!!!! SPOILER ALERT !!!!
!ネタバレ注意!
本ページは『映画|アンチヴァイラル|Antiviral』のネタバレ全開です。この映画の普通の(ネタバレのない)レビューはこちらにあります↓
ネタバレ結末
ハンナ・ガイストはじつは死んでなかった。その真相↓
彼女は何者かに命を狙われ、ウィルスを移植された。そのせいで病気になったが、家族と側近がどんなに調べても、敵が誰なのかわからず、治療法もわからない。再び狙われる可能性があるので、死を偽装し、攻撃を逃れたということであった。死んではいないが死にかけであるのは確かなので、側近とお抱え医師(マルコム・マクダウェル)は、時間を稼ぎながら、治療法を見つけたいと焦っている。
彼女にウィルスを盛ったのは、じつは、ルーカスクリニックのライバル企業Vole & Tesserの女社長(ウェンディ・クルーソン)なのだった。という話は徐々に明かされるんだが、まとめるとこんなかんじ↓
ルーカスクリニックがハンナ・ガイストと独占契約している限り、Vole & Tesserは万年2位。これを打開したい女社長は、バイオエンジニアリング技術を用いて、新ウィルスをつくり、パテント登録した上で、ハンナ・ガイストに盛った。実行犯は、背任で逮捕されたシドの同僚デレクである。デレクは肉屋のオヤジ → レヴィンという経由でVole & Tesserのために働いた。
この目的は暗殺でなく、もう少し複雑である。女社長はハンナ・ガイストから得られるウィルスに手を出せないが、そのウィルスがVole & Tesser所有であれば、話は別である。堂々と「ハンナ・ガイストのウィルス!」と宣伝し、売ることができる。これゆえにわざわざパテント登録をしたのであった。法律の穴を突いた汚いやり口に、ハンナさんは利用されたということで、彼女が死にかけるほど重態に陥ったのは予期せぬ事故だった。
こんなウラの事情を一切知らないシドは、デレクの後任としてハンナから血液を採取し、それを自分に注射したが、その後、彼の自宅の『ReadyFace』が壊れたのは、ウィルスが人工物であり、分析を試みると機械に障害を与える機能が働いたためである(マルコム・マクダウェルの台詞でわかる)。
シドはレヴィンにとっつかまったり、ハンナの側近医師から情報を得たりしながら、死にかけゲホゲホで動き回り、少しづつ真相に接近する。ここらへんの見せ方はスリリングでたいへんうまい。
最後。
後日追記(2013/02/26)。
これがあったほうがわかりよいので追記しました↓
シドは女社長がウィルスの治癒を持っていると知るが、見返りを求められる。タダでは治してくれない。
追記以上。
シドは女社長にハンナ死亡は嘘だったと教え、ハンナの側近に引き合わせる。女社長はハンナの治療法を提出し、その代わりに契約の交渉をすればいいんじゃないのという話だったが、これは決裂する。ハンナの症状が進みすぎて、治療不可能だったからである。
交渉が決裂するというのはシドにとって死を意味する。彼は頭を絞り、別の提案を行う。それは女社長にとってもハンナ側にとっても利益になる話だった。
最後の最後。
シドはVole & Tesserに移籍。女社長の片腕になる。同社の目玉新商品の紹介がなされる。ハンナ・ガイストはカプセルの中で生きながらえている。彼女はウィルスを培養するための肉塊になっちまった。以下は女社長の喜びのお言葉↓
「ウィルス側からすれば、人間性などは重要ではありません。ウィルスにとって好都合なシステムさえあればいいのです。AfterLifeカプセルの中で、ハンナ・ガイストの肉体は永遠に生き続ける。前世よりも長く生き続ける。これはあのステーキ肉とは違うんですよ。100%オリジナルです。さてさて、我が社のチープエンジニア、シド・マーチがハンナ・ガイストにウィルスを移植するところをご覧ください。これはまだほんの触りなんですよ。詳しくは、追って行われる新商品発表会においてアナウンスさせていただく運びになるでしょう」
招かれた者たちは興味深く見守る。プレゼンが終わって全員が引き上げたのち、ひとり残ったシドはこっそりハンナの血液をごくごくと飲む。恍惚顔。エロティックで変態的。
Syd: She's perfect somehow, isn't she?
シドは愛する女を永遠に手に入れてハッピーエンド。
おしまい。
感想再び
企業の陰謀に肉体を利用されたハンナさんであるが、映画の中では、彼女に対する同情的な描写は一切ない。シドは彼女を愛していたと思われるが(普通の『愛』とはちょっとちがうが)、彼が彼女を慰めたりする場面はない。また、この手の話に定番である「人間は神の領域に手を出してしまったのか!」なんつって苦悩する科学者なども出てこない。また、ハンナ側にとって女社長は憎むべき相手のはずだが、彼らが最後に面会する場面では、罵倒するような台詞はなく、淡々とビジネス口調で進行する。つまり、この映画では、『セレブとは消費されるのがその宿命』という視点が一貫している。これはじつによい点であります。
いくつかの疑問
疑問その1。
最後に出てきたハンナはもはや人間とは呼べないのではないか。あんな肉塊でウィルスを培養してファンは喜ぶのか。そんなものが商品になるのか。
私はこの疑問に対する答えとして、肉屋のオヤジの台詞を引用したい。最初の方の場面、シドが細胞ステーキ肉をながめて呆れたような口調で疑問を口にする。
「なぜこれがカニバリズムにならないのか不思議」
これは「なぜ人々は平然と受け入れているのか」という意味の問いだと思うが、これに対し、オヤジはこう返す↓
Arvid: Well, these are just muscle cells. It all depends on whether the human being is found in its materials. Right now the law tends towards something more religious, but we'll see what happens when we go from growing celebrity cell steaks to growing complete celebrity bodies. I'm looking forward to it. And with the proper funding, I could probably make that happen.
「これはただの筋肉細胞。(カニバリズムになるかどうかは)人間的なものがあるかどうかで決まる。いまの情勢では法律は宗教寄りになっている。でも、もしこんな肉塊でなく、セレブの肉体そのものだったら人々はどう反応するのか。楽しみだよね。資金さえあればできるんだがな」
このオヤジのいうことを延長し、大衆のオモチャであるセレブにはハナから人間性などはなかったと考えれば、ウィルスの培養マシンになっちまったハンナさんも、本質的には変わってないのではないか。要は売り方。エスキモーに冷蔵庫を売りつけるセールスマンの逸話が思い出されます。
疑問その2。
シドはどうやって治癒したのか。
女社長が「カネをかければなんとなるかも」といっていたので、彼をヘッドハントする見返りに治してやったのだろう。あの女社長は相当に狡賢い女狐だったので、もしかしたら最初から治療法を持っていたのかもしれない。
後日訂正(2013/02/26)。
女社長は最初から治療法を持っていたと明確に明かされていました。その会話↓
Syd: I wanna know if it can be cured.
Mira Tesser: I think so. However, producing a cure would be costly, and as you acquire the virus on your own, we feel no responsibility for your condition.
Syd: 治るのかどうか知りたい。
Mira Tesser: 治るよ。でもそれには見返りが必要。あなたは自分でウィルスを注射してそうなっちゃったんだから、私らの責任じゃないでしょ。
つまり、シドは女社長に金儲けの提案をして受け入れられた。その見返りに治してもらえた。ということでした。失礼失礼。
訂正以上。
疑問その3。
レヴィンさんはなにをやりたかったのか。彼は女社長の手先だからぜんぶ知ってたんじゃないのか。
レヴィンという男はシドを監禁し、その死にゆくさまを観察していた。ハンナ・ガイストは急死したので(嘘だったわけだが)、ファンたちは彼女になにが起きたのかわからない。そこを明らかにすれば、いっちょうカネ儲けできる。
という風に自分でしゃべっていたが、彼は本当にそのように考えていたんじゃないか。彼は女社長の手先だったが、陰謀の全貌は知らされてなかったのではないか。女社長のキャラからして「最低限の情報しか与えない」というのは理にかなっているように思える。
女社長はなぜ彼のために場所を提供したのかといえば、彼に勝手にやらせておいて、なにかおいしいもんが出てきたら、横から取り上げるつもりだったのではないか。
というのは私の想像であります。レヴィンと女社長がしゃべる場面はなかったので、真相はわからない。でもさ、だいたいこんなかんじだったとしたら、レヴィンという男も利用されたクチなんだが、彼は彼なりにウィルスを観察し、genderが関係しているんじゃないかとかなんとか自説を述べていた。なかなかおもしろいやつだったよね。
疑問その4。
ルーカスクリニックの社長さんはどうなったのか。
わからない。彼は極めてまっとうな商売人だったと思われ。自分の部下のデレクに裏切られ、シドもあっちにいっちまった。彼はシドのことをまるで疑っていないみたいだったし、口を開けば、チューリップの交配について講釈を垂れるという調子のオッサンであった。女社長に蹴落とされて、いまはどうしているんでしょうかね。
長々と私の解釈を述べてみましたが、なにか違うよってところがあったら教えてください。
後日追記(2013/02/26)。
疑問その5。
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