2010/8/18 (Wed) at 9:32 am

映画|黒猫の棲む館|The Tomb of Ligeia

死んだ美人妻が化けネコになって蘇る古典ホラー映画。Nor lie in death forever! 原作エドガー・アラン・ポー著『レジイア』。ヴィンセント・プライスエリザベス・シェパードジョン・ウェストブルックオリヴァー・ジョンストン。監督ロジャー・コーマン。1964年。

黒猫の棲む館 / The Tomb of Ligeia DVDDVD画像

映画はリジイアという名の女性のお葬式から始まる。おごそかに棺が運ばれてきて、これから墓に埋めるところ。残された夫ヴァーデン(ヴィンセント・プライス)は妻の死をまるきり信じてないようなことをいいだして、周囲の人たちをびっくりさせる。ヴァーデンは彼女が死んでない理由を次のようにいうのだが↓

Verden Fell: She will not die bacause she willed not to die.

Verden Fell: 彼女は死ぬ意思がなかったから。

こんなの理由になっていないと思うんだが、本人は自信満々で「おまえらはそんなこともわからんのか」という調子なのである。回りのひとたちはそんな彼を持て余し、変人扱いし、ヤレヤレ顔になり「さっさと埋めておしまいにしようや」と思ったところで、棺の上に黒いネコがぴょんと乗ってニャーと鳴いた。そしたら、びっくりすることが起きた!

棺は顔の部分がガラスになってて顔が見えるように細工してあるのだが、ネコの鳴き声がしたらば、死人の目がパカッと開いたのである。人々はおったまげて絶句する。が、ヴァーデンはまったく平静であり「神経が収縮しただけですよ」と述べ、棺を開け、元通りにまぶたを閉じてやる。そしてみんなの顔を眺めて「あれれ、みなさんどうしたの?ネコに舌を抜かれちゃったのかな、フォフォフォ」なんつって気味の悪いスマイルをしやがるのだ。狂気ぢみてるおじさんです。

数ヶ月後、ヴァーデンは死んだ妻リジイアとそっくりな女性、ロウィーナと出会う。再登場するヴァーデンは目が悪いといってサングラスをかけている。でも盲目というわけではなく、日光が当たると鋭敏に感じすぎるということらしい。普通くらいの視力はあるようです。

ロウィーナてのは、快活かつ率直かつ優しい雰囲気のカワイコちゃんである。そんな彼女はヴァーデンに一目惚れをする。ヴァーデンは変人じみており、彼の家ってのが古い修道院を改造した建物で、じつに怪奇ホラーな雰囲気だし、そこに執事とふたりで隠棲しているような趣なんだが、彼女はそんな彼の個性に惹かれてしまうのであった。

ヴァーデンもまた彼女がリジイアとそっくりであるという点を知るや、だいすきになる。電撃結婚。ロウィーナにはクリストファー(ジョン・ウェストブルック)という優しい恋人(かな?ただの男友達?)がいたんだが、彼女はそんなのどうでもよくなっちゃって、ヴァーデンの妻になる。

リジイアとロウィーナはエリザベス・シェパードがひとり二役で演じているが、ひとつ相違があって、それは髪の色である。リジイアは黒髪、ロウィーナはブロンドである。リジイアのカラスのような黒髪はポーの原作においての重要なキモなのです。

さて熱烈に盛りあがって結婚したふたりであったが、ハネムーンから帰ってきたらへんなようすになる。夫婦だというのになぜかヴァーデンは寝室を別にしたがるのだ。夜になって眠くなると彼は決まって「ではまた明日の朝めしでお会いしましょう、妻よ」と去っていくのだが、彼はそれが紳士のやり方だと思ってるみたいなんだが、19世紀の英国貴族の生活様式ってもんを私はよく知らないが、これは少し異常ではないかと思ったら、やっぱりロウィーナも同じことを感じるのである。

へんに思った彼女があとを尾けたら、夫はなにやら秘密の行動をしていて、さらに不思議なことに、そのあいだ記憶がトンじゃってるらしい。また、そうこうやってるうちに、怪奇な出来事がロウィーナの身に起きるようになる。キツネの死骸がベッドに放り込んであったり、悪夢にうなされたりするんだが、いつも彼女の傍らには気味の悪い黒ネコがいるのだ。黒ネコは悪霊のようにまとわりついてロウィーナの快活さを奪っていく。彼女は病気のようになってしまう。

死んだはずの前妻リジイアが化けネコになって、罪のないロウィーナちゃんをいぢめているのであろうか。彼女はたまらず、男友達(元カレ?)のクリストファーにヘルプを求め、彼は期待に応えるように男らしくやってきて、もしかしてリジイアはまだどっかに生きているんじゃないか、ヴァーデンはどこかに彼女を隠しているんじゃないかと疑いを持つ。クリストファーは執事ケンリック(オリヴァー・ジョンストン)を問いつめ、主人の秘密を白状させる。

最後は炎と恐怖のクライマックスに突入します。ポーの短編『リジイア』を基底に構築されたロジャー・コーマン流リジイア『黒猫の棲む館』は『黒猫』要素も取り入れつつ、原作の雰囲気を再現し、怪異耽美なホラー映画になっています。

トレイラー動画

Tomb Of Ligeia (1964) trailer

感想

最近ポーの『リジイア』を原作とする新作映画『The Tomb (2009)』てのが出たので、まずはこちらからレビューします。

ロジャー・コーマンが監督したポー原作の映画を書き出してみました↓

  • アッシャー家の惨劇 / House of Usher (1960)
  • 恐怖の振子 / The Pit and the Pendulum (1961)
  • 姦婦の生き埋葬 / The Premature Burial (1962)
  • 黒猫の怨霊 / Tales of Terror (1962)
  • 忍者と悪女 / The Raven (1963)
  • 怪談呪いの霊魂 / The Haunted Palace (1963)
  • 赤死病の仮面 / The Masque of the Red Death (1964)
  • 黒猫の棲む館 / The Tomb of Ligeia (1964)

いいですなー。んで、本日のコレ『黒猫の棲む館』はコーマン + ポーの作品群の中でいちばん最後のヤツてことになります。さて、感想をば。

原作といろんなちがいはあるけれども、通底するものは同じだと思うし、特にラストの展開は原作へのオマージュ魂が感じられ、いいadaptationです。黒猫という要素は原作『リジイア』にはないんだけれども、いいかんじに溶け込んでいますね。小説『黒猫』では、主人公がネコのめんたまをえぐって殺したらそれが祟って、しまいに狂って美人妻を殺害してしまうということでしたが、こちらでは、死んだ奥さんが化けネコになって出てきて最後は黒髪のリジイア本体がジャジャーンと登場!男は破滅するということで、まぁ、どちらもヒデー話で、ネコには気の毒です。かわいい動物なのに。

ネコが出てきてきもちわるいことをやるとか、ヴィンセント・プライスが不気味な長台詞を述べるとか、こわがらせがいろいろありますが、この映画には、その合間に出てくる瞬間的な『へんなシーン』てのがあって、私、そこにすごく惹かれるのです。なんともいえず、ギョッとする。それらはホラー映画によくあるショッカーネタとはまたちがう。なんといえばいいのかな、「い、いまのはナンだったのだ!?」と動揺してしまうような不安感を呼ぶのです。

まず最初は、冒頭の「死体の目がパカッ!」ってヤツです。このシーンのエリザベス・シェパードの顔演技がすばらしい。不気味かつシュールかつ唐突。あれを観ただけで「モトは取ったな!」と思いました。みなさんは違うかもしれませんが、私は一点豪華主義なのです。ひとついいシーンがあると「ヨシ!あとはつまらなくても許す!」というきぶんになっちゃう(この映画は最後までおもしろいですヨ)。

そのあとずーと物語が進んで、ロウィーナがロウソクを食べ物に垂らすところ。あと、かわいらしいメイドさんがとつぜんガガガーとへんなことをいいだすところなどが印象的でした。これらの場面を見ると、目に見える現実のウラにはいつもなにかがあるんだなあというきもちになる。妖気があります。ああいうのがスゴく好きですね。

あと、じつにくだらない余談ですが、古い映画にはクリストファーくんみたいな男がよく登場しますね。現代の映画にはあまりないキャラです。彼は(プラトニックな関係だったのかもしれないが)、カワイコちゃんのカレシとして登場するんだが、すぐにフラレて、女は別の男のおよめさんになる。という状況において、文句のひとつもいわず、ササーと親友のポジションにおさまる。文句ゼロ。その後、彼女がヒデー目に遭ってると知ると、これまたイヤミもいわずにパッと彼女を助けてあげる。終始さわやか路線で、無私の愛を貫くのです。

ハマーの映画などにもこのようなお人好し男がよく出てきますが、これが昔流の騎士道精神なんですかね。いまの時代だとトライアングルの演出があるか、あるいはまた、中性的な男/イケてないオタク男/ゲイなどといった設定にして、自然さを演出すると思うんですが、昔の映画では男前のアンちゃんが演じていることが多いです。この映画では、クリストファーくんの努力は最後には報われて、彼は愛する女を間一髪で救うんだが、それでも彼は彼女の首筋に顔をうずめるだけで、チューしません。まだ遠慮してるんでしょうか。

私、思うに「なんてさわやかガイなんだ!えらいよ、こいつは!」と感動するんだけど、女のひとに意見を求めると、わりと冷淡な感想をいうので、男女の温度差をかんじます。現代女がいうには「こんなふうにされたら愛されてないと思っちゃう。ちょっとは怒ったりしてほしい」だそうです。私の回りだけなのかな。

エドガー・アラン・ポー著『リジイア』

「いかにして、いつの時、また正しくはいずこの地で、リジイアという女性と知りあうようになったか、私は心の奥底をまさぐるともおもい出すことはできない。」

ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1) [文庫]
ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1) [文庫]
エドガー・アラン・ポオ (著)

この短編小説はとても短いです。上にリンクした創元推理文庫だと24ページ。その内容は、リジイアという名前の妻をなくした男『私』の独白物語です。こんな話↓

男は愛する妻リジイアとふたりきりで大ハッピーだったのだが、ある日、彼女は病気になって死んでしまう。男は悲しみの旅に出る。辺境の地アイルランドのどっかにたどりつき、古い僧院の建物を手に入れてそこに住みつく。家じゅうをゴシック怪奇な趣味で飾り立てることに熱中し、孤独な隠棲生活をやってたところ、ロウィーナという女性と知り合って再婚する。が、男は前妻リジイアを忘れられないどころか、かえってリジイアの記憶がまざまざと蘇ってしまう始末で、渇望を覚えただけであった。これは不幸である。男は阿片でラリラリになる。

新婚2ヶ月で、ロウィーナは病気になる。男は妻を看病しつつ、天使の幻影を見る。また、妻が葡萄酒を飲み干すとき、ルビー色の滴りが妻のグラスに落ちるという幻影を見る。その後、間もなくして、ロウィーナは死亡する。男は死体のそばで一夜を明かす。

真夜中。

男は死体が生き返るのを目撃する。といっても、それは本当にかすかな、わかるかわからないかくらいの徴候である(ちょっぴり頬が赤みを帯びるとか、唇がかすかに動くとか)。男は医者を呼びたかったが、あいにくその場所は他の者たちがいるところからずいぶん離れているので、もし人を呼ぶなら相当の時間、彼女をひとりにしなければならない。ゆえに彼はひとりで素人的な蘇生法をやってみる。が、しばらくしたら死体は死体に戻ってしまう。落胆する。あれは幻だったのだろうか。しばらくしたら、また同じことが起きるんだが、やっぱりだめ。その後、何度も同じ現象が起きて、結局のところ、彼は世が明けるまでアタフタし通しであった。

ラスト。またもや死体に生の色が帯びてきて、彼はそれが幻覚なのかどうかわからないという極限状態なのだが、こんどはいままでとはちがうという点に気づく。なぜなら死体は起き上がったから。すでに死体は死体でなく、彼女は蘇ったのである。男が大興奮で足元に駆け寄ると、蘇った女は軽やかに身をかわし、頭に巻いていた死者の布をふわりと取り去る。すると、豊かな黒髪がジャジャーンと現れる。男はそれが確かにリジイアであると知り、歓喜の叫びをあげる。

おしまい。

映画では、ヴァーデンはリジイアの年齢を知らないという設定でしたが、この点は原作の要点のひとつです。つまり彼はそれだけ盲目的に彼女を愛していた。どこからきたか、だれの娘か、いつ産まれたか、なんていうことはどうでもいいって思えるくらいに愛していたということです。

小説を読むと、リジイアという女性が男にとってどれだけ特別な存在だったのかをより深く感じることができます。聡明で博識で美しい彼女だけが男に生を与えることができたのであり、それは彼にとって唯一無比の存在でした。また、彼女はとても意思の強い女性だったという点も精妙に語られています。ここらへんの描写はやはり映像よりも文学の方がしっくりくるなと思います。

この小説が書かれたのは1838年です。当時の死生観というのはどんなものだったのだろうと考えながら読むとおもしろいかなと。現代の私たちは心電図が水平になるところを目撃し、医者に「死亡!」といわれて死を知るわけですが、当時はいったいどんな風に死を規定していたのでしょうか。生死の境い目に関する概念が違うという点は、あらゆる認識に影響を与えるのではないでしょうか。そういうことを考えながらこの小説を読むとおもしろいなあと思います。映画の最後にポーの言葉が出ますが、まさしくその点を語っています(下のMemorable Quotesのいちばん下にその文章があります)。

Memorable Quotes

Verden Fell: Why did you come here?
Rowena Trevanion: To deliver Christopher's reply to your note. Really to see you! Sugar?
Verden Fell: I have nothing to offer.
Rowena Trevanion: You make me want to offer you something.
Verden Fell: Pity prompts you.
Rowena Trevanion: There're people one pities without being drawn to them. I suppose I even pity Christopher. He is blinded in his way too, you know. His life is being simply loan, logic to be so limited.
Verden Fell: The beauty of such a life lies in its limitations and accepting them.
Rowena Trevanion: Oh, I know. I suppose I'm spoilt and terribly wilful.
Verden Fell: Wilful? You don't even know the meaning of the word! Now, you'd better go.

Verden Fell: Christopher, not ten minutes ago, I tried to kill a stray cat with a cabbage, and all but made love to the Lady Rowena. I succeeded in squashing the cabbage, and badly frightening the lady. If only I could lay open my own brain as easily as I did that vegetable, what rot would be freed from its grey leaves? Let's go for a stroll.

Rowena Trevanion: But she did have eyes, I take it?

Verden Fell: These words were among the last she ever spoke to me... "Nor lie in death forever." Man need not kneel before the angels nor lie in death forever, save for the weakness of his feeble will. Ligeia's will was as fierce as her, as her body was frail. Outwardly calm, even placid, she nevertheless pitted herself against death with a passion words are impotent to convey. As her body progressively wasted, she seemed to turn to the very stones of the abbey for renewed strength, as if they could sustain that burning desire for life, only for life, that ravaged her as much as the fever of disease. In a sense, Ligeia became the abbey. She never entered or left a room, never walked down the darkest passageway without somehow illuminating it like a single moving candle. Like a blind man, I could sense her presence, but I could not see her in even the most tribute objects in the actions. Her voice in the rustle of draperies, the lightness of her footfall in the fluttering of a moth's wing against a closed window pane. Even at the end, she seemed to have vanquished death. She smiled and said, I will always be your wife ... your only wife. I have willed it.

"The boudaries which divide life from death are at best shadowy and vague. Who shall say where the one ends and where the other begins?" Poe.

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邦題(カタカナ): 『黒猫の棲む館』
制作年: 1964年
制作国: イギリス
公開日: 1964年11月 (イギリス) (London)
1965年1月20日 (アメリカ)
1968年12月18日 (フランス)
2009年6月23日 (イギリス) (Edinburgh Film Festival)
imdb.com: imdb.com :: The Tomb of Ligeia
監督
脚本/原案
出演
プロデュース
音楽
シネマトグラフィ
編集
アートディレクション
特殊効果(Special Effects)
Makeup

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