2009/2/6 (Fri) at 3:00 pm

映画|下宿人|The Lodger

アルフレッド・ヒッチコックの古典スリラー『下宿人』のリメイク。アルフレッド・モリナホープ・デイヴィスサイモン・ベイカー、シェイン・ウェスト。監督デヴィッド・オンダーチェ。原作マリー・ベロック=ローンズ。2009年。

下宿人 / The Lodger DVDDVD画像

1927年制作のヒッチコックの『下宿人』のあらすじはこちらにあります↓

LAで殺人事件発生。娼婦をナイフでメッタ切り惨殺。その手口は、7年前のシリアルキラー、アロンツォ・ロドリゲスのやり方を真似ようとしているという特徴があった。ロドリゲスは7年前に死刑になっている。よって今回の事件はロドリゲスを真似た模倣犯なんだなと思ったら、2人目の被害者が出たらば、警察当局にとってじつにヤバい可能性が浮上した。

2度目の死体を調べた検死医は「これは模倣犯でなく、ロドリゲス本人の仕業かも」なんていいだすのだ。死刑になった者が殺人をやれるわけはないので、このいいようをわかりやすく言い換えると「ロドリゲスは冤罪だったのであり、じつは犯人は別にいて、7年間潜伏していたのかも」という意味である。こりゃたいへんだ!さらに犯人は『ジャック・ザ・リッパー』の殺し方を真似するのが大好きという点がわかってくる。それはタダの模倣犯でなく、決まったルールで殺人を行うことによってなにかを伝えたがっているようなサイコパス動機がうかがえるというかんじもある。

警察とDAはがびーんとショックを受けた。アルフレッド・モリナ演じるマニング刑事は、LASD (Los Angeles Sheriff's Department) の捜査官で、7年前の事件の担当者でもある。今回も彼が捜査するんだが、マスコミ大注目の事件だし、過去の問題もあったりするので胃が痛い。FBIやらLAPDのエラいさんにわーわーいわれてストレス過多。彼のパートナーはシェイン・ウェスト演じる新米刑事で、あまりアテにならない。

ところで、マニング刑事にはレイチェル・リー・クック演じる年頃の娘がいる。「ママはげんきか?」「わたしゃ忙しい。もういいから」なんて会話をしている。なにやらワケアリみたい。彼は家族によほどヒドいことをしたんだろうか。

というポリスの動きを描きつつ、別のシーンでは、貸部屋経営を営む夫婦が登場。彼らは自宅の離れを人に貸して収入を得ているが、さいきん借り手がなくて家計がピンチである。そこにサイモン・ベーカー演じるマルコムという青年がフラリときて、ヒョイと3ヶ月分払った。ラッキーである。

マルコム青年はやたら「静かな環境がよい」とプライバシーを強調する。チト神経質そうだが、知的なハンサム男。ホープ・デイヴィス演じる妻エレンはいっぺんで彼を気に入る。化粧が濃くなって色情狂下宿屋婦人というムードになってくる。親切だけどやたらおせっかいな大家サンてかんじ。

エレン夫婦には小さな男の子がいる。夫は夜間警備の仕事をしているが、この夫は仕事の後はバーにいくのが日課というダメ亭主風である。夫婦の会話は冷めたムード。夫は妻の暗い顔つきを見ても優しいことをいったりすることはなく、冷めた視線で眺めるだけであり「薬をちゃんと飲め」とだけしかいわない。彼女はなんの病気なのだろうか。

映画を観ている私たちは、よほどのヘソ曲がりじゃない限りエレンに同情するだろう。彼女はきれいずきだし、料理もするし、生活のせいで疲れた顔をしているが、オシャレをして表情が明るくなれば美人だとおもう。こんな亭主といっしょにいるんじゃだめだわなーとホームドラマを見てるきぶんになってくる。

そんなくらい顔つきのエレンだったが、マルコムという下宿人が現れてからというもの、妙にうきうき顔でそわそわ。おいしい朝ゴハンをルームサービスしたりする。マルコムにしてみれば、ちょっときもちわるいオバサンって思えるだろうが、彼女の境遇を考えれば色情狂ムードになるのもやむをえないといえよう。なーんてホームドラマみたいなおしゃべりが続いているが、これはシリアルキラーを題材にしたサスペンスである。

いうまでもなく、マルコムは娼婦殺しの犯人であるという前提で映画は進行する。LAのダウンタウンで娼婦が殺されるといつもマルコムは家にいない。殺人のシーンでは犯人の顔は見えないが、限りなく『マルコム = キラー』という前提で映画は進んでいく。エレンはますます彼に興味を持ち、なにやら怪しいゾと気づいてくる。

これは、なんちゅうか、犯人探しを楽しむ映画でなくて、キャラたちの悲喜交々を描いたサスペンス映画なんだなと思ったら、後半になって意外な事実が明かされる。「あ、そうなんすか」とおもったら、その先では「そ、そうだったんですか!」というオチが待っている。

The Lodger (2009) trailer
The Lodger (2009)

※感想

ヒッチコック『下宿人』のリメイクだが、内容はじつに異なる。後半はまったくちがう物語になる。リメイクというより「下宿人が現代のLAに復活か!」「下宿人のリベンジ〜!」みたいな。リメイクと言い切るほうが儲かるからそうしたんだろうか。随所にヒッチコック『下宿人』のオマージュが出てきた。やってきた下宿人はひとめで部屋を気に入ったんだけど、壁にかけてある絵が気に入らないといってそれをはずしてしまうところ。あと、黒いカバンとか。他にもなんかあったかも。『下宿人 / The Lodger』はこれまでにもたくさんリメイクが出ているので、他作品と比べてみるとおもしろいかもです。

検死医を演じたのはドラマ『Lost』でダーマのラボ研究者のフランソワ・チャウであった。ウハ。これはけっこうおもしろかった。彼が白衣姿で死体を前に台詞をしゃべっていると、ダーマの先生とダブってしまう。死体の切り傷からウサギを取りだして「ほーらね」とかいいだすんじゃないかとハラハラした。また、かなりチョイ役なんだけど、10年前にやってたオルセン姉妹のお笑いドラマ『Two Of A Kind』でバーク教授の教え子のPCオタクをやってたアーニー・グルンヴァルト、なんていっても知ってるひとは少ないだろうが、彼のキョドッてる演技はじつにおもしろかった。

さて感想だが、ロジックに相当のムリヤリ感があるように思えるが、そこらへんで好みがわかれるだろうが、俳優さんの演技がよかったので私的にはセーフである。「○○はじつは○○だった!」というのは意外だった。でもどうかな。私はホープ・デイヴィスの演技がかなりいいなとおもって、そのせいでコロリとダマされたんだけど、私のいうことはあまりみなさんの参考にはならないかも。

私の友達にいわせると「サスペンス映画の観客がぜんぶあんたみたいなら、監督は大喜びだね」てことらしい。SFやホラーはよく見てるのでその種の映画のパターンは人並みにわかってるつもりなんだけど、推理ものはすごくだめである。なにを見てもホエーーーと驚いて喜んでいる。ゆえに、こういう私が「意外だ!」というものがあなたにとっても意外かどうかはわからないですヨという点をわかっといてください。

ひとつだけどうしても思うのは、現代のLAでシリアルキラーがあんな部屋を借りるか?という点である。これの原作が書かれたのは1913年。小説の舞台は19世紀のロンドンだ。いまのLAならシリアルキラーには超べんりなアパートがいくらでもあるのに、わざわざあんな部屋を借りるなんて違和感アリアリだ。と思ったんだけど、深読みをするならば、いかにもシリアルキラーが借りそうなID不要の安モーテルなんかを借りたらば、警察はそういうところをしらみつぶしに調べて監視カメラの映像をチェックするだろう、だからワザとそのセンを外したということなのかもしれないケド。

いくつかよいquotesがあったのでメモ。以下に挙げるいくつかの短い会話はネタバレにはならない。てか、映画を観てないとこれを読んでもどこがおもしろいのかわからないかも。見たひとだけにわかるムフフ感を共有しよう。

Ellen's husband: Take your damn pills. No one's gonna rent this place if they think the landlady's a lunatic.
Ellen: Well, what if the landlord is?

Malcolm: I'm not too particular... About food.

Manning: A clean pimp? Now there's an oxymoron.

Manning: What is this!? Some kind of retroactive obsession?

なかなかうまい台詞ですね。

ところで、映画の中で『ジャック・ザ・リッパー』の研究サイトが出てきた。試しにurlを入れてみたらそのサイトは実際にあった↓

もしかして映画のためにわざわざつくったサイトなんだろうか?と気になったのでwhoisしてみたらそういうことでもないみたい。ドメイン取得は1999年になっている。昔からあるサイトなんだな。こんなふうに映画の中で使われたらどれくらいギャラがもらえるんでしょうか。すごいなー。

もうひとつ出てくるurl↓

こちらは存在しなかった。上のurlにアクセスするとLodgerの公式サイトにリダイレクトされる。どうでもいい話ですません。気になったもんで。

SPOILER ALERT!!!!!
ネタバレ!

なんだかんだといろいろあるわけですが、バッサリまんなかをハショッてしまうと、キラーの正体はエレンであった。マルコムなんて下宿人は存在しない。また、彼女の息子も存在しない。ぜんぶ彼女の妄想の産物。彼女は重度の統合失調症(schizophrenic)で、彼女の頭の中には架空キャラがいて、あたかもソレが存在するように自分で演じていたというオチでした。

エレンの亭主が彼女をいつも冷たい視線で眺めて「薬飲んどけ」っていってたのはそういう意味だったのですね。彼はダメ亭主じゃなかったんだ。こうやって書いちゃうとじつに脱力オチですが、映画を観てるあいだは私はまったく気づかなくって、それが明かされた瞬間はホエーと驚いてました。やっぱり私ってニブいかも。

さらにそのあとにまだ続きがあって、じつは二段オチになってて、まさか犯人は別人ですかというところで終了。ジャック・ザ・リッパーは迷宮入りになったのだからソレに合わせたということかも。

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原題: The Lodger
別題: A titokzatos lakó
El huésped
L'éventreur de West Hollywood
Misterioso inquilino
O enoikos
The lodger - Il pensionante
邦題(カタカナ): 『下宿人』
制作年: 2009年
制作国: アメリカ
公開日: 2009年1月14日 (アメリカ) (Westwood, California premiere)
2009年1月23日 (アメリカ) (limited)
2009年2月10日 (アメリカ) (DVD)
2009年2月26日 (ロシア) (DVD)
2009年3月3日 (イタリア) (DVD)
2009年3月5日 (ドイツ) (DVD)
2009年3月9日 (イギリス) (DVD)
2009年8月5日 (日本) (DVD)
imdb.com: imdb.com :: The Lodger
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
音楽
シネマトグラフィ
編集
キャスティング
プロダクション・デザイン
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