映画|ブランデッド|Branded
モスクワを舞台にファーストフードの陰謀を描いた奇想天外SF映画。エド・ストッパード、リーリー・ソビエスキー、ジェフリー・タンバー。監督ジェイミー・ブラッドショー、アレクサンダー・ドゥーラレイン。2012年。
ここはモスクワ。
ミーシャさん(エド・ストッパード)は超売れっ子の広告マーケティングディレクター。西側ブランドの製品/サービスをロシア市場に売り込むための戦略立案プロである。
学生時代、激動のソ連崩壊を目撃した彼は、いちはやく広告マーケティングの重要性を見抜き、独立起業していまに至るのであるが、彼が現在の地位を築いたのは、アメリカ人広告代理店業ビジネスマン、ボブ・ギボンズ(ジェフリー・タンバー)との出会いによるところが大きい。
その昔、資金難に陥ったところでボブと出会い、潤沢な支援を得て以来、いけいけどんどんで大きくなった。ミーシャさんの父親はイギリス人移民のコミュニストだったから、英語が堪能だったというのも大きな理由である。
という次第であるが、彼はボブさんにさほど恩義を感じている様子でない。なぜなら、彼はボブという男をアメリカ側のスパイだと思っているからである。ボブとミーシャの取り決めで「ビジネス上、見聞きしたことをぜんぶ報告せよ」という条項があるから、彼はそのように疑っている。ビジネス上のドライな関係ってことでいいよね。くらいに思っているみたい。
こんな広告業界セレブのミーシャさんは、ある日、ボブの姪のカワイコちゃん、アビーさん(リーリー・ソビエスキー)に出会う。アビーという女はこれまた野心家であり「ロシア版『Extreme Makeover』みたいなテレビ番組をつくってガッポリ儲けたい」という作戦を考えているのであった。
Extreme Makeoverてのはabcの人気テレビ番組で、ブスデブの一般女に整形手術やらプロのメイクやらを施し、モデル美女に変えちまえっていうアレである。
ミーシャとアビーはビジネスパートナー兼恋人としてコンビになり、テレビ企画を成功させる。栄えある第一号のブスデブ女に選ばれたヴェロニカさんは「ロシア一幸運なデブ娘」として有名になったが、整形手術をやったら麻酔から覚めず、コーマ状態に陥る。
こうなるとテレビ番組はおしまい。ふたりは世間から非難を浴び、ふたりともスッカラカンになる。アビーさんはアメリカに帰国。ミーシャさんはモスクワから姿を消した。
さっぱりSFらしくないおしゃべりが続いているが、この映画、長いんですよ。これでまだ前置きです。もうちょっとしたらSF風になってきます。
6年後。
かつてモスクワでセレブな暮らしを送っていたミーシャさんは、どっかの田舎で牛飼いをやっている。ひとりぼっち。挫折した彼は世捨て人になっちまったようです。
そこにかつての恋人アビーさんがやってくる。彼女は彼を忘れられなくて、はるばる旅をしてやってきた。「もう一発ふたりでやろうじゃん」と誘うが、彼の方はまるでやるきなし。アビーさんは泣く泣く去る。
その後、まもなく、ミーシャさんは夢のお告げを得て、野原でへんな儀式をやる。大きなキャンプファイアーをつくり、赤い牛を置き、ボーボー火を燃やして、生け贄儀式みたいなことをやるんだが、後にわかったところによれば『the Sacrifice of the Red Cow』というもんだったそうな。
その後、彼はモスクワに戻り、アビーさんといっしょに暮らし始める。ここで彼は自分に息子がいたと知らされてびっくりする。アビーさんは6年前に妊娠してたんですな。3人家族はモスクワで新生活を始める。
ミーシャさんが離れているあいだにモスクワは様変わりしていた。そこらじゅうにアメリカのファーストフードがあって、人々はバーガーを食いまくっている。世の中デブだらけ。どうやらこの世では「デブこそ美しい」という新価値観が支配しているらしい。
そして、さらに驚くことに、ミーシャさんには見えないものが見える能力が備わっていた。バーガーをモリモリと食っている連中の体に奇怪な物質がぐにょぐにょと取り憑いているのが見えるのである。それはカラフルで悪趣味な巨大グミってかんじのへんな物質。まるで醜悪な資本主義の排泄物であるよう。それがどんどん大きくなって、ビルの上に張りつき、空を覆ってしまうほどに増殖しているんだが、これは彼の目にしか見えないのです。
やがて、まもなく、彼はこの世を支配する大きな力の存在について考えるようになる。自分が企画したテレビ番組でロシア人女性がコーマに陥ったことに端を発し、その後、世の中がこんな風に変わっちまったのは、ファーストフードチェーンの陰謀ではないか。おそろしく手の込んだシナリオをどこかの誰かが実行しているのではないか。
じつは、映画の中で、ときどきどっかの金持ち黒幕オヤジが出てきて、まさしく彼が想像した通りの場面が出てくる。だから彼の想像はじつに的を得ていたのであるが、そんなことは誰に言っても信じてもらえないよね。
アビーさんは愛想を尽かし、子供を連れて出ていってしまう。彼はまたひとりぼっちになってしまうが、孤軍奮闘し、再びビジネスの世界に返り咲く。チャイニーズ外食チェーンのマーケティング顧問となり、野菜中心のヘルシーさをウリにした商品を売る一方、バーガー企業を相手にネガティブキャンペーンを仕掛ける。国家を巻き込んでの大ケンカ。
昔の彼は「金持ちになりたい」一心だったけれども、現在の彼は「おれが世界を救うのだ」という一念である。彼はファーストフードを駆逐する事に成功し、さらにその矛先は外食チェーンにとどまらない。コンピュータやら高級車やら手当り次第に西欧ブランドを狙い撃ちしていく。世の中から派手な看板がどんどん消えていく。
彼の目には、例の『醜悪カラフル巨大グミオバケ』がいまだに見えているんだが、これが都会の空を駆け巡り、宇宙大戦争のような様相で、怪物同士が食い合いをやっている。なんだかものすごいスケールの陰謀SF映画です。
トレイラー動画
Branded (2012) trailer
感想
好き嫌いのわかれそうな映画であった。良かった点を挙げると、キャラの描き込みが秀逸という点かなと。描き込みが緻密なせいでずいぶん前置きが長いんだが、そこがあるからこそ、ミーシャさんという男がよくわかる。
彼の広告マーケティング手法はズバッとタイミングよく市場に切り込むところがじつに才能を感じさせるんだが、その下地はレーニンの国家建設手法にお手本を得ているらしい。レーニンはかつて「労働者には工場を与え、農夫には土地を与え、軍人には平和を与え」という調子で、簡潔明瞭な理論で国家を建設した。アレクサンドル・ロトチェンコに代表されるアーティストたちを起用し、秀逸なグラフィックデザインを世に出し、国家のあるべき姿を訴求した。
誰もレーニンの時代に戻りたいとは思わないが、当時のポスターのデザインは有名だし、いまでもデザイナーのお手本になってますよね。特にタイポグラフィの分野で傑作が多い。ミーシャさんもレーニンの手法をお手本にして、独自のマーケティング理論をつくったそうです。
キャラの描き込みが秀逸であることに加え、映画のあちこちで登場する看板のデザインやら巨大怪物のグニョグニョ造形も楽しい。AppleはYeppleになっててイチゴのロゴです。
ここらへんはおもしろいんだが、『ファーストフードの陰謀』という話がいまの時代には使い古された感がある。もしこの映画がペレストロイカの時代に発表されていたら、ものすごい物議を呼んだのではないか。ちょっと遅かったなあ。
意味深な演出や謎が多い。あの醜悪巨大怪物はなんなのか。夢のお告げはどこからきたのか。陰謀の黒幕オヤジはどこのどいつであるか。これらの疑問は放置されたままで終わる。
監督さん的には「そこらへんはみんなで議論してくださいよ」とネタを投げたつもりなのかもしれないが、まぁ、それは本人に聞いてみないとわからない。US版DVDには、監督さんのコメンタリがついている。それを聞いたら謎が解けるのかもしれないが、私はそこまで興味を持てなかったなあ。
DVDのオマケ
US版DVDのオマケはコメンタリとトレイラー↓
- Commentary With Writers, Directors And Producers Jamie Bradshaw And Alexander Doulerain
- Theatrical Trailer 1
- Theatrical Trailer 2
英語字幕つき↓
画像
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Branded | |
Marcado Kaubamärgistatud Красная корова Москва 2017 The Mad Cow The Red Cow | |
『ブランデッド』 | |
2012年 | |
アメリカ/ロシア | |
2012年9月7日 (ロシア) 2012年9月7日 (アメリカ) 2013年5月10日 (日本) (DVD) | |
imdb.com :: Branded |
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