映画|仁義の墓場
戦後昭和の激動の時代を舞台に、無軌道突っ走り性格破綻の暴力男がまっしぐらに破滅する実録ヤクザ映画。渡哲也、多岐川裕美、梅宮辰夫。監督 深作欣二。原作 藤田五郎。1975年。
昭和21年。
石川力夫(渡哲也)は少年時代に水戸の実家を飛び出し、新宿のテキヤ親分河田修造(ハナ肇)の子分になったが、やることなすことむちゃくちゃで、暴力破壊行動を繰り返し、本人は「親分のためにやった」というんだが、だれにも愛されない本式の狂者であり、性格破綻者である。
石川の行状に腹を立てた親分、ハナ肇のお言葉↓
バカものめ!おまえのやってることは、はたきをかけて、障子を破いてるようなもんなんだよ。
うまいこといいますなあ。
ヤクザ社会そのものが『世間の鼻つまみ者』の集団であるが、その中にあって「いいかげんにしろ」といわれるくらいだから、とにかく困った男であるが、こんな石川にも惚れた女ができる。
三国人を襲って、暴れ回って、逃げ込んだ先。ヒョイと出会った置屋の純情娘、地恵子(多岐川裕美)を問答無用で押し倒し、てごめにする。突然の凶事にすすり泣く娘さんを見ても動じる気配なく、その背中に「またくるからヨ」と声をかけて去っていくところは、すでに「おれのオンナ」状態。常人には理解しがたいが、これが彼の愛情表現なのである。
地恵子はピーピー泣いたが、その後、彼女は石川を受け入れるようになる。暴力男の、愛とは呼べない愛にほだされ、彼といっしょに落ちていく道を選んでしまう不幸女のありように、あなたの胸は締めつけられます。
「女ができると不良を卒業してまじめになる」なんていう話は多いけれども、石川さんの人生ににそんなあまっちょろいオプションがあるわけない。
以前に増してやりたい放題大暴れの日々をやっていたらば、ついに親分に愛想を尽かされ、反省するどころか、親分相手に刃物を振り回し、刑務所入り&破門となり、出所したら、関東所払い10年といわれたもんで、大阪に移動。
こんどはヤクを覚える。暴力にクスリが加わると、退廃まっしぐらのおちぶれよう。一時大阪に逼塞したが、東京が恋しくなり、デカダンムードをひっさげて戻ってくる。
大阪で知り合ったヤク友達、小崎勝次(田中邦衛)を連れて賭場に現れ、ズクをわしづかみ、手向かう者を殴ってケトばすという掟破りのストロングスタイルもんくあっかの無軌道ぶりであるが、こんな石川にもたったひとり同情してくれる男がいた。こちらは元愚連隊で、いまは組長さんに出世した今井幸三郎(梅宮辰夫)という男であるが、石川はこの親友男に対しても不遜傲岸であり、小遣いをセビってまともに口をきかず、しまいにそいつもブッ殺す。
ヤクザ社会からもポリスからも追われ、この世に悪臭と厄悪をまき散らす以外は能がない男、石川は、今日もヤクを射ってげんきをだしたら誰かをぶん殴り、世界をセセラ笑い、女を引き連れて、ドブの中を走り回り、破滅の道を美しく落ちていくのであった。
トレイラー動画
感想
なんかバキッー!としたヤツを観たいなあと思って、今日はコレ。いやー、すばらしい。
深作欣二の映画は苛烈な暴力表現がウリですが、でもたいていのヤツは「万人が楽しめる娯楽映画としてのバイオレンス」という調子が多いと思うんだが、そういった作品群の中で、この『仁義の墓場』は異色と思われ。
1975年というのは『仁義なき戦い』『新・仁義なき戦い』のヒットシリーズとほぼ同時期で、おなじみの実録ヤクザ映画の手法でつくられていて、おなじみの俳優さんばかり登場するが、その本質はかなり異なる。
『仁義なき戦い』は一本気の広能昌三(菅原文太)という男が、ヤクザ社会の腹黒いヤツラに利用されてヒデー目に遭い、それでも彼はメゲずに男を貫いていくというピカレスクなドラマだったですが、『仁義の墓場』はひたすら悲惨に落ちていくだけの話で、カタルシスなんか微塵もない。
救いようがないダメ人間なんですね、石川さんは。
彼の人格に長所があるとすれば「いいわけしない」という点でしょうか。その点だけは大したもんだとおもいました。根性のある狂人なんですね。彼は世間をセセラ笑っているみたいなんだが、その笑いのモトってのはこういうことなのかな↓
「おまえらはほんとうに自分がやりたいことをやって生きているのかあ。おれは好き勝手に生きているぞおお。義理だの人情だの、あほくせえ。そんなこともわかんないおまえらってバーカ。わっはっはー」
という台詞はなかったけれど、そういう心境なのかなと想像しました。映画の最後で彼の辞世の句が出てきて↓
『大笑い 三十年の 馬鹿騒ぎ』
そして、彼が生前中に自分でつくった自分と地恵子の墓には、『仁義』という、じつに石川らしくない文字が刻まれていたという点が明かされて終わるんだけれども、これは彼自身の自分に対する『仁義』だったんじゃないかなあ。
人間って、おなかのなかに『自分はかくあらねばならない』みたいな塊を持ってるじゃないですか。それは他人に説明する必要のない自分ルールですよね。そういう意味の『仁義』だったんじゃないかなとおもう。だから『仁義』というワードは彼らしくてよかったとおもう。
深作監督らしく、絵づくりにすごくこだわりがあって、どのシーンもいいですが、私は特に次のふたつのシーンがすきです。
ひとつは石川が刑務所で暴れて独房に入れられるところ。傷だらけで汚い独房に放り込まれるんだけど、下が鉄の格子になってて、ウンコもオシッコも垂れ流しという野獣以下の扱い。ホラヨと差し込まれたお椀のめしを犬みたいに食おうと思ったら、お椀が下のドブのウンコのほうに落っこちちゃうの。それを見た看守がケラケラ笑う。陰惨ですねえ。
もうひとつ好きなのは、彼が大阪で初めてヤクをやるところ。ゴミ溜めみたいなドヤで売女(芹明香)に射ってもらって、ホエーとする。あのシーンの落ちぶれようは美しい。
地恵子を演じた多岐川裕美もよかった。彼女は石川をおそれおののいて見つめるのであるが、その相手が傷ついて逃げ込んできて「たすけてくれええ」といわれると、名状しがたい女心/情感が湧くようであり、流されていってしまう。病気になってゲホゲホいってみじめに死んでいくの。映画の中で彼女の過去は一切明かされないんだが、あんな女はきっと悲しい過去があるのだろうなあと想像されます。
こんなデタラメ男が、最後の最後になったら、愛する女のために命を賭けて美しく散っていった、なんていうラストがあれば普通の任侠映画ですけどね、そんな結末はやってこないのです。多岐川裕美は不幸女として死んでいく。渡哲也は嫌われ者のゴミムシとして死んでいく。あー。これがすごくいいよ!
三池崇史のリメイク『新 仁義の墓場 (2002)』と比べてみる
私はリメイクの方から先に見ちゃったですが、この度、オリジナル版を見たらば、三池崇史の『新 仁義の墓場 (2002)』はじつによいリメイクだったんだなあと新たに感動することができました。
時代を現代に置き換え、渡哲也 → 岸谷五朗、多岐川裕美 → 有森也実というキャスティングのリメイク『新 仁義の墓場 (2002)』は、オリジナルへの尊敬がかんじられ、それでいて、三池監督らしい別の作品に仕上がっている。リメイクってのはこうあるべきだという見本です。未見の方は、両方見るといいですよ。どっちもいいよ。
DVDのExtra
私が持ってるのはUS版のDVDで、オマケはこれだけ↓
- A Portrait of Rage, a 20-minute video essay
- On The Set with Fukashaku
- Trailers
- Filmography
『A Portrait of Rage, a 20-minute video essay』てのは、2004年当時の深作欣二の関係者のインタビュー。小栗謙一(映画監督。当時の助監督)、深作健太(息子。深作監督の死後『バトル・ロワイアルII 【鎮魂歌】』の監督を引き継いだ)、Linda Hoaglund(日本映画に詳しいオバちゃん)、黒沢清(映画監督)、山根貞男(映画評論家)、阪本順治(映画監督)。といったみなさんが出てくる。
『On The Set with Fukashaku』てのは、『仁義の墓場』にて助監督として起用された小栗謙一のインタビュー。当時の撮影のようすなど。
これらのインタビューは濃い内容で、おもしろいですよ。
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Jingi no hakaba | |
Psycho Junkie Alugados Pelo Inferno Death of Honor Graveyard of Honor La tomba dell'onore Le cimetière de la morale | |
『仁義の墓場』 | |
1975年 | |
日本 | |
1975年2月15日 (日本) 1980年4月23日 (フランス) 2004年5月18日 (ドイツ) (DVD) | |
imdb.com :: Jingi no hakaba |
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