映画|女ドラキュラ|Dracula's Daughter
『魔人ドラキュラ (1931)』の続編はドラキュラの娘が登場。ユニバーサルの古典ホラー映画。モノクロ。グロリア・ホールデン、オットー・クルーガー、エドワード・ヴァン・スローン。監督ランバート・ヒルヤー。1936年。
『魔人ドラキュラ (1931)』のラスト直後から始まる物語。
ドラキュラの胸にクイを打ち込んで、見事に退治したヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)。そこに警官コンビがやってくる。彼らはレンフィールドとドラキュラの死体を発見、近くにいたヘルシングをつかまえて事情を聞く。
※というシーンから始まるのだが、この映画ではなぜか『ヴァン・ヘルシング(Van Helsing)』であるはずの彼の名前が『ヴォン・ヘルシング(Von Helsing)』となっている。この点についてまったく説明されないのであるが、状況からして同じ人物であるように思える。
※「Vanていうのはヨーロッパ人からすると貴族的な名前だが、アメリカ人的にはクルマのバンを想起させるので、安っぽいかんじがするからVonに変えたんじゃないか」とかいうような話をどこかで読んだのですが、すません、ソースをなくしました。正確なところはわからないです。
ヘルシングは驚く警官たちに「たったいま、ドラキュラなる吸血鬼を退治したところであるぞ」としゃべったが、当然ながら、まったく信じてもらえず「この殺人者め」とお縄になる。ヘルシング、ピンチ!
そうこうやってるうちに、霧の中から、マリヤ・ザレスカ伯爵夫人(グロリア・ホールデン)と名乗るミステリアス美女が出現する。彼女は死んだドラキュラの娘であり、彼女もまたヴァンパイアなんだが、その呪われた運命に愛想を尽かしており、なんとか普通の人間になりたいと思っている。でも思うようにならず、悶々とする。結局、誘惑を抑えきれずに人を襲い続ける。
警察に囚われているヘルシングは自由に動けないが、その代わりに活躍するのが、新キャラのジェフリー・ガース(オットー・クルーガー)。彼はヘルシングの元教え子であり、聡明理知な精神医である。最初はヴァンパイア説を信じなかったが、やがて事件に巻き込まれ、その存在を信じるようになる。
ガースの秘書兼恋人のジャネット(マーゲリット・チャーチル)はお茶目なカワイコちゃんで、楽しい小ネタをやってくれます。また、ザレスカをアシストする愛人男のサンダー(アーヴィング・ピシェル)てのがいるんだが、これがじつに怪奇な雰囲気の脇役キャラである。
ゼレスカに惚れてるサンダーは、その寵愛を受けたいばかりに、尽くして尽くして献身するのだが、ゼレスカはこの男を無慈悲にコキ使い目的を果たそうとする。そして、最後は、ムシケラ扱いされたサンダーさんの怒りが炸裂。
あと、ザレスカが襲う家出娘リリーちゃん(ナン・グレイ)てのもかわいくてよかったです。
トレイラー動画
感想
『女ドラキュラ(1936)』は『魔人ドラキュラ (1931)』の続編なんだが、矛盾点がたくさんある。
- ヴァン・ヘルシングの名前がヴォン・ヘルシングにいきなり変わった。
- 前作の登場人物、ミナ、ジョン、セワードなどが一切登場しない。
- ドラキュラ城のセットが違う。
- だいたいドラキュラに娘ってナンだ!?ドラキュラは500年生きたそうだから(前作でそのように説明された)、そのあいだに娘くらいつくったとしても不思議ではないが、そもそもヴァンパイアは死人である。死人が子供をつくれるんだろうか。
とまァ、いいだしたらキリがないですが、1930年代という事情を考えればこれくらいは許容ではないかと思います。当時は、映画を録画するという手段がなかったわけですから、観客たちは細かいことを覚えていられない。制作者にすれば、整合性に気を遣うよりも、おもしろけりゃそれでいい的なかんじだったんじゃないかな。
『魔人ドラキュラ (1931)』が公開された時点というのは、サイレント映画から音つきの映画に移行する過渡期だったそうです。当時の映画館てのは、音響の機器が備わっていない場合も珍しくなかったそうな。3Dの映画館が急速に広まりつつあるいまの状況と似ていますね。それくらい昔なんだから、いまとはかなり状況が違っていたんじゃないかなと思います。
ところで余談ですが、私は家庭用のDVDやビデオがなかった時代(マニアは持っていたかもしれないが、一般的ではなかった)を知っています(6〜70年代)。私が子供の頃ってのは、映画やドラマを見るときの気合いの入りようが、それはそれはintenseだったのですよ。おもしろいシーンを見逃したらこんどいつ見れるかわからない。だから、CMの間にトイレに行くのも大急ぎで「おーーーーい、始まったぞ!」と父にいわれて、チンコ出しながらひーこらいって走って茶の間に戻るみたいな調子。テレビの前から離れたくないもんでうんち漏らしたこともある。「あとからレンタルすりゃいいや」というオプションはないのです。若い方には想像がつかないでしょうが、そんな時代だったのですよ。
昔に戻りたいとは思わないですが、当時の気合いの入りようというのはよかったなあと思うことはあります。『ウルトラマン』を毎週喜んで見てましたが、昼間学校で「今日はゾフィーが出る」なんて聞いたら、もうそわそわです。授業が終わったら一目散に家に帰って見逃さないようにするんだが、あんまり早く帰り過ぎちゃうと中途半端に空き時間ができて寝てしまうのです。親が起こしてくれないと見逃して、それで泣いて怒って大騒ぎしたなんていう記憶があります。
あ、話がそれてすません。んで、映画ですが、まぁわるくはないんだが、やっぱベラ・ルゴシのドラキュラほどのインパクトはないなあと思いました。ゼレスカ演じるグロリア・ホールデンが「I never drink ... wine.」というシーンもありましたが、やけにさらっと流してしまうから、あれれ。あれはもっとタメタメでやってほしいなあとおもいました。
でも、よかった点もあります。ジャネットちゃんのお茶目なところとか。彼女は愛するガースがへんな女のところにいっちゃうもんで、やきもちを焼いていたずらをやるのです。「タイを結んであげますわ」とやってあげるんだが、それがへんな向きになってるとか、ガースが仕事してるところにイタズラ電話するとかですね。だいたいこの映画はホラーなんだけど、随所にお笑いネタが仕込んでありました。やたら気が小さいおまわりさんとか、他にもなにかあったかな。
いちばんウケたのはこのライン↓
Countess Marya Zaleska: You're no longer the sympathetic Samaritan, are you, Dr. Garth? Now you're a policeman.
ゼレスカ:あなたはよきサマリア人ではなくなってしまった。そんな警官みたいなことをおっしゃるなんてひどいですわ。
はははははははは。ヴァンパイアにこんなこといわれてもなー。
ネタバレあらすじ
ヘルシング(エドワード・ヴァン・スローン)は殺人の疑いで逮捕される。彼は警察のえらいさん(ギルバート・エメリー)を相手に「ヴァンパイアがどーのこーの」という主張を繰り返すが、まったく信じてもらえない。
「このままじゃ絞首刑か、精神病院送りになっちゃいますよ」といわれるも、泰然自若とした態度で主張を貫徹する肝っ玉教授ぶりは、さすがヴァン・ヘルシングといえよう。じゃなくて、ヴォン・ヘルシング。ま、どっちでもいい!
ヘルシングは自身の弁護人として、ジェフリー・ガース(オットー・クルーガー)という男を指名する。これはヘルシングの元教え子であり、現在は精神医をやっているという男で、彼なら信じてくれると思ったからである。
これを受けて、ガースが警察署にやってくる。理知的な風貌のアンちゃん。彼もまたヴァンパイア説を信じない。なんだか知らないがへんな妄想を持ってしまったのだなと精神医らしい感想を持つ。ヘルシングはへこたれずに説得する。
「迷信と思われていたものが、時を経て、科学であると実証された例はゴマンとあるではないか。きみはもっと自由な発想をしたまえ」なんていうんだが、ガースは「アカデミックな場でそういう議論をするのは楽しいが、これは殺人事件の裁判なんですよ」と反論する。じつにごもっとも。
いわれたヘルシングは「きみにそういわれちゃ、わしゃひとりぼっちだ」と初めて弱気な顔をした。したらガースは「いやいや、わたしはあなたを助けます。どうやればいいのかわからないけど、きっとなにか方法がありますヨ」とたのもしい台詞を述べた。
てわけで、ガースは吸血鬼話を信じてくれないんだが、でも助けてくれる気はあるようです。やはりヘルシングを深く尊敬しているのであろう。
そうこうやってるうちに、妖気漂う謎の美女が霧の中から登場する。彼女は警察の死体置き場にやすやすと侵入。見張りの警官に催眠術をかけ、ドラキュラの死体を盗んだ。彼女の名前はマリヤ・ザレスカ伯爵夫人(グロリア・ホールデン)という。
ザレスカは死んだドラキュラの娘なんだが、彼女の素性が明かされるのはもう少し先である。さて、彼女も父と同じくヴァンパイアなんだが、本人はそれがイヤである。普通の人間になりたいと思ってる彼女は、このたび父が死んだと聞き、その死体を焼却すれば自分の呪いが消えるのではないかと考えて、死体を盗んだのであった。
死体をこっそり運んで安置し「成仏してくだされ」とかなんとかお祈りをして、焼却儀式をやったんだが、結局のところ、だめであった。彼女はいつも通りのヴァンパイア。ヴァンパイア人生にオサラバしたくてもできない彼女は悶々とする。
ザレスカはパーティでガースに出会う。人生的な悩みを抱える彼女は、ガースが語る精神医学の方法に興味を示し「わたしを助けてください」とお願いする。ガースは彼女の家に行き、セラピーセッションを行う。ふたりは医師と患者の関係になる。
ところで、ガースには秘書兼恋人のジャネットちゃん(マーゲリット・チャーチル)ていうカワイコちゃんがいるんだが、このふたりのシーンは夫婦漫才みたいでおもしろい。ジャネットちゃんはガースがミステリアス美女の家に呼ばれたことが不満で、子供っぽい妨害工作をやる。
一方、ザレスカの方にもサンダー(アーヴィング・ピシェル)という愛人がいるんだが、こちらは見るからに不気味な男である。彼はザレスカのいうことならなんでも聞く。それだけ彼女に惚れているらしい。
ザレスカはガースに悩みがあることを打ち明けるが、ヴァンパイアであることはいわない。ガースの方は、薬物中毒かなにかと勘違いしたようであり「対決しなさい。そして誘惑を断ち切るのです。がまんするのです」というようなアドバイスをした。
ザレスカはこれを受けて、家出娘カワイコちゃんのリリー(ナン・グレイ)をさらってくる。目の前に無防備な女を置いて、がまんできるかどうかの耐久テストを行ったが、結果、失敗。ガブリとやる。気の毒リリーは路上で気絶しているところを発見され、警察に保護された。
ガースは彼女を診断し、その首筋にカミ傷があるのを発見。また、この女性ばかりでなく、同様の事件が連続して起きているという点を思い出し、さらに、ザレスカの家に鏡が一枚もなかったことも思いだす。このあたりから彼は「やっぱりヴァンパイアはいるのかな」と考え始めたようだ。
一方、ザレスカの方は、ヴァンパイアの呪いを断ち切るのはやっぱり無理だと落胆し、ヤケクソ気分になるが、このあたりから彼女はガースを好きになってくる。彼女は近々イギリス国外に脱出する計画でいたのだが、ガースもいっしょに連れていきたいと考えるようになる。直接お願いしてみたが「だめです」といわれて頭にきちゃった彼女は、ガースの恋人ジャネットを拉致する。
この行動原理というものがおそろしく地雷女である。さすがドラキュラの娘!
その頃、ガースは気絶女のリリーに催眠術を行い、ザレスカの隠れ家を聞き出すことに成功した。が、その後まもなくリリーは死亡した。
ガースはゲットした情報を元に、ザレスカの隠れ家に行く。ザレスカと対面。ガースは尋問口調で問いつめる。それに対してザレスカが答えた台詞が以下である↓
Countess Marya Zaleska: You're no longer the sympathetic Samaritan, are you, Dr. Garth? Now you're a policeman.
ザレスカ:あなたは良きサマリア人ではなくなってしまった。そんな警官みたいなことをおっしゃるなんてひどいですわ。
なんてイカレた女なんだ!と思ったら、さらに彼女はジャネットを拉致したこと、自分はドラキュラの娘であることを明かし、姿を消す。用意した飛行機に乗り、トランシルヴァニアに高飛び。ジャネットもいっしょである。彼女を連れていけば、ガースもくると思ったのであろう。キチガイ女め。
ラストはトランシルヴァニアのドラキュラ城。
ガースは単身で城に突入する。ザレスカと出会い、気絶するジャネットを発見しておののく。ザレスカは地雷女全開の提案をする。
「あなたたちが科学と呼んでいるものでは、彼女を助けることはできないですわ。わたしが呪文をかけたから。どうしても彼女を助けたいなら、わたしとここでいっしょに暮らしなさい。そしたら、わたしはあなたに永遠の命をあげますよ。どうかしら」
という話を聞いたガースは「もうわかりましたよ」と根負けした調子になったんだが、ここで遠くから矢がズダーンと飛んできて、ザレスカのハートにブスリ。ザレスカ、死亡。
矢を放ったのは、彼女の愛人兼家来であるサンダーであった。彼はザレスカの寵愛を受けたいばかりになんでもいうことを聞いて尽くしてきたのが、最後になってコレかよ!と頭にきちゃって、矢を放ったのである。そりゃ怒るわな。
怒りのサンダーはガースも狙い撃ちしようとしたが、ここに遅れてヘルシング教授と警官隊のみなさんが到着。警官は銃をばんばん。気の毒サンダーは銃弾に倒れて死亡。
ヘルシングはザレスカの死亡を確認。ザレスカが死亡すると、ジャネットは目を覚ました。めでたしめでたし。
おしまい。
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『女ドラキュラ』 | |
1936年 | |
アメリカ | |
1936年5月11日 (アメリカ) | |
imdb.com :: Dracula's Daughter |
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