!!!! SPOILER ALERT !!!!
!ネタバレ注意!
本ページは『映画|Modus Anomali』のネタバレ全開です。この映画の普通の(ネタバレのない)レビューはこちらにあります↓
ほんとにネタバレですよ。
よろしいですか。
YOU ARE WARNED!!!!!!!!!!
ネタバレ結末
夜になる。
男は森に隠れていたが、ラジオの音に引き寄せられ、小屋を発見する。先に出てきた別荘風の小屋とは別のもの。ずっと粗末なかんじ。男は小屋の中でランタンを手に入れる。そこで足音が聞こえておそろしくなり、大きな箱に身を隠す。見えない敵は箱に火をつける。男は丸焼きされそうになるが、ギリギリ脱出。ランタンを持ち、再び森に隠れる。
ラジオの音というのは、誰かがセットしたアラームクロックなんだが、これはこの先もあちこちで出てきます。目覚まし時計はこの映画の重要アイテムです。
森の中で手術着姿のキラーの姿を目撃するが、それは幻視のようでもある。
男は最初の小屋にもういちどいってみる。死体は変わらずそこにあった。ビデオをよく見たら、惨殺シーンの他、普通の家族ビデオもあった。子供たちと奥さんが出てきた。財布の中にあった写真と同じ人物である。男の記憶は依然として戻らないが、この状況からして、自分は彼らの夫であり、父親なのだろう。妻は死んでしまったが、子供たちはどうしたのだろうか。近くに隠れているのだろうか。
部屋の中でアラームクロックが鳴りだしてギョッとする。音を止めたら、窓の外に再びキラーが出現。こんどはクロスボーを持ってこちらを見ている。男は、妻の殺害に使われた武器、大きなナイフをつかんで、再び森に逃げる。矢を射たれて負傷する。ひーひーいって逃げる。
同じ頃、子供たちも森の中にいた。彼らはパパを探している。男も子供たちを心配しているが、その姿は見えない。子供たちを守らなくちゃ。キラーを倒さなくちゃ。と動き回るが、結局、不幸な偶然により、男は自分で子供たちを殺してしまう。男は嘆き悲しむ。
朝。
森のどこかでアラーム音がする。いってみたら、知らない男の死体が埋めてあり、死体の胸にメッセージがあった↓
GO BACK TO THE BEGINNING
最初に戻れ
これに従い、男は自分が埋められていた場所に戻ってみた。するとそこには、『TRUTH(真実)』と書かれた箱があった。中には注射器。男はそれを自分に注射する。ガガーと苦しみ、ブッ倒れ、いくばくののち、パカッと目を覚ます。
目を覚ました男は別人のようなつらがまえである。一仕事終えたような満足げな顔つき。どうやら記憶が戻ったらしい。いったいこれはなにを意味するのか。映画を観る私たちにはさっぱりわからない。
男は森を歩いて、隠しておいた自分の車を見つける。これに乗って家に帰るらしい。車の中には男を含めた3人家族の写真があるが、先に出てきた家族とは別人である。
男は車を運転しつつ、妻に電話をし「いまから帰るよー」てなことをいう。出張先からかけているような雰囲気。この会話シーンでは、彼の息子もチョロッと出る。息子はパパにアラームクロックのおみやげを買ってきたそうな。男は時計フェチ(ていうのかね)みたい。この場面の彼は、じつに優しげなパパぶりである。
彼はうれしげに山道をドライブしていくんが、途中で知らない家族に出くわす。こちらは、山小屋に着いたばかりの4人家族。夫婦と息子ふたり。男は注意深く彼らを観察したのち、汚れた服を着替え、隣人を装って声をかけ、やぁこんにちは、とかいいつつ、夫をバットで殴り殺す。ファニーゲーム風。
妻と息子ふたりは殺さない。彼らを昏倒させ、睡眠薬で眠らせる。彼らのビデオカメラに記録された映像を眺め、夫が写っているものはすべて消す。んで、自分が夫になりきった台詞をしゃべって録画する。あとから見れば、この男が夫なんだなと思えるようにですね。
んで、キラーの手術着に着替え、妻を覚醒させ、残忍に殺す。そのようすを録画するが、自分の顔は写さない。夫の死体の胸にメッセージを刻み、クロックといっしょに適当な場所に埋める。眠る息子ふたりには武器と置き手紙を残す↓
おまえらが森を離れたり、警察を呼んだりしたら、父親を殺す。父親を助けたかったら、おれを捕まえて、殺すがいい。父親はある場所に監禁されている。その鍵はおれの体の中にある。おれを見つけて殺せ。
ここまでやったら準備完了。男は妻に再び電話し「仕事が伸びた。もう一日待っていてほしい。ごめんよハニー」とかいう。電話のメモリを全削除。地面に穴を掘る。自分に薬物を注射し、うれしげに以下の台詞をいう↓
Wilder paranoia this time, please! Give me some motherfucking monsters!
いっちょう強烈なパラノイアを頼むぜ。モンスターども、かかってきやがれ。
地面の穴に入る。その頭上から土が落ちてくる仕掛けになってて、自分で自分を生き埋めにする。
おしまい。
てわけで、つまり、このキラーは、故意に自分の記憶をなくし、「山小屋でキラーに襲われ、妻を殺された。なんとしても子供たちを助け、ピンチ脱出せねばならない不幸男」の役割を演じて楽しむ『なりきりモードのサバゲーマニア』だったのでした。よくやるわ。
疑問点いくつか
上に書いたネタバレは私が思いついたセオリだが、この映画は疑問点が多いので、もしかしてハズしているのかなという気もする。以下、疑問点です。
1) 注射薬について一切説明されない。これの効能は「記憶を消す(プラス幻覚剤?)」「記憶を戻す」というものらしいと想像されるが、そんな都合のいい薬物ってあるんだろうか。
2) 不確定要素が多すぎるのではないか。上のあらすじでは省略したが、男は生き埋めから脱出したあと、ポケットに電話を発見した。警察に緊急コールして助けを求めたが、そこで、自分の名前を覚えていないことに愕然とし、電話を切ってしまう。でも、あのとき彼がこういいだす可能性だってあるではないか。「あー、わたし、自分の名前もわからなくて困っています。目が覚めたら土の中だったんですよ。助けてくださいよ」なんていいだしたら、男が意図したようなサバゲー展開にならないではないか。
3) 森に出現した手術着姿のキラーはナニモノであるか。あるときには幻視のようであり、また、あるときには子供の姿が彼にはあのように見えている風でもある。キラーの出現はアラーム音と呼応しているようだった。あれはどうしてなの?注射した薬物がそういう効果をもたらしているの?薬物の効能書きの中に「見るもの聞くものが敵に見える」というのがあるのかな。
4) 幻視なのか、子供の姿がキラーに見えていたのか、どちらにしても話が通らない。幻視が火をつけたり矢を射ったりすることはない。また、もし、矢を放ったのが子供なら、その後の子供たちの会話は、キラーを相手に闘った直後であるようには見えない。また、火を放ったのが子供であるなら、そこでトドメを刺さないのがへん。
5) 男が第一の小屋で家族ビデオを見る場面。本当のパパの姿は削除されており、最後に自分の顔が出ていかにも「おれはこいつらのパパなんだな」と思えるようなつくりになっているが、家族ビデオの中で聞こえるパパの声は、明らかに主人公の男の声と同じである。これはおかしいのではないか。男の耳にはそのように聞こえた、としか解釈のしようがないが、それは少々都合がよすぎるのではないか。
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2) の疑問についていえば「これは狂ったギャンブル行為である。記憶をなくした状態で意図しない行動を起こすかもしれないが、それも含めて、ギャンブルである」と解釈できる。でも、他の疑問は解けない。わかるひとは教えてください。
男の動機
とまァ、疑問は尽きないが、それはさておき、男の動機について考えてみたい。最後の台詞からして「EXTREMEなスリルを味わいたい」というのが最大の動機なんだと思うが、もう少し深読みをしてみる。
男は常に『パパ + ママ + 子供たち』という構成の家族を狙う。パパは一番先に殺す。ママを殺害するようすをビデオに撮影する。子供たちは生かし、サバゲーの相手役にする。さらにゲームをガチにするため、自らの記憶を消す。真に役になりきるのであります。
彼は『闘うパパ』に憧れているんじゃないですかね。悪人と闘って子供たちを救うパパ。心からそんなキャラに没入したい。森で暴れたい。こんな彼の狂気を見るにつけ、私は『ジャック・バウアー症候群』と呼びたくなった。森で怯える子供たちが、テロリストに拉致されたエリシャ・カスバートに見えてきませんか。
「『闘うパパ』になりたい!」という欲望を持つと同時に、「そんな英雄パパはいないのだ。おれがみんなにわからせてやる」というきもちが根底にあるようにも思える。
彼は偶然に子供たちを殺してしまったけれど、もし最後のアラームが鳴るまで子供たちが生きていたら、どうなっていただろうか。おそらく男は記憶を取り戻したあと、子供たちを残忍な手法で殺すのだろう。そのときには、子供たちの絶望顔を見て大喜びするのだろう。
「ほらほら、パパがきましたよ。パパがおまえらをブッ殺しちゃうよウケケ」てなことをいうと、子供たちは「ちがうー!パパじゃなーい!」とかいって、泣き叫ぶわけです。これをやりたかったんじゃないのかな。なんかすごいじゃん?
と考えると、あの偶然は、彼にとって、予期せぬ誤算だったのだろうけれども、そこも含めて、このギャンブルはおもしろいなあ、とますますハマっていくのかなと。
また、男は『母親』という存在に対しおそろしく冷淡であるという点は興味深く、不気味であります。母親を殺し、その場面を録画をするのは、以下の理由だけであるように思えた↓
- 子供たちに憎しみを与えるため
- 『妻を理不尽に殺された気の毒男』になりきるため
母の死はゲームに華を添えるスパイス的なもの。『母への愛憎』というような複雑心理などは一切ナシ。という印象だった。これはおそろしい。
ここで思い出されるのは、監督さんがインタビューで話したこと「ぼくは観客に対し、最低限の情報しか与えない。観客は自由に想像してほしい」という話です。ありがちな回想場面(子供時代にどうしたとか)などは一切ナシで、男の動機を観客の想像に任せた、という点は清々しくてよかったです。
とまァ、私なりに解釈をしてみましたが、どうですかね。
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