかも。

メールをくれたひとが、

「あそこは実際にやっちゃってて、それがゆえにさらにヒドイ。てことなんじゃないかな」

て書いてくれて、それを読んで、あー、そうかも、とおもいました。ヒデーことをやっちまった感があるし、また、あの男娼さんにも家族や恋人がいたでしょうから、そっちの方でだれかがジェイミーと同じように深く傷ついて、ジェイミーと同じように悪魔と取引をするなんて考えると、もうこの世は悪魔だらけ、なんて思えて、ますますおっかないですね。

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原題: Heartless
別題: Bez srca
Heartless
Heartless: Sin corazón
Heartless: W swiecie demonów
Marca da Vingança
Sem Coração
Skoteini kardia
邦題(カタカナ): 『ハートレス』
制作年: 2009年
制作国: イギリス
公開日: 2009年8月31日 (イギリス) (Film4 FrightFest)
2009年10月7日 (スペイン) (Sitges International Film Festival of Cataluna)
2009年11月7日 (イギリス) (Leeds International Film Festival)
2010年2月19日 (イギリス) (Glasgow Film Festival)
2010年3月13日 (ドイツ) (Fantasy Filmfest Nights)
2010年5月21日 (イギリス)
2010年7月14日 (カナダ) (Fantasia Film Festival)
2010年8月18日 (カナダ) (Toronto After Dark Film Festival)
2010年9月22日 (アメリカ) (Video On Demand)
2010年9月23日 (アメリカ) (Fantastic Fest)
2010年11月19日 (アメリカ)
2011年1月7日 (ドイツ) (DVD)
2011年1月27日 (フランス) (Gérardmer Film Festival)
2011年4月24日 (フランス) (Lyon Festival Hallucinations Collectives)
2011年7月5日 (フランス) (DVD)
2013年5月11日 (日本) (Tokyo)
imdb.com: imdb.com :: Heartless
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
音楽
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
セット制作
衣装デザイン
視覚効果(Visual Effects)
特殊効果(Special Effects)
Makeup
謝辞

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